第129話:世界樹の雫と、究極の美容星海スパ(アストラル・エデン)
第129話:世界樹の雫と、究極の美容星海スパ(アストラル・エデン)
「……カジノで神経をすり減らし、遊園地で叫びすぎて声が枯れた。楽しいが、流石に体が悲鳴を上げ始めているな」
『マギカ・ファンタジーランド』の開園から数日後。
マスターズ・チェンバーの玉座で、俺は肩を回しながら深く息を吐いた。遊び疲れて休養が必要になるというのも贅沢な悩みだが、全力で遊ぶには全力の「癒やし」が不可欠だ。
「ええ、マスター。わたくしも、最近少しお肌の乾燥が気になっておりましたの」
ミラージュが、完璧に透き通るような白い頬に手を当てて艶然と微笑む。その後ろでは、キュウビやリリア、そしてすっかり常連の顔をしている賢人会の女傑も「激しく同意するわ!」と深く頷いていた。
「よし、満場一致だな。リゾート開発第三弾は、女傑のアイデアを採用した『究極の美容と癒やしのスパ・リゾート』だ。ターゲットは世界中の富裕層の女性、そして日々の激務に追われる権力者たち。コンセプトは『魂のデトックスと、物理的な若返り』とする!」
俺は立ち上がり、空間に新たなリゾートの設計図を展開した。
今回の立地は、地下深くでも宇宙でもない。『エルフの森』のさらに奥深く、世界樹の根が星の地脈と交わる不可侵の異空間をベースにする。
「まずは温泉、いわゆる『スパ』の基本だ。エルフの長老から譲り受けた『世界樹の源泉』に、無限のDPを使って【万能霊薬】を樽ごと、いや、滝のように流し込んで『源泉かけ流しエリクサー風呂』を創る。これに浸かれば、どんな疲労や傷も一瞬で消え去り、肌は赤子のように若返るはずだ」
「エ、エリクサーを源泉かけ流し……!? 国が買えるほどの霊薬を、ただの入浴剤にするおつもり!?」
女傑が驚愕で扇子を取り落とすが、俺は構わず続ける。
「次は『サウナ』と『岩盤浴』だ。ガストン、お前が熱砂大陸で見つけた『火竜の魔石』を床に敷き詰め、芯から体を温める魔法のサウナを組め。蒸気を発生させる『ロウリュ』には、星の魔力をたっぷり含んだ朝露を使う」
「ガハハハ! 任せな! 毛穴という毛穴から老廃物を絞り出して、身も心も軽くしてやるぜ!」
「ファウスト、お前は『究極のマッサージ』を担当しろ」
「……クハハ? 私が、マッサージ師ですか?」
「お前の『重力魔法』を微細にコントロールすれば、肩こりや腰痛のピンポイント指圧から、全身の骨格矯正まで無痛で完璧に行える【全自動重力マッサージベッド】が創れるはずだ」
「おおおっ……! 人体構造と重力物理学の完全なる融合! 素晴らしい着眼点ですマスター!」
「仕上げは、キュウビの『極大幻術』を用いた【精神デトックス・ルーム】だ。心地よいお香の香りの中で、客が一番見たい至福の夢を見せ、ストレスを文字通り『無』に帰す」
地球の高級スパの概念を、魔法世界のオーバーテクノロジーで限界突破させる。
美と健康に特化したこのプロジェクトに、特に女性陣は異常なまでの熱意を見せ、アヴァロン改修時にも匹敵する凄まじいスピードで【星海スパ・リゾート・アストラルエデン】は完成した。
***
「はぁぁぁぁぁんっ……極楽、ですわぁ……」
オープン前のテストプレイ。
星空が水面に反射するような幻想的な【星鏡の露天風呂(エリクサー源泉)】の中で、ミラージュがほうっと妖艶な溜息を吐いた。
隣では、ルリ、ラピス、アンバーの三姉妹コアが「お肌ちゅるちゅるですー!」「泡がキラキラしてる!」と、真珠の成分を配合した魔法の泡風呂でキャッキャとはしゃいでいる。
「信じられない……! 数百年悩まされていた肩の古傷が消えたばかりか、肌のハリが十代の頃に戻っているわ!」
女傑のマスターが、鏡を見つめながら震える手で自身の頬に触れ、歓喜の涙を流していた。
一方、男湯(という名の隔離サウナエリア)。
「アツい……だが、この息苦しさの後に水風呂(絶対零度の氷泉)へ飛び込むのが、とてつもなく『ととのう』んだよな……」
俺は火竜の魔石が放つ圧倒的な熱気の中で、レオンハルトやガストンと共に滝のような汗を流していた。
その後、ファウスト特製の【重力マッサージベッド】に横たわった俺たちは、全身の筋肉が重力によって絶妙な力加減で揉みほぐされる快感に、文字通り口から魂を吐き出して昇天しかけた。
「……マスター。これは、ダメです。あまりにも気持ちよすぎて、剣を握る気力が根こそぎ奪われます……」
骨抜きにされたレオンハルトが、ふにゃふにゃになった顔で呟く。
「ああ……これこそが真の『平和』だ……」
風呂上がりには、新鮮な魔力フルーツをふんだんに使ったスムージーが提供され、誰もが言葉を失うほどの至福の表情で休息の間に寝転がった。
***
そして、数日後。
『アストラル・エデン』は、世界中のVIPに向けて一般公開された。
結果は、言うまでもない。
カジノの熱狂とも、遊園地の絶叫とも違う、もっと深く、もっと恐ろしい欲望の渦が巻き起こった。
「わ、若返る! 本当に十代の肌に戻るぞ! シン殿、この泥パックの権利を! いや、このスパの年パスをいくらでも買う! 国庫の半分を差し出す!」
「わたくしもよ! この重力マッサージベッドを王城に導入しなさい! さもなくば戦争よ!」
美と健康に対する富裕層(特に女性陣)の執念は、ギャンブルやスリルを遥かに凌駕していた。
永遠の若さと至高の癒やしを求め、各国の王妃、貴族の令嬢、大商人の妻たちが、文字通り「札束(魔力結晶)での殴り合い」をしながらスパの予約枠を奪い合ったのである。
さらに、副産物として開発した『エリクサー配合・魔法の美容液』や『世界樹の泥パック』といったオリジナルグッズが、商業都市を経由して世界中で爆発的に大ヒット。
「マスター……」
数週間後のマスターズ・チェンバーで、ミラージュが帳簿を見ながら震える声で報告した。
「今回のスパ事業の収益、そして美容グッズのライセンス料により……ついに我が迷宮の総資産は、この星の全国家の資産を合計した額の『百倍』を突破いたしましたわ」
「……」
俺は玉座で、限界までツルツルになった顔を両手で覆った。
「無限のDPを使って、ただのんびりとお風呂に入りたかっただけなのに……どうして、世界中の金と信仰が全部俺のところに集まってくるんだよぉぉぉっ!」
『アハハハハ! マスターのお肌、すっごく綺麗ですね!』
ルリたち三姉妹が無邪気に笑う中、俺の「究極の暇つぶし(無駄遣い)」は、またしても迷宮国家を狂気的なまでの大繁栄へと導いてしまうのだった。




