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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第121話(閑話):星の海へ漕ぎ出す方舟と、無重力の騎士たち

第121話(閑話):星の海へ漕ぎ出す方舟と、無重力の騎士たち

「……よし。賢人会の爺さん婆さんたちも、同盟国の王族どもも、深海と火山の『極限リゾート』に完全に夢中になっているな。しばらくは地上(下)から目を離さないだろう」

第4都市『軌道上宇宙開発基地』の最深部。

俺は地上を監視するモニターから視線を外し、ホッと息を吐き出した。

あの狂気のリゾート開発から数週間。俺の『視線誘導カモフラージュ作戦』は見事に功を奏し、地上のVIPたちは誰も空(宇宙)を見上げることなく、ただひたすらに未知の娯楽と美食に酔いしれていた。

俺たちがその頭上で、星の存亡を懸けた『宇宙戦争』の準備を進めていることなど、微塵も気づかずに。

「見事な時間稼ぎでした、マスター。おかげで、我々も誰の目も気にすることなく、この『最高傑作』の建造に没頭できましたぞ」

白衣をまとったファウストが、恭しく一礼し、巨大な宇宙ドックの隔壁を開くスイッチを押した。

重々しい機械音と共に分厚い壁がスライドし、その向こう側に広がる無重力空間に浮かぶ『それ』が姿を現した。

「おお……! こいつは、すげえな」

かつて空を覆うほどの巨体を誇った『魔導浮遊要塞アヴァロン』。

その姿は、大気圏内を飛んでいた頃の無骨な岩や城壁の寄せ集めのような外観から、完全な『超弩級宇宙戦艦』へと劇的な進化を遂げていた。

「ガハハハッ! 驚いたかマスター! 外装はすべて、遺跡の『強化瑠璃』と極上のミスリルを融合させた【星金装甲アストラル・アーマー】だ! 隕石の衝突だろうが、超新星爆発の熱波だろうが、傷一つ付かねぇ宇宙一硬い船底だぜ!」

ガストンが、漆黒と純白が入り交じる流線型の美しい装甲を指差して胸を張る。

「装甲だけではありません。艦体を覆う【絶対真空遮断・生命維持結界】により、甲板の上でも地上と全く同じように呼吸し、歩くことが可能です。そして主機には、無限のDPと空間魔法を応用した【空間跳躍機関ワープ・ドライブ】を搭載! 何光年先であろうと、星の海をひとっ飛びですぞ!」

俺はファウストとガストンの説明を聞きながら、艦の先端に備え付けられた巨大な三門の砲身――いや、以前よりも遥かに巨大化し、禍々しいほどの魔力光を帯びている砲門を見上げた。

「あの大砲もデカくなってるな?」

「ええ! 宇宙の害獣の群れを広範囲でチリにするための超弩級兵器【創世のジェネシス・レイ】です。星一つを消し飛ばしかねない威力ですので、取り扱いにはご注意を」

「頼もしい限りだ。……それで、肝心の『白兵戦』の準備はどうなっている? いくら大砲が強力でも、群れに取り付かれた時の対策が必須だ」

俺が尋ねると、ファウストはニヤリと笑い、「どうぞ、こちらの訓練室へ」と案内してくれた。

***

案内されたのは、宇宙基地内に設けられた巨大な『完全無重力・真空シミュレーションルーム』だった。

分厚いガラス越しに中を覗き込んだ俺は、そこで行われている「魔法世界の宇宙戦闘訓練」に目を見張った。

「姿勢制御、遅い! 風魔法の噴射角を微調整しろ! 宇宙空間では、剣を振った反動で己の体が吹き飛ぶことを忘れるな!!」

無重力空間の中で号令を飛ばしているのは、迷宮騎士団長・レオンハルトだった。

だが、彼らが身に纏っているのはいつもの重鎧ではない。

全身を流線型の装甲で覆い、背中や脚部に魔法の光を噴出する『魔力スラスター』を備えた、まるでSF映画の機動兵器のような【宇宙戦用ゴーレム・フレーム】だ。

「はぁぁぁっ!!」

騎士の一人が大剣を振るうと同時、背中のスラスターが青白い火を吹き、反動を完全に殺す。そして剣先から放たれた『斬撃の衝撃波(真空刃)』が、宙に浮かぶ隕石のダミーを見事に両断した。

「なるほど、物理で斬り結ぶのではなく、スラスターで間合いを保ちながら魔法剣の衝撃波で遠距離から仕留めるのか」

「御意。無重力・無抵抗の空間では、力任せの白兵戦は命取りになります。よって、高機動のヒット&アウェイ戦法を徹底させております」

ガラス越しに通信を繋いだレオンハルトが、力強く頷く。

その頭上を、凄まじいスピードで飛び交う影があった。

リリア率いるハーピー部隊だ。

「編隊を崩さないで! 空気がないなら、自分の魔力で風を創って飛ぶのよ!」

彼女たちは、羽の間に小型の魔導推進器を装着し、自身の風魔法を推進力に変換することで、宇宙空間という「羽ばたきが意味を成さない世界」において、地上以上の超高速機動を実現していた。

「騎士団が敵の群れを足止めし、ハーピー部隊が機動力を活かして敵の死角から魔力爆雷を投下する。……完璧な宇宙戦闘教義ドクトリンが完成していますね」

ミラージュが、訓練の様子をデータ端末で分析しながら感嘆の声を上げる。

たった数週間。俺が地上でVIPたちをマグマや深海で遊ばせて時間稼ぎをしている間に、俺の誇る最高幹部たちは、剣と魔法のファンタジー世界の常識をかなぐり捨て、見事に「宇宙戦争」への適応を果たしていたのだ。

「……上出来だ。お前たちならやれると信じていたぞ」

俺はガラス越しにサムズアップを送り、幹部たちもそれに応えて一斉に敬礼した。

***

そして、出撃の時が来た。

改修を終えた『超弩級宇宙戦艦アヴァロン』のメインブリッジ。

俺は中央の艦長席に深く腰を下ろし、周囲を囲む幹部たちを見渡した。

「マスター。ルリちゃん、ラピスちゃん、アンバーちゃんの三姉妹コアからの【無限DP同期リンク】、正常に接続完了。艦の動力、および防衛結界の出力は常に1000パーセントを維持しています」

ミラージュの報告に、コンソールに繋がれたホログラムから、三人の少女のコアたちが「いってらっしゃいマスター!」「お土産(宇宙の石)よろしくねー!」と元気に手を振っているのが見える。

「地上はミラージュと暗部部隊に任せてある。VIPどもは今頃、火山の火口で溶岩浴でも楽しんでいる頃だろう。……誰の邪魔も入らない、俺たちだけの星空の狩りの時間だ」

俺は不敵な笑みを浮かべ、眼下の美しい星――俺たちの平和な箱庭が広がる惑星を見下ろした。

あの大地に溢れる笑顔と、バカみたいな好景気と、心地よい温泉。

それを奪おうとする宇宙の害獣など、一匹たりともこの空に入れるつもりはない。

「目標、深宇宙。この星に迫りくる『星喰いの群れ(コズミック・スウォーム)』の予想進路上へ先回りする」

俺は右手を高く掲げ、力強く振り下ろした。

「全艦、空間跳躍機関ワープ・ドライブ起動! アヴァロン、発進!!」

「「「アイ・アイ・サー!!」」」

ファウストが起動レバーを押し込んだ瞬間、アヴァロンを包み込む空間がグニャリと歪んだ。

眩い光の奔流が艦全体を包み込み、音のない宇宙空間に一瞬の閃光を放つと――全長数キロに及ぶ超巨大な鋼鉄の方舟は、星の海へと音もなく姿を消した。

向かうは、数光年先の暗黒の宇宙。

世界を守るため、そして俺たちの至高のバカンスを守るための、次元を超えた大艦隊戦が、いよいよ幕を開けようとしていた。

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