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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第25話:深緑の会談と、解放の誓い

第25話:深緑の会談と、解放の誓い

 大深緑の迷い森の中心、『深緑の無名奈落』第4層。

 この日、シンが多量のDPを消費して錬成した白亜の『迎賓の間』には、森の歴史が始まって以来の、最も重要な来客が訪れていた。

「……素晴らしい空間です。魔物の迷宮でありながら、これほどまでに清らかで、温かな魔力に満ちているとは」

 透き通るような金髪に、神秘的な翡翠の瞳。

 樹海王国アルフヘイムを統べるエルフの女王、エルフレイアである。彼女は用意された大理石の円卓に腰を下ろし、迷宮の主であるシンに深く頭を下げた。

「シン殿。帝国と聖王国の脅威を、森を傷つけることなく退けていただいたこと、森の民を代表して心より感謝申し上げます」

「顔を上げてください、女王陛下。エルフの皆さんの完璧な『分断と誘導』のサポートがあったからこそです。俺たちの方こそ、感謝していますよ」

 円卓には、シンの傍らにレオンハルトとガストンが、女王の傍らには使節長のリリアが控えている。

 この会談の最初の議題は、両国の間に正式な『不可侵および相互協力の盟約』を結ぶことだった。エルフは迷宮の防衛と森の隠蔽を助け、迷宮はエルフの里に外敵を寄せ付けない『絶対の盾』となる。盟約は極めてスムーズに、かつ和やかに結ばれた。

「盟約の証、そして両国の架け橋として、私から一つお願いがございます」

 エルフレイアが、隣に立つリリアを見つめた。

「リリアを含む数名のエルフを、この迷宮の『駐在大使』として、おそばに置いていただけないでしょうか。……彼女たちは、すでにこの迷宮の豊かな生活と、シン殿の器の大きさにすっかり心を奪われているようでして」

 女王が優しく微笑むと、リリアは長い耳を真っ赤にして俯いた。

「俺としては願ってもない申し出です。彼女たちの風の魔法や知識は、迷宮にとって得難い宝ですからね。大歓迎します」

「ありがとうございます。……さて」

 エルフレイアは表情を引き締め、静かに、しかし悲痛な響きを帯びた声で切り出した。

「今日、私が自ら足を運んだ最大の理由は、シン殿に『ある手助け』をお願いしたかったからです」

「手助け、ですか?」

「はい。……西の帝国や、東の聖王国をはじめとする人間の国々。そこでは今も、森で狩られたエルフや、獣人、ドワーフたちが『不法な奴隷』として虐げられています。見世物にされ、過労で命を落とす彼らの悲鳴が、風に乗って私の元へ届くのです」

 女王の言葉に、ガストンが重々しく頷いた。

「女王陛下の仰る通りです。聖王国では『不浄の獣』と蔑みながらも、劣悪な環境での労働力として他種族を酷使している。帝国では魔導機械の『生体部品(実験体)』として消費されている……。表向きは禁止されていても、裏社会の奴隷売買は野放しです」

「私たちエルフも、これまで幾度か救出部隊を出しました。ですが、正面から国に介入すれば、森全体を巻き込む大戦争になってしまいます。……シン殿。貴方の持つその強大な武力と、隠密の手腕で、罪なき彼らを救い出していただけないでしょうか?」

 エルフレイアが、懇願するようにシンを見つめる。

 それは、一歩間違えれば人間の国家すべてを敵に回す、泥沼の戦いへの誘いだった。

 しかし、シンは迷うことなく、不敵な笑みを浮かべた。

「引き受けましょう。俺の迷宮は、まだまだ広げられますから」

 あまりの即答に、エルフレイアがわずかに目を丸くする。

「……よろしいのですか? これは、これまでの防衛戦とは違い、人間の国に自ら牙を剥く行為です」

「ええ。俺は元々、あの身勝手な連中(帝国や聖王国)のやり方が気に入らないんですよ。それに、有能な人材なら種族を問わず、いくらでも歓迎するのが俺の『ダンジョン経営』の方針です。鎖に繋がれている連中を全員解放して、この迷宮の住人(DP供給源)にしてやりますよ」

 シンの言葉の裏にある、不器用で、しかし底なしの『慈悲』。

 エルフレイアは感極まったように胸に手を当て、「おお……大精霊に感謝を。貴方のような御方が、この森に現れてくださったことを」と涙ぐんだ。

「ただ、奴隷を奪還するとなれば、敵の懐に潜り込む隠密作戦が主になります。いくら同盟を結んだとはいえ、毎回エルフの皆さんに幻術のサポートを頼むのは、負担が大きすぎる」

 シンは腕を組み、女王に尋ねた。

「女王陛下。この森に、エルフのように……いや、それ以上に『幻術や隠密』に特化した魔物は生息していませんか? 彼らを仲間に引き入れ、奴隷救出の『特殊部隊』を編成したいんです」

 シンの理にかなった配慮と戦略に、エルフレイアは驚き、そして頼もしそうに微笑んだ。

「……ええ、心当たりがあります。大深緑の迷い森、その最も日が差さない『幽谷の地』。そこには、見る者の精神を操り、完璧な幻影を作り出す幻獣――『ミラージュ・フォックス(幻惑狐)』の群れが生息しています。彼らは非常に警戒心が強く、私たちエルフでも滅多に姿を見られませんが……」

「ミラージュ・フォックス。名前からして頼もしそうですね」

 シンは傍らに立つテト(白兎)と、ガルム(ホブゴブリン)に視線を向けた。

「ガストン、奴隷の輸送ルートと市場の情報を洗い出してくれ。レオンハルトは部隊の再編を。俺たちはこれから、新しい仲間を『スカウト』しに行く」

 奴隷解放という新たな大義を背負い、迷宮はついに自ら外の世界へと手を伸ばす。

 虐げられた者たちを救い出し、すべてを飲み込む優しき大迷宮の『反撃レコンキスタ』が、今まさに始まろうとしていた。

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