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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第118話:星間防衛網(プラネタリー・エージス)と絶対防衛・星見の都市

第118話:星間防衛網プラネタリー・エージスと絶対防衛・星見の都市

宇宙空間に浮かぶ第4都市『軌道上宇宙開発基地』。

その広大なメインコントロールルームは、いつになく張り詰めた、重苦しい静寂に包まれていた。

壁一面を覆う巨大モニターには、赤道直下の熱砂大陸で発見された『星詠みの天球儀』から吸い上げられた莫大な観測データが、高速でスクロール表示されている。

「……信じられません。数万年前に滅びた『星見の民』たちは、魔法と天文学を極限まで融合させ、我々よりも遥か遠くの深宇宙まで観測していたようです」

コンソールに向かうファウストが、珍しく狂気の笑みを封印し、冷や汗を拭いながら報告した。

「彼らの記録によれば、星の魔力を喰らいに現れる『外なる脅威』は、単一の生命体ではありません。隕石群に擬態し、宇宙空間を渡り歩く『星喰いの群れ(コズミック・スウォーム)』……。一つの星を数万年かけて養殖し、魔力が熟した頃に飛来してすべてを喰い尽くす、宇宙の捕食者です」

円卓を囲む幹部たちが、一様に息を呑む。

俺は腕を組み、モニターに映し出されたシミュレーション映像――空を覆い尽くすほどの隕石群が星に降り注ぎ、大地が枯れ果てていく想像図を睨みつけた。

「周期は不明。明日来るかもしれないし、一万年後かもしれない、か。だが、標的がこの星である以上、放置はできない」

俺は重々しく口を開き、幹部たちの顔を見渡した。

「これより、我が迷宮国家の最優先事項を『外なる脅威の観測と迎撃』にシフトする。無限に溢れるDPのすべてを、今度こそ真面目に、星を守るための防衛網構築に全振りするぞ」

「「「御意!!」」」

幹部たちの声が、コントロールルームに力強く響き渡った。

「まずは、この第4都市(宇宙基地)の防衛網の抜本的な強化だ。ファウスト、ガストン」

「はッ!」

「現在の『魔力収束砲サテライト・カノン』だけでは、宇宙空間から飛来する無数の群れを撃ち漏らす可能性がある。基地を拡張し、星全体を覆う不可視の重力断層結界『星間防衛網プラネタリー・エージス』を構築しろ。そして、敵の接近を光年単位で察知できる『超長距離・深宇宙レーダー』を開発・配備するんだ」

「承知いたしました! 我が魔導物理学のすべてを懸け、星系外の微弱な魔力波長すら捉えるレーダーを完成させてみせましょう!」

「外装と砲門の増設は俺の工房に任せな! 隕石ごと蒸発させる超弩級の対空魔砲を何千門でも造ってやるぜ!」

「レオンハルト、お前は宇宙空間での戦闘を想定し、騎士団の中に『高高度迎撃特化部隊』を新設しろ。リリアのハーピー部隊と連携し、無重力下での機動戦闘訓練を開始だ」

「はっ! 必ずや、星空の彼方であっても主の剣として敵を斬り伏せる部隊を育て上げます」

俺の矢継ぎ早の指示に、幹部たちが即座に呼応する。

だが、宇宙基地の拡張だけでは不十分だ。地上からの観測と、迎撃を支える強固な「基盤」が必要になる。

「そして、もう一つ。地上における対宇宙防衛の要を建設する」

俺はホログラムの地図を切り替え、熱砂大陸の遺跡の位置――赤道直下の砂漠地帯を拡大表示した。

「この砂漠の遺跡の真上に、新たなサテライト都市を建造する。名前は『星見の都市』だ」

「砂漠のど真ん中に、新たな都市を……」

ミラージュが思案顔で呟く。

「そうだ。ここは赤道直下で、周囲に遮る山もなく、雲も発生しない。宇宙を観測するには最高の立地だ。しかも、気温は五十度を超え、周囲には水すらない過酷な環境。観光客や欲の皮の突っ張った商人どもが『別荘を建てたい』などと寄り付く心配もない」

これまでのリゾート都市やウィンターリゾートのような「娯楽施設」ではない。

純粋な防衛と観測のためだけに機能する、無骨で真面目な軍事・研究特化都市だ。

「遺跡に眠っていた天球儀のシステムを引き継ぎ、それをルリの『子機(分体コア)』と直接リンクさせる。地上からは巨大な光学・魔力望遠鏡で深宇宙を監視し、地下の遺跡は対宇宙兵器のエネルギー貯蔵庫として再利用する」

『マスター! 私とラピスで、新しい妹のコアを砂漠に産み出します! 絶対防衛のための、強くて賢い妹にしますね!』

ルリが胸を張り、ラピスも「お任せあれ!」と力強く頷いた。

「ミラージュ、この『星見の都市』は他国へのインフラ提供を一切行わない、完全な機密エリアとする。迷宮騎士団と暗部部隊の常駐はもちろん、周辺の砂漠一帯に幻惑の結界を張り巡らせ、物理的にも魔力的にも隠蔽しろ」

「承知いたしました。誰一人として、我々の真なる防衛拠点には近づけさせません」

方針が決定すると、俺たちは無限のDPと持てる技術のすべてを解放し、即座に建設を開始した。

***

数週間後。

かつて見渡す限りの砂と蜃気楼しかなかった熱砂大陸の赤道直下に、場違いなほど巨大で、そして荘厳な要塞都市が姿を現していた。

純白の強化瑠璃と、漆黒のミスリル鋼で構成されたその都市は、観光客を喜ばせるような華美な装飾は一切ない。

都市の中央には、天を突くほど巨大な『超長距離魔導望遠鏡』がそびえ立ち、静かに宇宙の深淵を睨みつけている。

地下に眠る「星詠みの祭壇」は、新たに誕生した三女の分体コアによって再起動され、地上と宇宙基地(第4都市)のデータを光の速度で同期・解析し続けていた。

「……見事なものだな」

『星見の都市』の中央管制室で、巨大なモニターに映し出される満天の星空を眺めながら、俺は静かに呟いた。

「ええ。宇宙基地のレーダーと、この星見の都市の地上観測網がリンクしたことで、我が迷宮の防衛範囲は、星の裏側はおろか、数光年先の宇宙空間にまで拡大しました」

隣に立つミラージュが、満足げにタブレット型の魔導端末を操作する。

「これで、外から来るバケモンどもがいつ現れても、俺たちは先手を取って迎撃できる」

かつて、残高ゼロのDPに怯え、スライムを配置して日銭を稼いでいた薄暗い洞窟。

それが今や、地底、地上、空、そして宇宙空間に至るまでの完璧な防衛網を敷き、星全体の運命を外敵から守護する『究極の要塞』へと変貌を遂げたのだ。

「マスター。……もし本当にその『星喰いの群れ』がやってきたら、どうしますか?」

リリアが、少し不安そうに上目遣いで尋ねてきた。

俺は、管制室の天井に投影された広大な宇宙のホログラムを見上げ、ニヤリと笑った。

「決まっているだろう。俺たちが手に入れたこの平和で最高な『遊びリゾート』を、泥靴で踏みにじろうとする不届き者だ。……宇宙のチリ一つ残さず、アヴァロンの主砲で綺麗に掃除してやるさ」

俺の力強い宣言に、幹部たちの顔から不安が消え、頼もしい笑みが浮かんだ。

星を守るための絶対的な「目」と「盾」を手に入れた迷宮国家。

未知の脅威を静かに待ち構えながら、俺たちの箱庭の防衛は、ついに星すらも飛び越えた「宇宙規模」の領域へと到達したのだった。

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