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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第108話:禁忌のコア分割と、衛星迷宮(サテライト)計画

第108話:禁忌のコア分割と、衛星迷宮サテライト計画

「……もう嫌だ。俺は疲れた」

マスターズ・チェンバーの玉座で、俺は天井を仰ぎ見て深くため息をついた。

大深度地下網(魔導列車)の開通から数ヶ月。同盟国との間に生まれた空前絶後の好景気は、留まることを知らずに加速し続けている。そして俺のステータス画面では、使っても使っても濁流のように流れ込んでくるDPダンジョンポイントの数字が、ついにカンストの壁を物理的にぶち破りそうな勢いで明滅していた。

「泣き言はおやめください、マスター。現在、地上の迷宮入り口には、同盟に加えてほしいと泣きつく六十三カ国の王侯貴族と特使が、テントを張って野営しております。彼らのあしらいも限界です」

ミラージュが、うず高く積まれた嘆願書の山を前に、冷ややかな、しかしどこか楽しげな声で報告する。

「だから同盟以外の連中にインフラを使わせる気はないと言っているだろうが。だが……このままDPが飽和し続ければ、本当にルリがパンクしてしまう」

俺は台座の上で「あわわわ……」と目を回している少女姿のルリを見つめ、一つの狂ったアイデアを思いついた。

直ちに幹部たちを招集し、さらに最近すっかりリゾート階層に居座っている『叡智の賢人会』の五人にも声をかけた。

***

数十分後、円卓には迷宮の最高幹部たちと、アロハシャツや水着姿にローブを羽織った賢人会のマスターたちが顔を揃えていた。

「――単刀直入に言う。新たなDP消費計画として、『ダンジョンコアの分割』を実行する」

俺が宣言した瞬間、会議室の空気が完全に凍りついた。

「「「…………は?」」」

幹部たちが呆然とする中、最も激しく反応したのは賢人会の老魔術師だった。

「シ、シンよ! お主、自分が何を言っているのか分かっておるのか!? コアの分割じゃと!? ダンジョンコアとは、迷宮の魂そのもの! それを分かつなど、歴史上どの文献にも存在せん『絶対禁忌』じゃぞ!」

「禁忌だとか歴史だとかはどうでもいいんだよ、爺さん。要は、一つのルリにDPが入りきらないなら、器を増やして小分けにすればいいだけの話だ。前世(俺の故郷)では『サーバーの負荷分散』とか『サブスクのファミリープラン』とか言って、よくある手法だ」

俺の謎の横文字に賢人会が目を白黒させる中、ルリが顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。

『わ、私を分割……!? つまり、私から分裂して「子供」ができるってことですか!? マ、マスターと私の……子作り……!?』

「語弊があるから変な想像をするな。魔力的な分体コピーを作るだけだ。……ファウスト、技術的に可能か?」

話を振られた異端の学者・ファウストは、片眼鏡をガタガタと震わせながら、狂喜の笑みを浮かべた。

「クヒッ……! クハハハハッ! 流石はマスター! 常人の発想を遥かに凌駕する狂気! コアの自己増殖と分割……理論上、天文学的なDPと膨大な魔力圧縮の工程を経れば、不可能ではありません! ただし、成功率は未知数。莫大なエネルギーを文字通りドブに捨てる覚悟が必要ですぞ!」

「最高じゃないか。ドブに捨てる大義名分が欲しかったんだ」

俺は心の中でガッツポーズをした。

「で、その『子供コア』を作ってどうするのよ? まさかコレクションにする気じゃないでしょうね?」

派手好きな女傑のマスターが、扇子で口元を隠しながら尋ねる。

「『衛星迷宮都市サテライト・シティ計画』だ」

俺は空間に巨大な世界地図のホログラムを展開し、大陸の各地――同盟国ではないが、交通の要衝となっているいくつかのポイントを指し示した。

「同盟国以外に直接インフラ(魔導列車)を繋ぐ気はない。だが、このままでは地上の入り口に難民や特使が溢れかえって面倒だ。だから、分割した『子供コア』を核にして、世界の主要エリア数カ所に、我が迷宮の『出張所』となる小規模な衛星都市を建設する」

ホログラムの地図上に、ぽつぽつと光の点が灯っていく。

「これらの衛星都市には、最低限の防衛機能と、我が迷宮の物産(ポーションや武具)を扱う交易所を設ける。そして、地下網を通じて、衛星都市と我が本拠地だけを極秘の物流用魔導列車で繋ぐ。他国の連中は、自力でその衛星都市まで足を運べば、そこから我が迷宮の恩恵に『間接的』にあずかることができるというわけだ」

「なるほど……!」

ミラージュが手を打ち鳴らした。

「我が国(本拠地)のセキュリティと清浄さを保ちつつ、周辺諸国には『衛星都市まで来れば取引してやる』という飴玉を与える。国々は衛星都市周辺の治安維持に血眼になり、結果として、世界中の富と情報が、自然と我が迷宮の出張所へと吸い寄せられていく……。マスター、恐ろしいほどの覇権構想です!」

「いや、ただ俺が面倒くさいから窓口を外に丸投げしたいだけで……」

俺の弁明は、熱狂の渦に飲まれて誰の耳にも届かなかった。

「ガハハハッ! こりゃあいい! 各地に俺たちの支店ができるようなもんだ! ドワーフの建築技術を世界中に見せつけてやるぜ!」

「各サテライトの治安維持には、我が騎士団の精鋭を分隊として派遣しましょう。これで、世界のどこで火種が起きようと、即座に制圧が可能です」

ガストンとレオンハルトも完全に乗り気だ。

そして、賢人会の五人は、驚愕から一転、ギラギラとした欲望の目を向けてきた。

「シ、シンよ……。その『コアの分割と培養』の実験、我々にも手伝わせろ! いや、手伝わせてください! 我々の数千年の知識と魔力、すべてつぎ込んでも構わん!」

「そうよ! コアが自ら増殖するなんて、ダンジョンマスターの究極の夢じゃない! 絶対に間近で見たいわ!」

前代未聞の「コアの分体生成」という神の領域の実験に、老魔術師たちも完全に知的好奇心を刺激され、身を乗り出してきた。

「ああ、好きにしてくれ。とにかく、限界までDPを使ってルリの負担を減らすのが最優先だ。予算の上限はない。今日から全勢力をもって、コアの分割と衛星都市群の建設を開始する!」

俺が力強く宣言すると、マスターズ・チェンバーは歓声と拍手に包まれ、ステータス画面のDPが、ようやく目に見える速度で「激減」し始めた。

俺は安堵の息を吐き、玉座に深く背を預けた。

(よし……! これでようやくDPが空になる。それに、直営のインフラを他国に提供するわけじゃないから、経済効果もたかが知れているはずだ。俺は賢い!)

――しかし、シンはまたしても理解していなかった。

「世界各地に、絶対的な安全と富を約束する不可侵の都市サテライトが出現する」ということが、人間国家の勢力図をどう塗り替えるのかを。

各国の王は、シンの衛星都市を取り囲むように自国の首都を移転させ始め、衛星都市を中心とした新たな「世界絶対経済圏」が構築されてしまうことを。

そして、点在する「子供コア」たちが、その地で集めた莫大なDPを、親であるルリの元へと『親孝行』として倍返しで送金してくる未来が、すぐそこまで迫っていることを。

シンの究極の「面倒避け&無駄遣い計画」は、迷宮国家を名実ともに『世界を支配する帝国の中枢』へと変貌させる、最後のピースとなってしまったのである。

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