表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/132

第15話:寝返りの魔導剣士と、新たな剣

第15話:寝返りの魔導剣士と、新たな剣

『マスター! エルフの幻術と第1層の罠によって部隊の三分の二を失った帝国軍先遣隊が、ついに森からの撤退を開始しました!』

 第4層のマスターズ・チェンバーに、ルリの弾むような声が響き渡った。

 映像には、ボロボロになった少数の兵士たちが、這々の体で森の外へと逃げ帰っていく姿が映っている。

「よし、深追いはしなくていい。エルフたちにも感謝の念話を伝えておいてくれ」

『はいっ!』

 ひとまずの勝利だ。だが、これで帝国が諦めるとは思えない。次はさらに強力な本隊を送り込んでくるだろう。

 俺は立ち上がり、第3層の『捕虜収容所』へと向かった。

 第2層でセリアの糸に絡め取られ、「生体バッテリー」として天井に吊るされていた数十名の兵士たち。俺はセリアに命じ、彼らを一旦解放して第3層の牢屋へと移送させていた。

 殺伐とした帝国軍の野営地よりも遥かに清潔で、温かい食事が提供されるこの「牢屋」に放り込まれた兵士たちは、一様に毒気を抜かれ、呆然としているらしい。

 俺は、一番奥の特別牢にいる男――魔導剣士レオンハルトの前に立った。

「体の調子はどうだ、レオンハルト」

「……シン、か。お前のところの料理長ログの飯は、毒以上に恐ろしいな。一度味わうと、二度と帝国の泥水のようなスープに戻れる気がしない」

 レオンハルトは苦笑しながら、清潔なベッドから身を起こした。彼についた傷は、エルフから提供されたポーションで既に塞がっている。

「単刀直入に言う。俺の仲間になれ、レオンハルト」

 俺の言葉に、彼は目をわずかに見開いた。

「俺は迷宮の主だ。だが、人間を無闇に憎んでいるわけじゃない。俺が欲しいのは、力と知恵、そしてこの迷宮を共に『家』として守り抜く覚悟だ」

「……帝国の軍人を信じるというのか? 俺がお前の寝首を掻くかもしれないぞ」

「その時は、テトやガルムが黙っちゃいないさ。それに……お前はもう、帝国の『使い捨ての歯車』に戻りたくはないはずだ」

 俺が静かに見据えると、レオンハルトは深い息を吐き、自嘲気味に笑った。

 彼が帝国で見てきたのは、力なき者を蹂躙し、自然を破壊し、部下を魔導機械のパーツと同列に扱う狂気の世界だった。それに引き換え、この迷宮はどうだ。多種族が笑い合い、温かい飯を食い、理にかなったシステムで外敵を退けている。

「……負けたよ。剣でも、そして主としての器でもな。帝国のレオンハルトは森で死んだ。今日から俺は、貴様の剣だ」

 彼は鉄格子の内側で、片膝をつき、深々と頭を下げた。

『マスター! レオンハルトさんのテイム(帰順)を確認しました!』

「歓迎するぞ、レオンハルト。牢の鍵は開いている、出てこい」

 俺は彼を伴い、没収した装備品を保管している部屋へと向かった。

 そこには、帝国軍の漆黒の魔導装甲や、魔力で駆動する大剣、そして兵士たちが装備していた強力な武器が山積みになっている。

「これらはすべてお前に管理を任せる。……牢屋にいる捕虜たちの中から、お前が『信用できる』と判断した者だけをピックアップしろ。彼らに装備を返還し、お前を隊長とする『迷宮守備隊(人間部隊)』を設立する」

「俺の部下を、この迷宮の防衛に組み込むということか。……正気か、お前は」

 俺の与えた権限の大きさに、彼は戦慄すら覚えているようだった。

「俺は自分の目で見たものしか信じないが、一度信じた者はとことん使う主義でね」

「……了解した。部下の中にも、帝国のやり方に絶望していた者は多い。俺が責任を持って選別し、この迷宮のための強力な防衛部隊に仕立て上げてみせる」

 レオンハルトの瞳には、かつての投げやりな光は消え、確かな忠誠と使命感が燃えていた。

「……だが、シン。一つ相談がある」

 装備を見繕いながら、彼がふと声を潜めた。

「俺の部下だった者の中にも、帝国への『狂信』に染まりきっている者や、出世のために残虐な行為を好む腐った連中が数名いる。……奴らはどれだけ厚遇しても、必ず裏切る。どうするつもりだ?」

「お前はどうすべきだと思う?」

 試すような俺の問いに、レオンハルトは迷いなく、冷徹な将としての顔で答えた。

「奴らに食わせる飯は無駄だ。それに、迷宮の秘密を知られたまま生かしておくわけにはいかない。……第2層の蜘蛛の魔物アラクネに引き渡し、再び『生体バッテリー』として迷宮の糧にするのが、最も合理的かつ安全な処置と具申する」

 かつての同胞を切り捨てる、冷酷な決断。

 だがそれは、彼が完全に『深緑の無名奈落』の住人となったことの何よりの証明だった。

「採用だ。その選別はお前に一任する」

「御意」

 こうして、魔導剣士レオンハルトとその選ばれし部下たちが、迷宮の新たな戦力として加わった。

 物理罠、蜘蛛の魔物、ゴブリンと獣の軍団、エルフの支援、そして帝国の装備を持った人間の精鋭部隊。

 着々と力を蓄えるシンの迷宮は、次にやってくるであろう「聖王国ルシリス」の狂信者たちを迎え撃つべく、さらなる牙を研ぎ澄ましていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ