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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第11話(閑話):交差する三つの視線

第11話(閑話):交差する三つの視線

 巨大惑星テラ・マグナ。

 『大深緑の迷い森』を囲むように存在する二十以上の国家は、その日、森の中心部から放たれた名状しがたい「産声」を確かに感じ取っていた。

■ 聖王国ルシリス辺境・冒険者ギルド本部

「……間違いない。森の生態系が、狂い始めている」

 木張りの床に広げられた巨大な羊皮紙の地図。それを渋い顔で見下ろすのは、大深緑の迷い森に最も近い辺境都市を管轄するギルドマスター、ガストンだった。

 歴戦の元冒険者である彼の顔には、深いシワと刀傷が刻まれている。

「ガストン様、先ほどの報告のまとめです。森の浅い階層に生息していたはずのフォレストウルフの群れや、ゴブリンの集落が、ここ数日で立て続けに『消失』しています。死骸はありません。まるで、森の奥へ飲み込まれたように……」

「それに加え、中層の魔物たちが外縁部へ逃げ出してきているんだったな」

 副ギルドマスターの報告に、ガストンは忌々しそうに葉巻の煙を吐き出した。

 魔物が本来の縄張りを捨てて逃げ出す理由は一つしかない。

「森の深部に、とんでもない『捕食者』……いや、未知のダンジョンが生まれたと考えるべきだろう。しかも、凄まじい勢いで周囲の魔物を吸収し、成長を続けている『生きた迷宮』だ」

「討伐隊を、編制しますか?」

「馬鹿を言え。今は情報が少なすぎる。……まずは腕利きの斥候部隊スカウトを派遣しろ。ただし、絶対に深入りはするなと伝えろ。相手の規模すら測れん現状では、ただの犬死にになる」

 ガストンの脳裏には、地図の空白地帯――鬱蒼と茂る大深緑の深淵が、巨大なあぎとを開けて人間たちを待ち構えているような、底知れぬ悪寒が走っていた。

■ 魔導帝国ゼノス・宮廷魔導観測所

 一方、聖王国とは森を挟んで反対側に位置する魔導帝国ゼノス。

 水晶と魔導機械が所狭しと並ぶ薄暗い観測室で、帝国筆頭魔導師であるゾルタンは、歓喜に打ち震えていた。

「素晴らしい……! 見ろ、この魔力波形を! 一日あたり三百、いや四百に迫る莫大なダンジョンポイントが、自然生成されている!」

 空中に浮かぶ魔力観測盤には、大深緑の森の中心に、真っ赤に燃え上がるような巨大な魔力溜まりが表示されていた。

 昨日までわずかな反応しかなかったそれは、『名前』を得たことで一気に世界の法則に固定化され、莫大なエネルギーを放ち始めたのだ。

「閣下、これは危険ではありませんか? これほどの魔力を持つ迷宮は、最悪の場合『魔王』の誕生を……」

「愚かしい! 危険だと? これは我々ゼノス帝国をさらに飛躍させるための『極上の燃料リソース』だ!」

 ゾルタンは部下の懸念を一蹴し、血走った目で観測盤を睨みつけた。

「ダンジョンのコアを無傷で制圧し、我が帝国の動力炉に組み込めば、他国を何十年も出し抜ける。聖王国の堅物どもがもたもたしている間に、先遣隊を送れ! 森の奥深くに眠る無名の迷宮……その心臓は、我が魔導帝国がいただく!」

 強欲と野心に満ちた号令が、帝国の軍事部門へと下された。

■ 樹海王国アルフヘイム・世界樹の泉

 そして――人間の国家とは異なる、大深緑の森の最深部に近い隠れ里。

 森精エルフたちが暮らす樹海王国アルフヘイムの中心で、一人の美しい女性が静かに瞳を開けた。

 長く透き通るような金髪と、森の神秘を湛えた翡翠の瞳。

 数百年を生きるエルフの女王、エルフレイアである。彼女の膝元には、水面を鏡のように張った『神託の泉』があった。

「女王陛下……。森の木々が、騒いでおります」

「ええ。私も感じました。森の深淵に、新たな『あるじ』が誕生した産声を」

 近衛騎士の緊張した声に、エルフレイアは優しく微笑んで首を振った。

「案ずることはありません。たしかに強大な魔力ですが……これまでの狂暴な迷宮とは、まったく質が異なります」

 エルフレイアは泉の水面にそっと触れた。

 通常、魔物が寄り集まるダンジョンの魔力は、血の匂い、殺意、そして淀んだ欲望で満ちている。しかし、新たに誕生したその迷宮――『深緑の無名奈落』から流れ込んでくる魔力は、不思議なほどに静謐せいひつだった。

 そこにあるのは、知性。そして、内なる住民たちを『護る』という、暖かくも強固な意志の波長。

「殺戮を目的とする邪悪な魔力ではありません。むしろ……まるで一つの温かな『家』のようですらあります。あの中心にいるのは、理性を持ち、対話が可能な存在のはず」

「では、陛下。いかがなされますか?」

「人間の国々は、いずれあの場所を脅威とみなすか、欲に駆られて戦火を交えるでしょう。森が血で穢れる前に……私たちが、真っ先に接触を図ります」

 エルフレイアは立ち上がり、静かな、しかし有無を言わさぬ王の威厳をもって宣言した。

「私が最も信頼する『風の使者』を編制しなさい。目的は侵略でも討伐でもない。森の新たなる隣人への、友好的な外交です」

 恐怖から剣を握る者。

 強欲から軍を動かす者。

 神秘から対話を選ぶ者。

 深緑の無名奈落アンネームド・アビス――記憶喪失の青年シンが手探りで作り上げた「沈みゆく要塞」は、本人の与り知らぬところで、世界を巻き込む巨大な渦の中心になろうとしていた。

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