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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第14話:魔導の剣士と、天国のような牢獄

第14話:魔導の剣士と、天国のような牢獄

 エルフたちとの盟約が結ばれてから三日後。

 大深緑の迷い森は、静かな、しかし確実な「狩り」の舞台となっていた。

『マスター。エルフのリリアさんから念話です。帝国軍の先遣隊、約百名の部隊を幻術で完全に分断。数名ずつの小隊にして、迷宮の入り口へ誘導完了したとのことです』

「よし。エルフたちのサポートは完璧だな」

 第4層に新設された『マスターズ・チェンバー』で、俺はルリが空中に投影したダンジョン内の監視映像を見上げていた。

 映像には、泥だらけで疲労困憊の帝国兵たちが、数人ずつ第1層の入り口に転がり込んでくる様子が映し出されている。彼らは森の幻術で何日も迷わされ、魔導機械のエネルギーも底を尽きかけていた。

 そんな状態で、カルクが丹精込めて改造した第1層『物理罠層』を抜けられるはずもない。

 映像の中で、帝国兵たちは次々と滑り台から転げ落ち、落石に潰され、昏倒していく。

『一般兵の処理、順調です! そして、罠をなんとか抜けた魔導アーマー装備の高位兵士たちは……』

 画面が第2層『粘糸迷宮層』に切り替わる。

 暗闇の中、重武装の兵士たちが、セリアの配下である蜘蛛たちによって音もなく天井へ引き上げられ、あっという間に白い「生きた繭」へと変えられていった。これでまた、うちのダンジョンのDP自然回復量が跳ね上がる。

「カルクとセリアの防衛線、見事なものだな。……ん?」

 俺は一つの映像に目を留めた。

 第2層の粘着糸を、高出力の炎の魔力で焼き払いながら、単騎で強行突破してくる男がいる。

 漆黒の魔導装甲に身を包み、大剣を軽々と振り回すその動きは、明らかに一般兵や高位兵士とは次元が違った。

「隊長クラス……いや、超実力者か。セリアの糸が追いついていない。あのまま真っ直ぐ、第3層へ降りてくるぞ」

 俺は傍らに控えていたガルムとテトに視線を向けた。

「出番だ。第3層で迎え撃つ」

「ギギッ!(待ってました!)」

「キュオォーン!」

 ***

 空洞となっている第3層の広間に、重い足音が響いた。

 現れたのは、帝国の先遣隊隊長にして魔導剣士のレオンハルト。全身に傷を負い、肩で息をしているものの、その瞳には鋭い闘気が宿っていた。

「……ここが、迷宮の底か。貴様がこの忌まわしいダンジョンの主だな」

「いかにも。俺はシン。……随分と手荒な真似をしてくれたな、帝国軍の隊長殿」

 レオンハルトは大剣に魔力を込め、真っ赤な炎の刃を形成した。

「帝国の繁栄のためだ。貴様のコアは、我々がいただく! 『爆炎斬』!!」

 轟音とともに、巨大な炎の斬撃が迫る。

 だが、その一撃は俺に届く前に、前に出たガルムの『鉄の棍棒』によって力強く弾き飛ばされた。

「なっ……ホブゴブリンが、俺の一撃を力でねじ伏せただと!?」

 驚愕するレオンハルトの死角から、テトが『瞬動突進』で強襲する。レオンハルトは間一髪で大剣の腹を盾にして防いだが、凄まじい衝撃で数メートル後方へ吹き飛ばされた。

「……強いな。だが、どうも剣が重くない」

 俺はゆっくりと彼に歩み寄った。

 彼の剣技は洗練されている。だが、その動きの端々に「投げやり」な感情……あるいは、自分自身の行動に対する「迷い」が透けて見えていた。

「部下を森に置き去りにし、自分だけがコアを求めて突き進む。……帝国のやり方は、お前の誇りに反しているんじゃないか?」

「……ッ! 貴様に何が分かる!」

 図星を突かれたのか、レオンハルトが激昂して大上段から剣を振り下ろす。

 俺は『気配察知』でその太刀筋を完全に見切り、身を沈めて懐に飛び込んだ。そして、『打撃 Lv3』の乗った拳を、彼の装甲の隙間――鳩尾みぞおちへと叩き込む。

「がはっ……!」

 魔力と衝撃が浸透し、レオンハルトは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

 ***

「……ここは……」

 数時間後。レオンハルトが目を覚ましたのは、柔らかなクッションが効いた清潔なベッドの上だった。

 部屋には温かな魔力ランプが灯り、木の机の上には、湯気を立てる極上の『オーク肉のシチュー』と『ふかふかの白パン』が置かれている。

「目覚めたか、レオンハルト隊長」

 鉄格子の外から、俺は彼に声をかけた。ここは第3層に新設した『捕虜収容所(牢屋)』だ。

 とはいえ、中級ランクの宿屋をイメージしてDPを使ったため、下手な貴族の部屋よりも快適な空間になっている。

「牢屋……なのか? ここは」

「ああ。戦いが終わるまで、大人しくしていてもらうためのな。腹が減ってるだろ、まずは食え。毒は入ってない」

 レオンハルトは警戒しつつも、シチューを一口食べた瞬間、そのあまりの美味さに涙腺を崩壊させ、一瞬で平らげてしまった。

 帝国の野営食(硬い携行食と泥水のようなスープ)で胃を痛めていた彼にとって、ログの『魔力調理』は耐え難い誘惑だったのだ。

「……なぜ、俺を殺さない。帝国の軍人は、機械の部品と同じだ。目的を達成できなければ破棄される。俺も……この森の自然を焼き払い、部下を使い潰す帝国のやり方には、内心吐き気がしていた……」

 食後のハーブティーを飲みながら、彼はポツリポツリと本音をこぼし始めた。

 やはり、俺の見立て通りだ。彼は国の方針に従っていただけで、本人の魂まで腐っているわけではない。

「なら、好都合だ。この戦いが終わるまで、そこでのんびり帝国のやり方を見つめ直すといい。三食付き、週に二回は温かい風呂も用意してやる」

「風呂だと……!? て、帝国軍の将官待遇よりも良いではないか……っ。貴様ら、本当に魔物なのか……?」

 呆然と呟き、ふかふかのベッドに沈み込む超実力者を見届け、俺は牢屋を後にした。

 有益な捕虜と、彼がもたらすであろう帝国の内部情報。この防衛戦は、俺たちに莫大な利益をもたらしつつあった。

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