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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第42話:世界の裏地図と、五分の同盟

第42話:世界の裏地図と、五分の同盟

 数日後。迷宮第4層の迎賓の間に、幻想的な光景が広がっていた。

 部屋の中央に置かれた大理石の円卓。その周囲の空間がぐにゃりと歪み、五つの巨大な幻影ホログラムが浮かび上がっている。

 威厳に満ちた『古竜』、深淵を覗かせる『リッチ(不死の王)』、妖艶な『夢魔』、巨岩のような『土塊の巨人』、そして森の深奥を感じさせる『古代エルフ』。

 彼らこそ、五百年の歴史を持つダンジョンマスターの派閥『悠久の賢人会』のトップ五人であった。

 円卓の手前には、迷宮の主であるシンと、内務卿ガストン、守備隊長レオンハルト。そして立会人として迷宮に滞在していた吸血鬼の真祖・ヴィクトリアが控えている。

『――直接顔を合わせるのは初めてだな、若きマスターよ。我々が賢人会だ』

 古竜の議長が、空気を震わせるような重低音で口を開いた。

「初めまして。俺が『深緑の無名奈落』のマスター、シンだ。わざわざ出向いて(通信を繋いで)くれて感謝する」

 シンは五人の圧倒的なプレッシャーを前にしても、全く臆することなく堂々と応じた。その肝の据わった態度に、賢人たちの幻影が微かに揺れる(感心している)のが分かった。

『単刀直入に入ろう。貴殿からの要望であった「世界の裏地図」の共有だ』

 リッチが杖を振ると、円卓の上に大陸テラ・マグナの巨大な立体マップが投影された。

 そこには、人間の国家とは全く異なる「光の点」が打たれていた。

 大陸の四隅の最果てに、静かに、しかし巨大な光を放つ青い点が五つ。これが『悠久の賢人会』の迷宮だ。彼らは人間と交わらない辺境に根を張っている。

 そして――大陸の中央部から、シンのいる『大深緑の迷い森』に向けて、毒々しい赤い点が「十五個」も点在していた。

『赤い点が、侵略を是とする戦闘狂の派閥「暴食の狂宴」の迷宮だ。見ての通り、奴らは人間の国家のすぐ近く、あるいは地下に巣食い、常にリソースを喰い荒らしている。そして今、奴らの意識は急速に拡大を遂げた貴殿の迷宮に向きつつある』

 夢魔のマスターが、赤い点のうち、森に最も近い二つの点を指差した。

『このままでは、遠からず十五の迷宮による一斉侵攻を受ける。……我々賢人会の傘下に入りたまえ。さすれば、我々の武力をもって奴らを牽制してやろう』

 古代エルフが静かに提案するが、シンは首を横に振った。

「あんたらの保護の傘に入るつもりはない。……俺が結びたいのは、互いに干渉せず、有事の際には背中を預け合う『五分ごぶの同盟』だ」

『……五分の同盟、だと?』

 土塊の巨人が低く唸った。

『五百年の歴史を持つ我らと、生まれて半年の貴殿が「対等」であると申すか?』

「ああ」シンは一切怯まない。「俺の迷宮の立地を見てくれ。俺がここにいる限り、赤い点(暴食の連中)は俺に釘付けになり、あんたらの青い点には手を出せない。俺が『防波堤』になる。その代わり、あんたらからは情報と、必要な時の後方支援を引き出させてもらう。……完璧なウィンウィン(対等)だろ?」

 静寂。

 数秒の後、古竜の議長が腹の底から響くような大笑いを上げた。

『カッカッカッ! これは痛快だ! 自らを防波堤とする代わりに、我ら五百年の古参を「都合の良い情報源と後方支援」として扱う気か!』

「嫌なら、俺一人で奴らを相手にするだけだ。……もっとも、俺が喰われれば、次はあんたらの番だがな」

『……よかろう。貴殿のその覇気と知略、確かに我らと対等に渡り合う器だ。賢人会は、貴殿の迷宮と「五分の同盟」を締結する!』

 かくして、新参の大迷宮と、五人の古き王たちによる対等な同盟が結ばれた。

 ガストンとレオンハルトは、シンの交渉術に内心で冷や汗を拭っていた。

「同盟が結べたところで、さっそく軍議に入りたい」

 シンは立体マップに身を乗り出し、森に最も近い二つの「赤い点」をドンッと叩いた。

「敵が十五の迷宮で連携し、一斉に攻めてくるのを待つ気はない。連中の足並みが揃う前に……俺から、この最も近い二つの迷宮へ『同時侵攻』を仕掛ける」

『『『なっ……!?』』』

 賢人たちの幻影が、今度こそ驚愕に大きく揺らいだ。

 防御を固めるのではなく、いきなり敵のダンジョン二箇所に先制攻撃を仕掛ける。しかも同時。ダンジョンの歴史においても類を見ない、極めてアグレッシブな暴挙にして奇策であった。

『……正気か? ダンジョンの内部は、マスターにとって絶対有利の領域。そこへ外から攻め入るのは、通常の戦争の十倍の戦力と困難を伴うぞ』

 リッチがたしなめるように言う。

「だからこそ、準備が必要なんだ。あんたら情報通に聞きたい」

 シンは真剣な眼差しで賢人たちを見回した。

「レオンハルトたちの武力と、エルフやキュウビの魔法・幻術は揃っている。だが、敵の迷宮の強固な壁や地下通路を強引にこじ開ける『攻城戦・地下掘削』に特化した魔物の手持ちが足りない。……有用な仲間になれる、強力な魔物の種族に心当たりはないか?」

 賢人たちは顔を見合わせた。やがて、リッチがホログラムの地図の一部を拡大した。

『……ならば、西の岩山地帯に生息する「鋼断の蟻人アイアン・アント」の群れを探すといい。彼らの顎は鋼鉄の防壁すら紙のように噛み砕き、地下に新たな道を作る掘削の達人だ。誇り高く、人間には決して従わぬ種族だが……貴殿のその不遜な交渉術ならば、あるいは引き入れることができるやもしれん』

「鋼断の蟻人か。最高の情報だ、感謝する」

 シンは満足げに頷き、レオンハルトとガストンを振り返った。

「聞いたな。さっそくスカウト部隊を編成して西の岩山へ向かう。ガストンは出兵の物資準備、レオンハルトは二つの部隊を統率する指揮官の選定だ」

「「はっ!!」」

 通信が切れ、静寂が戻った迎賓の間。

 五分の同盟という最強のカードを手に入れたシンは、いよいよ『同業者』の喉首を掻き切るべく、未知の魔物のスカウトと、前代未聞の「二箇所同時ダンジョン侵攻」への準備を力強く開始したのであった。

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