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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第37話:看破された影と、静かなる兵糧攻め

第37話:看破された影と、静かなる兵糧攻め

 大深緑の迷い森、『深緑の無名奈落』の巨大な入り口。

 今日も迷宮には、迫害から逃れてきた異種族や、噂を聞きつけて一攫千金を狙う冒険者など、様々な者たちが訪れていた。

 その列の中に、ボロボロの衣服を纏った五人の人間の難民グループがいた。

 彼らは怯えたように身を寄せ合いながら、迷宮の入り口に立つ受付のゴブリンの前に進み出た。

「あの……私たちは、南の国から戦火を逃れてきました。どうか、この迷宮で保護していただけないでしょうか……?」

 リーダー格の男が涙ながらに訴える。

 その演技は完璧だった。声の震え、瞳の絶望、筋肉の疲労具合に至るまで、完全に「命からがら逃げ延びてきた難民」そのものだ。

 彼らこそ、城塞都市アインガルドの吸血鬼マスター・アーランドから差し向けられた、姿形を完璧に模倣する魔人・ドッペルゲンガーの潜入部隊であった。

(ふふっ、チョロいものだ。このまま懐に潜り込み、夜に乗じて幹部どもを暗殺し、結界の要石を破壊してやる……)

 リーダーが内心で舌舐めずりをした、その瞬間だった。

「キュイッ!」

 迷宮の奥から、一羽の白兎テトが弾丸のような速度で飛び出してきたかと思うと、男の顔面に向かって強烈なドロップキックを見舞った。

「がぶっ!?」

 男が吹き飛ぶと同時に、頭上の暗闇から白い粘糸の網が降り注ぎ、難民に化けていた五人を一瞬にして床に縫い付けた。

「な、なんだ!? 難民に乱暴をするのか!」

「往生際が悪いですよ、泥棒猫さんたち」

 粘糸の奥から、アラクネの女王セリアが艶然と微笑みながら姿を現した。

「マスターのコア(ルリちゃん)の魔力探知と、テトの気配察知を舐めないことですわ。あなたたちからは、完全に『別のダンジョンコア』の不純な魔力の匂いがします。化けの皮、剥がして差し上げますわ」

 五人のドッペルゲンガーたちは驚愕した。

 彼らの絶対の自信である「完璧な偽装」が、潜入からわずか十秒、ただ入り口のシステムを通過しようとしただけで看破されてしまったのだ。

 こうして、アーランドの陰湿な工作部隊は、迷宮の敷地を三歩しか歩くことなく、あっけなく簀巻きにされて捕獲されたのであった。

 ***

 数時間後。迷宮第4層の戦略会議室。

「……なるほど。南東の小国、『城塞都市アインガルド』の地下に潜む吸血鬼のダンジョンマスター、アーランドの差し金か」

 シンは、尋問の報告書をテーブルに放り投げた。

 幻惑狐キュウビの『精神探査の幻術』にかけられたドッペルゲンガーたちは、何の抵抗もできずに自分たちの雇い主と、アインガルドの恐るべき真実(都市そのものがダンジョンの第1層であること)をすべて吐き出していた。

「同じダンジョンマスターによる、明確な敵対行為ですね」

 内務卿のガストンが顔をしかめる。

「我々が派手に動きすぎたせいで、自分の隠れ蓑が剥がれることを危惧したのでしょう。非常に自己中心的で、厄介な相手です」

「マスター、俺の『迷宮守備隊』を出撃させてください。獣人連邦のガラン将軍にも声をかければ、数万の軍勢でアインガルドを物理的に包囲・粉砕できます」

 レオンハルトが力強く進言するが、シンはゆっくりと首を横に振った。

「武力による討伐は却下だ。……アインガルドの地表に住んでいる数万の人間たちは、自分たちの都市が魔物の巣窟だとは知らずに、ただ普通に暮らしているんだ。俺たちが大軍で攻め込めば、事情を知らない彼らは恐怖に怯え、間違いなく多大な犠牲が出る」

 シンの言葉に、レオンハルトはハッとして口をつぐんだ。

「そのアーランドって吸血鬼は、地表の民間人から少しずつ『魔力とDP』を搾取して引きこもっている。なら、俺たちがやるべき一番効果的で、血の流れない反撃は一つだ」

 シンは地図上のアインガルドを指差し、不敵な笑みを浮かべた。

「アインガルドの住民を、俺たちの手で『全員引き抜く』。敵のDP源(人口)を完全に枯渇させる、究極の兵糧攻めだ」

「なっ……民間人を丸ごと引き抜く、ですか!?」

 ガストンが驚きに目を見張る。

「ああ。もちろん、無理やり拉致するわけじゃない。同盟国である『商業共和国ヴァロワ』のアルベールに協力を仰ごう。彼の商会ネットワークを使って、アインガルドの周辺に『莫大な資金』を投資するんだ。新しい商道を開拓し、超高待遇の雇用条件を提示して、アインガルドの住民たちに『外の世界の豊かな生活』をチラつかせる」

 ダンジョンであるとバレないよう、アインガルドは外部との接触を制限し、閉鎖的な環境で民衆を飼い殺しているはずだ。

 そこに、圧倒的な経済力と、自由で豊かな生活(あるいは迷宮や同盟国への移住)の誘惑を叩きつける。より良い生活を求めて民衆が国を捨てれば、アーランドの迷宮は文字通り「空っぽ」になり、干上がる。

「武力ではなく、圧倒的な資本と経済力による国の解体……! なんというえげつない……いや、鮮やかな策ですか」

 商人の心理を知り尽くしたガストンが、感嘆の吐息を漏らした。

「同業者なら、ルールの裏を突いたやり方で潰してやらないとな。ガストン、すぐにヴァロワのアルベールと、聖王国の残存ネットワークに通信を繋いでくれ。……アインガルドの周りを、金と仕事の匂いで包囲するぞ」

 武力、幻術、情報に続き、ついにシンの迷宮は「資本主義」という最強の武器を他国へ向けた。

 暗闇で何十年も息を潜めていた老獪な吸血鬼はまだ知らない。自分が喧嘩を売った相手が、剣ではなく「経済の波」によって、自らの城を根底から解体しにくる怪物であることを。

 血を流さない、しかし最も残酷な『ダンジョンマスター同士の戦争』が、今静かに幕を開けたのである。

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