第125話:世界会議と、宇宙(そら)の神々の正体
第125話:世界会議と、宇宙の神々の正体
第3都市『リゾート階層』の中央にそびえ立つ、白亜の国際大会議室。
そこには、獣人連邦の獣王、エルフの長老、商業都市国家の代表といった旧大陸の重鎮たちに加え、新大陸の覇者である神聖ラングス帝国の皇帝、そして世界の裏側を牛耳る『叡智の賢人会』の五人が一堂に会していた。
彼らは皆、数日前に体験した「深海と火山の極限リゾート」の興奮冷めやらぬ様子で談笑していたが、賢人会の五人だけは顔色が悪く、何やら深刻な顔でヒソヒソと囁き合っている。
「……今日こそ、あの恐ろしい宇宙の脅威について議題に上げねばならん」
「ええ。あの宇宙の神々の怒りの閃光……星が救われたとはいえ、いつまた我々に牙を剥くか分からないのですから」
そんな彼らの前に、室内がふっと暗転し、玉座に腰を下ろしたシンが姿を現した。
その両脇には、ルリ、ラピス、そして砂漠で誕生した三女のコア『アンバー』が控え、背後にはレオンハルトやファウストたち最高幹部がズラリと並んでいる。
「さて、皆揃っているな。これより、迷宮国家主催の『世界会議』を始める」
シンの落ち着いた声が響くと、VIPたちは一斉に姿勢を正した。
「今日集まってもらったのは他でもない。お前たちに、この星の『歴史』と、先日起こった『ちょっとしたトラブルの事後報告』をしておくためだ」
「事後……報告?」
獣王が首を傾げる中、シンは指を鳴らし、会議室の中央に巨大なホログラムを展開した。
映し出されたのは、赤道直下の熱砂大陸の地下深くに眠っていた『透明な強化瑠璃の遺跡』と、巨大な『天球儀』の映像だった。
「これは、俺たちが先日、熱砂大陸の地下で発見した古代遺跡だ。マキナを造った帝国とは全く別物。数万年前に存在し、極めて高度な天文学と光の魔法を操っていた『星見の民』の文明の痕跡だ」
「な、なんと……我々の歴史書にも存在しない、超古代文明だと!?」
エルフの長老が驚愕に目を見張る。
「彼らは戦争で滅びたわけじゃない。彼らは、星の外側からやってくる『絶対的な脅威』を観測し、後世に警告を残すためにこの遺跡を封印したんだ。……ファウスト」
ファウストがコンソールを叩くと、映像が切り替わり、今度は宇宙空間を埋め尽くす『赤黒い宇宙怪獣の群れ(星喰い)』が、別の惑星を喰らい尽くす凄惨な光景が映し出された。
「ひっ……!?」
「な、なんじゃあれは! 星が……星が削り取られていくぞ!?」
各国の王たちが悲鳴を上げる中、賢人会の五人はガタッ!と椅子を蹴立てて立ち上がった。
「こ、これじゃ!! 数日前に我々が感知した、宇宙からの果てしない悪意と飢餓! 我々の星を喰らおうとしていた悪魔の正体は、これだったのか!」
老魔術師が震える指でホログラムを指差す。
「その通りだ、爺さん。こいつら『星喰いの群れ』は、真っ直ぐこの星の軌道へ向かっていた。到着は数年後と予想されていたが、放置すれば確実に俺たちの星はチリになっていた」
「な、ならばどうするのです!?」
ラングス帝国の皇帝が、顔面を蒼白にして叫んだ。
「そ、そのような宇宙の化け物の群れなど、いかなる軍隊でも防ぎようがない! せっかく迷宮国家様のおかげで国が豊かになったというのに、我々は皆、星ごと喰われて終わるというのかぁぁっ!」
絶望のどん底に叩き落とされ、会議室がパニックに陥りかけたその瞬間。
「落ち着け。だから『事後報告』だと言っているだろうが」
シンの呆れたような声が、冷や水を浴びせたように会議室を静まらせた。
「あのバケモンどもが星に降りてきてからドンパチやったんじゃ、せっかく開発した温泉やスキー場がぶっ壊れちまうだろう? だから俺たちは、連中が星に近づく前に、深宇宙まで『出向いて』掃除をしてきた」
「「「…………はい?」」」
VIPたちの思考が完全に停止した。
シンは構わず、ファウストに次の映像を再生させた。
『全艦、空間跳躍機関起動! アヴァロン、発進!!』
映像の中で、かつて彼らが新大陸への進軍で見た『魔導浮遊要塞アヴァロン』が、超弩級の宇宙戦艦へと姿を変え、光の渦と共に宇宙空間へワープしていく姿が映し出される。
さらに、漆黒の宇宙空間で無数の星喰いたちを相手に、魔力スラスターで飛び回りながら真空刃を放つレオンハルトたち迷宮騎士団の無双劇。
そして極めつけは――。
『撃てぇぇぇッ!!』
アヴァロンの三連装主砲から放たれた、暗黒星雲を消し飛ばす【創世の光】の極大の純白の閃光。
その映像を見た瞬間、賢人会の五人は、糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んだ。
「あ……あ……あの、純白の閃光……宇宙の、神……」
女傑のマスターが、ガチガチと歯を鳴らしながらシンを見上げる。
「あ、あんたたちが……やったの? 宇宙の果てで……あのバケモンたちを、一瞬で……?」
「ああ。お前たちが深海レストランでキャビアを食ってビビり散らかしている間に、ファウストたちにパパッと片付けさせておいた。……あんな薄汚いイナゴどもに、俺たちの平和なリゾートを傷つけさせるわけにはいかないからな」
会議室は、もはや静寂というより「完全なる沈黙」に支配された。
彼らは理解したのだ。
目の前に座る、フルーツ牛乳を飲みながら笑っているこの青年が。
そして、その背後に控える白衣の男や、重鎧の騎士が。
世界を滅ぼす宇宙の災害を、数日の「お出かけ」感覚で宇宙空間まで行って消し飛ばし、ついでに古代文明の遺産まで手に入れている、文字通りの『超越者(神)』であることを。
しかも、その大戦争の準備を隠すために、自分たちをマグマや深海で遊ばせていたという、途方もないスケールの「カモフラージュ」を行っていたことを。
「あ、あああ……おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
突如、獣王が床に額を激しく擦り付け、慟哭のような雄叫びを上げた。
「神よ……! 我らが同盟国は、星の創造主たる神の御膝元にあったのか!! この御恩と奇跡、もはや我が命を億回砕こうとも返しきれぬ!!」
「マスター・シン様ぁぁぁっ! 万歳! 迷宮国家永遠なれぇぇっ!!」
「我々賢人会は、今この瞬間をもってあなたの完全なる傘下に入ります! どうか、どうか見捨てないでくだされぇぇ!」
各国の王が、皇帝が、世界の裏の支配者たちが、鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら、シンの足元にすがりついて祈りを捧げ始めた。
会議室は、報告会というよりもはや「狂信的な新興宗教の集会」と化していた。
「あー……うん。とりあえず、星の危機は去ったから、これからも安心して俺たちのインフラとリゾートで遊んで、金を落としてくれ」
シンが苦笑いしながら告げると、ルリ、ラピス、アンバーの三姉妹コアの背後にあるステータスモニターが、バチンッと音を立てて弾け飛んだ。
宇宙の脅威からの救済。
古代文明すら凌駕する圧倒的な武力と技術への「究極の畏怖」と「絶対的な信仰」。
それらが一気に迷宮へと還元され、もはや「無限(∞)」の表示すら処理しきれなくなったDPメーターが、完全なショートを起こしたのだ。
(……まあ、もうDPがいくら増えようが減ろうが、どうでもいいか)
シンは玉座に深く背を預け、自らを神と崇めて泣き叫ぶ権力者たちを見下ろしながら、呆れ半分、満足半分の笑みを浮かべた。
残高ゼロから始まったネズミ穴のダンジョン。
それは今や、星の歴史を飲み込み、宇宙の脅威すらも余興に変える、文字通り「絶対不可侵にして至高の楽園」として、永遠の繁栄を確約されたのである。




