第130話:夢と魔法の甘味郷(スイート・トピア)と、無限の胃袋
第130話:夢と魔法の甘味郷と、無限の胃袋
「さあ、カジノ、遊園地、スパと、大人たちのドロドロした欲望を満たすリゾートが続いたが……今回は原点回帰だ。何より純粋で、最も甘い夢を実現させるぞ」
マスターズ・チェンバーの円卓。俺がそう宣言した瞬間、ルリ、ラピス、アンバーの三姉妹コアが「わぁぁぁぁっ!!」と歓声を上げて立ち上がり、俺の元へ駆け寄ってきた。
『マスター! ついに私たちの番ですね!』
『お菓子の街! チョコレートのお城!』
『クッキーの屋根! ジュースの噴水!』
目をキラキラと輝かせてぴょんぴょん跳ねる三姉妹の頭を撫でながら、俺は幹部たちにホログラムの設計図を提示した。
「リゾート開発第四弾。『お菓子の街』の建設を開始する。今回の総監督はこの三姉妹だ。お前たちは彼女たちの要望を、俺たちの魔法技術と無限のDPで完璧に形にしろ」
「クハハハッ! 童話の世界の再現ですか。しかしマスター、お菓子を建材にするとなると、太陽の熱で溶けたり、雨で崩れたり、虫が湧いたりといった物理的な問題が山積みですぞ?」
ファウストが片眼鏡を押し上げながら指摘する。
「そこをクリアするのがお前たちの腕の見せ所だろうが。ファウスト、お前は錬金術を駆使して『常温でも絶対に溶けず、口に入れた瞬間にだけ極上の口どけを約束するチョコレート』と『虫や腐敗を完全にシャットアウトする純白のシュガー結界』を開発しろ」
「な、なるほど……! 味覚と物理法則の完全分離! やってみせましょう!」
「ガストン、お前は『大理石並みの強度を持ちながら、サクサクと噛み砕けるマカロンやビスケット』を打て。建築基準法を余裕でクリアする強度のお菓子だ」
「ガハハハッ! 任せな! ドワーフの意地にかけて、鋼鉄より硬くて甘い飴細工の柱をブッ建ててやるぜ!」
幹部たちが真面目な顔でトンデモない技術論を交わす中、俺はもう一つ、前世(地球)の知識を活かした「悪魔のシステム」を提案した。
「……だが、どれだけ美味しいお菓子があっても、人間(やエルフや獣人)の胃袋には限界がある。それに、糖分の摂りすぎは肥満や虫歯の原因になるからな」
「確かに。せっかくの夢の街で、お腹を壊しては台無しですわね」
ミラージュが頷く。
「だから、街全体に『カロリー&糖質完全無効化・強制デトックス結界』を張る。さらに、街の中では【満腹感のリセット魔法】を常時発動させるんだ。……つまり、この街にいる間は、どんなに食べても太らないし、虫歯にもならない。無限に食べ続けられる『絶対なる甘味の楽園』だ」
その言葉を聞いた瞬間、三姉妹はもちろん、ミラージュやリリア、女傑のマスターたち女性陣の目の色が変わった。
「た、食べても太らない……無限にお菓子を食べられる……!?」
「マスター……あなたというお方は、どこまで女性の心を掌握すれば気が済むのですか……ッ!」
女傑が感極まって崩れ落ちる。
「さらに、甘いものばかりでは飽きるだろうから、辛党向けの『しょっぱいお菓子エリア』も併設する。湖の水をコンソメスープにして、ポテトチップスの葉を繁らせた森を創るぞ。……さあ、作業開始だ!」
***
そして数日後。
無限のDPというチートと、天才たちの魔法技術が結晶化し、第一階層の特別エリアに、かつてないほどファンシーで狂気的な街が誕生した。
「わぁぁぁぁっ……! 夢みたいです!」
オープン前のテストプレイに訪れたルリたち三姉妹が、目を丸くして歓声を上げた。
目の前に広がるのは、メルヘンの極致。
道の石畳は色とりどりの角砂糖。街灯は光るペロペロキャンディ。家々の壁は芳醇な香りを放つチョコレートレンガで、屋根はサクサクのワッフルとアイシングクッキーでできている。
街の中央には、とろけるようなショートケーキのデザインをした巨大なお城がそびえ立ち、その手前の噴水からは、絶え間なく炭酸の弾けるフルーツジュースが湧き出していた。
「マスター! この壁、本当に食べられます! 美味しいです!」
ラピスが民家の壁をパキッと割って口に入れ、とろけるような笑顔を見せる。割れた壁は、DPによる自動修復魔法で瞬時に元通りになった。
「クハハハ! 見なさいマスター! 雲を『究極の綿飴』で構築し、定期的に『金平糖の雨』を降らせる気象制御システムも完璧に稼働しておりますぞ!」
ファウストが空を見上げて高笑いする。
一方、辛党の男衆であるレオンハルトやガストンたちは、別区画の『スナック・ジャンクエリア』にいた。
「おお……この木に生えている薄切りの芋、塩気が絶妙で酒が止まらんぞ!」
「この『コンソメ』というスープの川も最高だ! 甘い街の中で、いいアクセントになってやがる!」
彼らはガストンの工房で作ったエール片手に、おつまみの森で宴会を始めていた。
「どうですか、マスター。わたくしたちの考案した『パフェの塔』は」
ミラージュとリリアが案内してくれたのは、何十メートルもの高さを持つ巨大なパフェだ。最上階のテラスからは、街全体を見渡しながら、極上のホイップクリームとフルーツを掬って食べることができる。
「ああ、完璧だな。太らない・虫歯にならない・お腹がいっぱいにならない。この三つの魔法がある限り、ここは世界一幸福な空間だ」
俺はパフェの塔から街を見下ろし、クリームの甘さに頬を緩めながら満足げに頷いた。
***
翌日、『スイート・トピア』の開園が全世界に向けて発表された。
その結果は、もはや言うまでもないだろう。
「な、なんじゃこの美味さはぁぁっ! ワシはもう、一生この街に住み着くぞぉぉっ!」
「太らない! どれだけ食べてもお腹が出ないわ! 私、このチョコレートのお城を丸ごと一つ予約するわ!」
老若男女、世界中のあらゆる種族が、この「物理法則を無視した甘味の楽園」の虜となった。
子供たちはジュースの噴水で泳ぎ、貴族の婦人たちはマカロンの家で優雅なティータイム(無限食い)を満喫し、冒険者や兵士たちはスナックの森で酒盛りを続ける。
お菓子の家を食べるごとに、自動修復のためのDPが微量に消費されるが、それの数万倍もの「多幸感(幸福のエネルギー)」と「莫大な入場料・滞在費」が、俺の迷宮へと雪崩れ込んでくる。
「マスター……」
数日後、ミラージュが呆れ顔で帳簿を持ってきた。
「今回の『お菓子の街』。子供向けかと思いきや、『無限に食べても太らない』という奇跡の魔法が、世界中の美食家や貴族たちの欲望を完全に狂わせました。収益は、カジノとスパを足した額を軽々と超えていますわ」
「…………」
俺は玉座で、手元の特製クッキーを齧りながら、虚無の表情で天井を見上げた。
「……もう、驚かない。俺が本気で遊べば遊ぶほど、世界中の富が俺のポケットに強制的にねじ込まれるシステムなんだろ。知ってる」
『マスター! あーんっ!』
ルリが笑顔で差し出してきたマシュマロをパクリと食べながら、俺は「究極の無駄遣い計画」が、今度こそ完全に、名実ともに「究極の黄金狂時代」へと昇華されたことを悟るのだった。




