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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第18話(閑話):愚者の軍議と、慈悲深き魔王

第18話(閑話):愚者の軍議と、慈悲深き魔王

 魔導帝国ゼノス、帝都。

 宮廷魔導観測所の薄暗い会議室には、筆頭魔導師ゾルタンと軍の将官たちが集まり、もたらされたばかりの凶報――いや、彼らにとっては『朗報』に沸き立っていた。

「ハハハハッ! 聞いたか! あの聖王国ルシリスの誇る聖騎士団が、迷宮の浅層で大半の兵力を失い、尻尾を巻いて逃げ帰ったそうだ!」

「なんでも、自ら持ち込んだ特級聖水で足を滑らせ、罠の餌食になったとか。無能にも程がある!」

 将官たちが下品な笑い声を上げる中、ゾルタンは目をギラギラと輝かせた。

「聖王国の馬鹿どもが自滅してくれたおかげで、大深緑の迷い森の中心にある『コア』は無傷で残された! やはり、迷宮を制するのは我が魔導帝国の兵器だ。前回の先遣隊(レオンハルトの部隊)が敗れたのは、単に兵数と火力が足りなかっただけのこと!」

 迷宮の恐ろしさを全く理解していないゾルタンは、机をバンッと叩いた。

「第二次討伐隊を編制する! 兵数は前回の三倍、三百名! さらに、最新鋭の重魔導アーマーと攻城兵器を惜しみなく投入しろ! 罠ごと迷宮を物理的に粉砕し、コアを帝都へ持ち帰るのだ!」

 勇ましい掛け声が会議室に響き渡る。

 ――だが、彼らはやはり気づいていなかった。その会議室の換気口に、一枚の『世界樹の葉』が不自然に舞い込み、彼らの言葉を余すことなく記憶していたことに。

 ***

『――というわけです。帝国は三倍の兵数と、さらに重武装の部隊を差し向けてきます』

 迷宮第4層、マスターズ・チェンバー。

 エルフの斥候ファエルがもたらした帝国の軍議の内容に、エルフの使節長リリアは渋い顔をした。

「三百名の重装兵……。いかに我がエルフの幻術で分断・遅延させようとも、彼らが森の木々を伐採し、力任せに進軍してくれば、森への被害は免れません」

「ええ。それに第1層の罠も、数の暴力で押し切られる可能性がありますね」

 俺が腕を組んで考え込んでいると、背後に控えていた魔導剣士レオンハルトが、苦渋に満ちた表情で口を開いた。

「……申し訳ない、シン。俺の祖国が、貴様らの安息を……」

「お前が謝ることじゃないさ、レオンハルト」

 俺は振り返り、彼を真っ直ぐに見つめた。

 帝国軍をどうやって迎撃するか。罠を増やすか、魔物を増やすか。……いや、その前に一つ、どうしても確認しておかなければならないことがあった。

「レオンハルト。お前に一つ聞きたい。……今回攻めてくる部隊の中に、お前の教え子や、腹心の部下など『無闇に殺したくない者』はいるか?」

「え……?」

 突然の問いに、レオンハルトは虚を突かれた顔をした。

「お前が迷宮ここに下ったと知れば、帝国はお前を裏切り者として扱うだろう。お前が信頼し、お前を慕っていた部下たちはどうなる? それに……お前や、ここで降伏した他の兵士たちに、帝国に残してきた『家族』はいないのか?」

 俺の言葉に、レオンハルトの屈強な体がビクッと震えた。

 彼はギリッと唇を噛み締め、やがて絞り出すように答えた。

「……います。俺には、妻とまだ幼い娘が。それに、他の部下たちも……。帝国の軍人は、家族を帝都の『居住区』という名の監視下に置かれ、人質にされているも同然なのです。俺たちがここで寝返ったと帝国に知られれば、家族たちは間違いなく粛清(処分)されます」

 だからこそ、前回の彼は「帝国兵は歯車だ」と自嘲し、死を覚悟していたのだ。

「……マスター。もしや、貴方は」

 リリアがハッとして俺を見る。俺は静かに頷いた。

「防衛作戦の前に、やることが決まったな」

 俺はルリが投影する周辺国の地図を開き、帝都ゼノスの位置を指差した。

「リリア殿。エルフの隠密術と風の魔法を使えば、帝都の居住区から、一般人の女子供を数十人規模で『密出国』させることは可能か?」

「! ……容易ではありませんが、不可能ではありません。帝都の警備は魔力感知に偏っているため、自然と一体化する我々の隠密術なら潜り抜けることは可能です。……ですが、まさか」

「ああ。レオンハルトとその部下たちの家族を、帝国が気づく前に救出し、このダンジョンへ移送(お引っ越し)させる」

 俺の宣言に、レオンハルトは息を呑み、目を見開いたまま固まった。

「さらに、今回の防衛戦だ。リリア殿には前回同様、部隊の分断をお願いしたいが……今回は『レオンハルトと親しい部下がいる小隊』をピンポイントで孤立させ、第3層へ誘導してほしい」

「誘導して、どうするのです?」

「そこでレオンハルト自身が接触し、彼らを『説得』する。……お前たちの家族は既に俺のダンジョンで保護している。帝国の使い捨ての駒になるのはやめて、家族と一緒にこの迷宮で暮らせ、とな」

 ただ敵を全滅させるのではない。

 殺すべきでない者を選別し、家族ごと救い出し、自らの陣営に引き入れる。DPの確保(居住者の増加)という合理的な側面もあるが、何よりもそれは、帝国の非道を根底から覆す『救済』だった。

「シン……貴様、正気か……? 敵国の兵士の家族まで、この迷宮に保護するというのか……っ!?」

「第4層の居住区はまだまだ広いからな。それに、人間の住人が増えれば、ログの料理のレパートリーも増えるかもしれないだろ?」

 俺が冗談めかして言うと、レオンハルトはついに耐えきれなくなりその場に崩れ落ちた。

 大柄な魔導剣士が、顔を両手で覆い、肩を震わせて咽び泣いている。

「ああ……っ、なんということだ……。帝国は我々を道具としか見なかったというのに……。魔物である貴様が、どれほど……どれほど慈悲深いことか……ッ! この命、いや、我が一族の魂すべてを懸けて、貴様に忠誠を誓おう……我がマスターよ……!!」

 床に額を擦りつけ、慟哭とともに忠誠を誓うレオンハルト。

 その光景を見ていたリリアとエルフたちもまた、自らの胸に手を当て、深い畏敬の念をもって俺に頭を下げた。

「シン殿。貴方は本当に、恐ろしくも……優しきお方だ。我らアルフヘイムの誇りにかけて、必ずや御家族の救出と、部隊の誘導を成し遂げてみせましょう」

 魔王の慈悲が、迷宮の住人たちを一つに結びつけた。

 帝国の愚かな三百の軍勢は知らない。彼らが攻め込もうとしている場所が、もはやただの洞窟ではなく、強固な絆で結ばれた『無敵の国家』へと変貌を遂げていることを。

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