第114話(閑話):世界震撼の事後報告と、大空の探検航海(グランド・クルーズ)計画
### 第114話(閑話):世界震撼の事後報告と、大空の探検航海計画
第3都市『リゾート階層』に新設された、海を見渡す白亜の国際大会議室。
そこには、獣人連邦の獣王、エルフの長老、商業都市国家の代表といった『同盟国』の重鎮たちと、世界の裏側を牛耳る『ダンジョンマスターの叡智の賢人会』の五人が、一つの巨大な円卓を囲んで座っていた。
迷宮国家が主催する、定期報告会。
だが、今日の会議室の空気は、いつものような和やかなものではなかった。
全員が、玉座に足を組んで座る迷宮の主と、その両脇でニコニコと笑っている「二人の少女」を、信じられないものを見るような目で見つめ、完全に沈黙していたのだ。
「――というわけでだ」
俺は、手元の冷えたトロピカルジュースをコトリと置き、呆然とするVIPたちに向けて口を開いた。
「事後報告になるが、新大陸の北の果てにあった『禁忌の奈落』と、そこに巣食っていた『狂宴の残党』、ついでにそいつらが復活させようとしていた『邪神のコア』は、我が迷宮の浮遊要塞アヴァロンと幹部たちの総攻撃をもって、完膚なきまでに殲滅した。これで世界を脅かす火種は完全に消滅したというわけだ」
「「「…………」」」
「そんで、ここからが本題なんだが」
俺は立ち上がり、ルリと、そして新しく生まれた双子の妹コア・ラピスの肩に手を置いた。
「邪神のコアの魔力をルリが吸収した結果、コアが自己進化して双子に分裂した。この赤い髪飾りのラピスを、新大陸の奈落跡地に『第二本拠地』として設置してきた。双子のコア同士は空間を越えて完全にリンクしているから、旧大陸と新大陸の間に、距離ゼロの『超巨大転移ゲート』と、魔導列車の『大陸間直通トンネル』が開通した」
俺はホログラムで、二つの大陸が太い光の線でガッチリと結ばれた図面を展開した。
「つまり、お前たち同盟国は、今まで船で何ヶ月も命がけで渡っていた新大陸へ、我が迷宮を経由すれば『徒歩数分』、あるいは『列車の優雅な旅』で安全かつ一瞬で移動できるようになった。新大陸の覇者であるラングス帝国とも不可侵の盟約を結ばせたから、今後は自由かつ安全に、大陸間の超巨大貿易を行ってくれて構わない」
そこまで一気に説明し終えると、俺は「何か質問は?」という顔で周囲を見渡した。
「「「…………は?」」」
長き沈黙を破ったのは、エルフの長老の震える声だった。
「せ、世界の終わりとも言われた邪神を……たったの数日で、それも無傷で討ち果たした、だと……?」
「しかも! コアが分裂!? 空間を繋げただとォ!?」
賢人会の老魔術師が、椅子から転げ落ちんばかりの勢いで立ち上がった。
「シ、シンよ! お主、自分がどれほど常軌を逸したことを成し遂げたか分かっておるのか!? 神話の化け物を滅ぼしたばかりか、星の物理法則すら捻じ曲げて二つの大陸を繋ぐなど……もはやダンジョンマスターどころか、創造神の領域じゃぞ!!」
「最高じゃないの! 新大陸の特産品が、明日から私のお茶会に並ぶってことでしょう!?」
女傑のマスターが興奮で扇子をへし折る。
「おおお……! マスター・シン! 我らが盟友よ! これで我が国の経済は、世界を飲み込むほどに膨れ上がりますぞ!」
「この御恩、末代まで! いや、星が滅びるまで決して忘れません!」
同盟国の重鎮たちは、恐怖よりも圧倒的な経済的恩恵にひれ伏し、文字通り床に額を擦り付けて感涙にむせいでいた。
「まあ、堅苦しい挨拶はいい。インフラは好きに使ってくれ」
俺は苦笑しながら手をヒラヒラと振った。
「それで、我が迷宮の今後についてだが。これにて『防衛とインフラ整備』は完全に終了した。よって、これからはあの浮遊要塞アヴァロンを使って、衛星が発見した『まだ見ぬ別の大陸や未開の諸島』への探索部隊を出すことにした。未知の資源や美味い食材を発見したら、またお前たちにもお裾分けしてやるよ。それじゃ、報告会はこれで閉会だ」
俺がそう告げて退室しようとすると、背後からVIPたちの「万歳!」「神よ!」という狂乱の歓声が、いつまでも波のように響き渡っていた。
***
VIPたちへの事後報告を済ませた俺は、本拠地であるマスターズ・チェンバーへと戻り、迷宮の最高幹部たちとの『これからの方針会議』を開いていた。
円卓には、レオンハルト、ミラージュ、ファウスト、ガストン、キュウビ、リリア、そして二人のコアであるルリとラピスが顔を揃えている。
「さて、お歴々。表向きには探索部隊を出すと言ったが……要するに、無限になったDPと浮遊要塞を使って、世界中をバカンスしながら遊び尽くす『大空の探検航海』の始まりだ」
俺がニヤリと笑うと、幹部たちから一斉に歓声が上がった。
「クハハハハッ! 素晴らしい! 我がアヴァロンの探査レーダーと、上空のGPS衛星を連動させれば、この星の裏側に隠されたどんな秘境だろうと丸裸にできますぞ!」
ファウストが、新たな未知との遭遇を夢見て白衣を震わせる。
「ガハハハ! 見知らぬ土地の未知の鉱石! 未知の魔獣の素材! 俺の鍛冶魂がウズウズしてきやがった!」
ガストンが大槌を撫で回し、レオンハルトも静かに闘志を燃やしている。
「未開の地には、まだ見ぬ強者が潜んでいるやもしれません。我が騎士団の武の鍛錬には絶好の舞台です」
「マスター。探索にあたり、一つ提案がございます」
ミラージュが、世界地図のホログラムを指し示しながら口を開いた。
「アヴァロンで未開の大陸や諸島を巡る際、もし価値のある資源や、風光明媚な土地を発見した場合は……そこに『迷宮出張所』を設置してはいかがでしょうか?」
「出張所、だと?」
「はい。現在、ルリちゃんとラピスちゃんの双子コアの共鳴により、我が迷宮のDPは無尽蔵、かつ魔力ネットワークは星の裏側まで瞬時に届く状態にあります。ならば、極小の端末コア(魔力の中継器)を未開の地にポンと置くだけで、そこは一瞬にして『絶対安全の迷宮領土』となります」
ミラージュは妖艶に微笑み、計画の全貌を語った。
「温泉が湧く島を見つければ、そこを出張所にして直通ゲートを繋ぐ。珍しい果物が採れるジャングルを見つければ、そこを農園として出張所にする。……そうすれば、マスターは世界中の極上の贅沢を、いつでも瞬時に取り寄せる(あるいは遊びに行く)ことができる『究極のリゾート・ネットワーク』を構築できますわ」
「……天才か、お前は」
俺はミラージュの有能すぎる提案に、思わず感嘆の声を漏らした。
かつては「いかにして無駄遣いをするか」に頭を悩ませていたが、上限が突破し、無限の資産を手に入れた今、俺たちが為すべきことは「いかにして人生(異世界)をしゃぶり尽くすか」という、純粋な快楽の追求にシフトしていた。
『マスター! 私とラピスで、世界中にいっぱい出張所を作ります! それで、みんなで美味しいものをたくさん食べましょうね!』
『お姉ちゃんと一緒に、星をまるごとマスターの遊び場にしちゃいます!』
ルリとラピスが元気よく手を挙げ、テトが「キュイッ!」と賛同の鳴き声を上げる。
「よし、決まりだ! ファウスト、アヴァロンの居住区画を『最高級の動くリゾートホテル』仕様に改装しろ! ガストン、未知の環境に対応できる探査用の魔導ビークルを開発だ!」
「「「御意!!」」」
「準備が整い次第、俺たちは第一の未開大陸へ向けて出航する! さあ、世界中を俺たちの遊び場で塗りつぶしてやろうぜ!」
マスターズ・チェンバーが、かつてないほどの熱気とワクワク感に包まれる。
もはや、脅威に怯えて地下に穴を掘っていた「残高ゼロ」の時代は、遠い過去の笑い話だ。
絶対の武力、無限の富、そして無敵の仲間たち。
すべてを手に入れた迷宮の主と最高幹部たちの、星全体を巻き込んだ「底抜けに明るく、容赦のない大探検」が、今ここに幕を開けたのだった。




