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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第122話:深宇宙の暗黒星雲と、日常を守る盾

第122話:深宇宙の暗黒星雲と、日常を守る盾

空間跳躍機関ワープ・ドライブの青白い光の渦を抜け、超弩級宇宙戦艦アヴァロンは通常空間へと実体化した。

音の一切存在しない、絶対零度と真空に支配された深宇宙。

眼下には、俺たちの故郷である美しい青と緑の惑星が、遥か遠く、まるでビー玉のように小さく見えていた。

「空間跳躍完了。アヴァロン、現在位置は目標宙域『絶対防衛ライン・アルファ』です。防衛結界出力、魔力炉心ともに異常なし」

メインブリッジに響くミラージュの冷静な声が、戦闘態勢に入った艦内の空気を一段と引き締める。

艦長席に深く腰を下ろした俺は、正面の超大型メインモニターに視線を向けた。

「ファウスト。深宇宙レーダーの反応はどうなっている?」

「……来ています。光学センサーの限界距離ギリギリですが、すでに『それ』は我々の目と鼻の先です」

ファウストの言葉に従い、モニターの映像が最大倍率でズームアップされる。

ノイズが走り、星々の瞬きが映し出されていた画面が、突如として『黒い何か』によって塗り潰された。

「……なんだ、これは」

レオンハルトが、思わずといった様子で呻き声を漏らす。

初めて直接のモニター映像として捉えた『星喰いの群れ(コズミック・スウォーム)』。

それは、一つの生物という枠組みを超越していた。

宇宙空間を埋め尽くすほどの、果てしなく巨大な「生きた暗黒星雲」だったのだ。

一つ一つの個体が、小山から島ほどの大きさを持つ赤黒い甲殻に覆われた異形の怪獣。それが何万、何十万、あるいは何百万という単位で密集し、互いに蠢き合いながら、一つの巨大な濁流となって宇宙空間を這い進んでくる。

彼らの通った跡には、星屑一つ残らない。光すらも飲み込むような圧倒的な「飢餓」の集合体。

『ギギ……ギギギギギギギ……ッ!!』

真空であるはずの宇宙空間から、魔力波を通じて直接脳内に響いてくる、悍ましい摩擦音と咀嚼音。

それは、星を喰らい尽くし、すべての生命を無に帰すことだけを目的として作られた、宇宙の掃除屋とも呼べる絶対的な自然災害そのものであった。

「……ハッ、こいつは想像以上だな。あんなものが降ってきやがったら、どんな頑丈な城壁だろうが、一日でチリ一つ残さず喰われちまうぜ」

ガストンが大槌を肩に担ぎ直し、獰猛な笑みを浮かべる。

「ええ。ですが、我々の『星金装甲』と『絶対真空結界』の前に、あのような不純な牙が届くことはありません」

ファウストがコンソールを叩きながら、狂気に満ちた瞳を輝かせる。

圧倒的な絶望を体現した宇宙の害悪を前にしても、俺の誇る最高幹部たちに怯む者は誰一人としていなかった。

俺はゆっくりと立ち上がり、ブリッジの窓越しに、遥か後方で青く輝く自分たちの惑星を振り返った。

あの小さな星の中には、俺たちのすべてがある。

魔導列車が音もなく走り、同盟国の商人たちが笑顔で特産品を売り買いしている。

リゾート階層では、世界中の王侯貴族が身分を忘れてかき氷を頬張り、ビーチバレーに興じている。

雪山では極上の雪見露天風呂から歓声が上がり、海底レストランでは神秘的な光景に感嘆のため息が漏れている。

俺が、残高ゼロの暗い洞窟から這い上がり、仲間たちと血の滲むような思いをして(そして無限のDPを無駄遣いして)築き上げた、世界で一番くだらなくて、世界で一番平和な『至高の箱庭』。

「……なあ、お前ら」

俺の声が、ブリッジ内に静かに響く。

「あの青い星の下じゃ、今も爺さん婆さんたちが温泉で酒を飲んで、ガキどもが美味い飯を腹いっぱい食って笑ってる。……俺たちは、あいつらに『絶対安全の楽園』を約束したんだ」

俺は振り返り、真っ黒な絶望が迫りくるメインモニターを鋭く睨みつけた。

「あんな薄汚い宇宙の害虫どもに、俺たちのリゾートの空気を一ミリたりとも吸わせるわけにはいかねぇ」

「「「御意!!」」」

迷宮騎士団長・レオンハルトが、腰の魔剣を抜き放ち、騎士の礼をとる。

「我らが主の平穏を脅かす塵芥ども。この星空を彼らの墓標としてご覧に入れましょう!」

「ハーピー部隊、全機スラスター臨界! いつでもいけますっ!」

リリアが通信機越しに、凛とした声で報告を上げる。

ホログラムの向こうでは、ルリ、ラピス、アンバーの三姉妹コアが手を繋ぎ、無限のDPをアヴァロンへと送り込み続けている。

『マスター! 魔力、全部持っていってください! 私たちの星を、みんなの笑顔を守ってください!』

「ああ、任せておけ」

俺は艦長席に戻り、全艦へ向けた魔力通信のマイクを握りしめた。

「これより、星喰いの群れに対する殲滅戦を開始する! 俺たちの日常は、俺たちの手で守り抜くぞ!」

モニターの中で、星喰いの群れの先鋒が、俺たちの存在を「新たな餌」として認識し、赤黒い濁流となって一斉に軌道を変え、アヴァロンへと襲いかかってきた。

「全砲門、ロックオン完了! 動力炉、出力1000パーセント固定!」

ファウストの絶叫が響く。

「撃てぇぇぇッ!!」

俺の号令と共に、宇宙戦艦アヴァロンの先端に備えられた三門の超弩級兵器【創世のジェネシス・レイ】が、星の夜明けを思わせる純白の閃光を宇宙空間に解き放った。

絶対防衛戦線、開戦。

ファンタジー世界の常識を遥かに凌駕する、星の運命を懸けた宇宙での大激突が、今ここに火蓋を切った。

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