第115話:白銀の極寒大陸と、究極のウィンターリゾート計画
第115話:白銀の極寒大陸と、究極のウィンターリゾート計画
魔導浮遊要塞アヴァロンは、雲海を切り裂きながら悠然と空を進んでいた。
「ふむ……美味い。この『紅茶』という飲み物と、エルフの森の果実を使ったタルトの相性は抜群だな」
「ええ、マスター。上空一万メートルの絶景を眺めながらのティータイムとは、まさに神の遊戯ですわね」
アヴァロンの最上階に新設された全面ガラス張りの展望ラウンジ。
俺はミラージュが淹れた極上の紅茶を傾けながら、眼下に広がる青い海をのんびりと見下ろしていた。
『大空の探検航海』に出発して数日。無限のDPを動力源とするアヴァロンの旅は、もはや探検というよりは「超豪華な動く空中ホテル」でのバカンスであった。
「マスター! 第一・第二観測衛星から、詳細なマッピングデータが送られてきましたぞ!」
ラウンジに駆け込んできたファウストが、興奮気味に空中に巨大なホログラム地図を展開した。
「現在地は、ラピス殿を設置した新大陸から北西方向へ約五千キロ。見てください、この巨大な陸地を!」
ホログラムに映し出されたのは、旧大陸や新大陸にも引けを取らないほどの超巨大な大陸の輪郭だった。
しかし、その大陸の表面は緑や茶色ではなく、どこまでも続く純白に塗り潰されている。
「真っ白……だな。雲に覆われているのか?」
「いえ、違います。これはすべて『雪』と『氷』です。衛星の温度計測によると、この大陸の平均気温はマイナス三十度を下回り、中心部ではマイナス八十度にも達する『絶対凍土』……生命を寄せ付けぬ、極寒の死の大陸です!」
俺の故郷(地球)で言うところの、北極や南極に位置する大陸なのだろう。
「ガハハハ! 凍てつく死の大陸か! 未知の氷晶石や、寒冷地特有の魔獣の素材が山ほど眠ってそうじゃねえか!」
ガストンが大槌をバンバンと叩き、レオンハルトも「極限環境での行軍訓練には最適です」と目を輝かせている。幹部たちはすっかり探検モードだ。
「よし、あの大陸を最初の探索目標にする。だが、その前に『服装の改善』が必要だな」
俺は立ち上がり、リリアとファウスト、ガストンを呼び寄せた。
「いくらお前たちが頑丈でも、マイナス五十度の世界で普段の格好(鎧や白衣)のまま動き回れば、一時間で氷像になるぞ。だから、俺の知識を元に『最強の防寒具』を作る」
俺は紙とペンを取り出し、前世の記憶にある「ダウンジャケット」や「発熱インナー」「スノーブーツ」の構造を描き出した。
「リリア、お前の工房で最高級の魔獣の羽毛を限界まで詰め込んだジャケットを作れ。表面の生地には、ガストンが打った風を通さない特殊な魔力繊維(ナイロンの代用)を使う」
「はいっ! モコモコで暖かくて、可愛いデザインにしますね!」
「ファウスト、お前は服の裏地に、着用者の魔力を微量だけ吸って発熱し続ける『魔導発熱回路』を編み込め。これで氷点下でも常にコタツの中にいるような暖かさを保てるはずだ」
「クハハハッ! 携帯用小型暖房陣ですね! お安い御用です!」
無限のDPと天才たちの技術が結集し、数時間後には「超防寒・魔法ダウン装備一式」が完成した。
俺や幹部たちはもちろん、空間転移ゲートを使って本拠地から遊びに来ていたルリとラピスの双子コアも、白いモコモコのダウンコートに耳当て付きのニット帽、ムートンブーツという愛らしい雪ん子スタイルに着替えた。
『わぁぁ! これ、すっごくポカポカします!』
『お姉ちゃん、雪だるまみたい!』
『ラピスだってコロコロしてるじゃないですかー!』
「よし、防寒対策は完璧だ。アヴァロンを降下させろ。いざ、白銀の大陸へ上陸だ!」
***
アヴァロンから雪上用魔導ビークルで降り立った俺たちを待っていたのは、見渡す限りの銀世界だった。
針葉樹林は分厚い雪に覆われ、澄み切った空気が肺を心地よく刺激する。
『グルルルルル……ッ!!』
「おっと、早速お出ましだな」
雪煙を上げて現れたのは、体長五メートルを超える巨大な白熊の魔獣『クリスタル・ベア』の群れだった。その爪や牙は、ダイヤモンドのように硬い氷柱でできている。
「我が主の御前である! 道を開けよ!」
レオンハルトが雪を蹴立てて一瞬で距離を詰め、大剣の一閃でクリスタル・ベアを両断する。
「ガハハ! こいつの毛皮と氷の牙は、いい素材になるぜ!」
ガストンが魔獣を解体していく横で、俺は周囲の雄大な雪山を見上げていた。
傾斜のなだらかな斜面。豊富に積もった極上のパウダースノー。そして、遠くに見える活火山の噴煙。
「……マスター? 何をそんなに真剣な顔で見つめているのですか?」
ミラージュが、ダウンコートのフードを目深に被りながら尋ねてくる。
「いや……この雪山を見てたら、前世の記憶が刺激されてな。……ここは、世界一の『ウィンターリゾート』になるぞ」
「うぃんたー……りぞーと?」
首を傾げる幹部たちに、俺は興奮気味に説明を始めた。
「この傾斜と雪質は、『スキー』や『スノーボード』っていう雪の上を滑り降りる遊びに最適なんだ。板一枚で風を切って雪山を滑空する爽快感は、空を飛ぶのとはまた違う中毒性がある。雪合戦やかまくら作り、氷の彫刻を並べた『氷祭り』もできる」
「雪を……滑空する遊び……!」
「さらに! あっちに火山があるってことは、確実に『温泉』が湧いている。雪山で冷え切った身体を、真っ白な雪景色を眺めながら熱い湯に浸かって温める『雪見露天風呂』。湯上がりには熱々の鍋料理と熱燗だ! これ以上の極楽はこの世に存在しない!」
俺の熱弁に、幹部たち、そしてルリとラピスがゴクリと喉を鳴らした。
「マ、マスター……それは、先日の『迷宮出張所』計画の第一弾ということですね?」
ミラージュが目を輝かせる。
「ああ! ここに巨大なウィンターリゾート拠点『スノーパラダイス出張所』を建設する! 山の頂上まで一瞬で運んでくれる『魔導リフト(ロープウェイ)』を通し、麓には最高級の木材を使った超巨大温泉旅館を建てる! DPの消費上限はない、一瞬で創り上げろ!」
俺が空間のステータス画面を操作し、無限のDPを滝のように注ぎ込む。
すると、真っ白だった雪山が地鳴りと共に形を変え、頂上へ向けて輝く魔導ケーブルが伸び、麓には広大な露天風呂を備えた純和風(地球風)の巨大な温泉宿が文字通り「生えて」きた。
世界最高峰の魔法建築による、究極のレジャー施設の完成である。
「さあお前ら、探検の前にまずは遊びだ! 滑るぞ!」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
俺の用意した魔導スキー板とスノーボードを履いた幹部たちが、初めての感覚に戸惑いながらも、持ち前の超絶な身体能力ですぐにコツを掴み、雪山を猛スピードで滑走し始めた。
「クハハハハッ! 重力と摩擦係数の絶妙なバランス! これは奥が深いですぞ!」
ファウストが白衣(の上にダウン)をなびかせて直滑降でぶっ飛んでいく。
「アハハハ! マスター、見てください! 私、転ばずに滑れましたー!」
ルリとラピスが、テトを乗せたソリを引っ張りながら楽しそうに雪原を駆け回る。
そして数時間後。
遊び疲れて冷え切った俺たちは、完成したばかりの超巨大な『雪見露天風呂』に肩まで浸かっていた。
「……はぁぁぁっ……極楽だ……」
「ガハハ、こりゃあたまらねえ。雪を見ながら熱い湯に入り、冷えたエールを流し込む。生きてて良かったと心の底から思えるぜ」
ガストンが赤い顔をして豪快に笑う。
男湯と女湯を隔てる竹垣の向こうからは、ミラージュやリリア、双子コアたちの楽しげなはしゃぎ声が聞こえてくる。
無限のDPを使って、ただ俺たちが遊ぶためだけに創り上げた極寒の大陸の温泉リゾート。
だが、温泉でくつろぐ俺の頭の片隅で、前世のサラリーマンとしての「経営者の勘」が警鐘を鳴らしていた。
(……待てよ。この『スキー』や『雪見温泉』っていう未知の娯楽。おまけに『魔法ダウン』とかいう最強の防寒具。……これ、旧大陸の同盟国の貴族や、新大陸の皇帝連中を招待したら、またとんでもない額の金(魔力)を落としていくんじゃないか……?)
大空の探検航海で見つけた第一の未開大陸は、俺たちの極上の遊び場であると同時に、世界の富裕層を狂わせる「新たなる無限の金脈」の誕生を意味していたのである。




