表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/132

第107話:音速の魔導列車と、世界を狂わせる好景気(インフレ)

第107話:音速の魔導列車と、世界を狂わせる好景気インフレ

「間もなく、本列車は第一同盟国『獣人連邦・王都駅』へ到着いたします。車内の揺れは全くございませんが、お忘れ物のなきようご準備くださいませ」

美しい声の魔法アナウンスが、最高級の絨毯が敷き詰められた優雅な車内に響き渡る。

流線型の純白のミスリル装甲に包まれた全長数百メートルの鉄の蛇――超高速魔導列車『グランド・エクスプレス』のラウンジ車両では、エルフの貴族や獣人の豪商たちが、一滴もこぼれないワイングラスを傾けながら優雅に談笑していた。

「素晴らしい……。あの迷宮から出発して、わずか二時間だぞ。本来なら、屈強な護衛を雇って馬車で三週間はかかる死の森の道のりを、こんなにも快適に……」

「外の景色すら見えんほどの速度(音速)で走っているというのに、騒音も揺れも皆無。しかも車内には、迷宮騎士団の重鎧リビングアーマーが直立不動で警備に立っており、魔物どころか盗賊の入り込む隙もありません。まさに完璧な安全ですね」

ファウストの魔導機関とガストンの鍛冶技術が生み出した「音速の魔導列車」。そしてレオンハルトとリリアが構築した「絶対防衛・警備システム」。

大深度地下網グランド・ネットワークは、シンの指示通り、一縷の妥協もない完璧なインフラとして完成し、稼働を始めてから数ヶ月が経過していた。

そして、この「完全無料の超絶インフラ」が世界にもたらした恩恵は、シンの想定――いや、各国の経済学者の想像すらも遥かに絶するものであった。

これまでは輸送コストと魔物のリスクにより、ごく一部の特権階級しか手に入れられなかったエルフの森の『万能霊薬エリクサー』や、獣人連邦の『幻獣の毛皮』が、毎日大量かつ無料で商業都市へと運ばれていく。

逆に、商業都市からは世界中の金や最新の嗜好品が、あっという間に同盟国や迷宮の『リゾート階層』へと流れ込む。

距離と時間の壁が消滅したことで、同盟三カ国と迷宮国家を結ぶ経済圏は、空前絶後の超好景気インフレに突入したのである。

「はははっ! 売れる! 売れるぞ! 我が商会の利益が去年の百倍を超えた!」

「迷宮のマスター・シン様万歳! 神より尊き我らが盟友に、溢れんばかりの感謝と祈りを!」

莫大な富が循環し、誰もが豊かになり、誰もが迷宮への深い感謝と歓喜に打ち震える。

そして、その極大の「ポジティブな感情」と「爆発的な経済活動の余波」は、当然のように、ダンジョンコアであるルリの元へと還元されていく。

『マスタァァァ! すごいです、すごすぎますぅぅっ! トンネルを維持するのに毎日DPを使ってるのに、皆さんの「ありがとう」と「儲かった」っていうエネルギーが強すぎて、使った分の五十倍くらいDPが溢れ返ってきますーっ!』

「…………どうしてこうなった」

マスターズ・チェンバーの玉座で、俺は完全に死んだ魚の目をしていた。

完全無料。一銭も取らない。大赤字確定の慈善事業だったはずだ。なぜ、無料の交通機関を動かしているだけで、宇宙開発の時以上のバグのような速度でDPが増殖しているのか。

「損して得取れ」の極致。インフラの無料化がこれほどの経済効果と信仰の対象になるとは、現代日本のサラリーマンだった俺の経済観念を完全に破壊していた。

「ご報告いたします、マスター」

俺が頭を抱えていると、大量の書簡を抱えたミラージュが、どこか呆れたような、しかし極上の笑みを浮かべて現れた。

「同盟国の異常なまでの繁栄と、あの魔導列車の噂が、ついに周辺の人間国家にも知れ渡りました。現在、我が迷宮の地上出入り口には、各国の使者が長蛇の列を作っております」

「使者? まさか、ガルダル王国の一件を忘れて文句でも言いに来たのか?」

「逆です。彼らは皆、大量の貢物を抱え、土下座をしながらこう叫んでいます。『どうか、どうか我々も同盟国に加えてください! 我々の国にも、あの神の列車を繋げてください!』と」

俺はため息をついた。

これまで迷宮を「人間の敵」「恐ろしい魔窟」として警戒し、距離を置いていた国々が、同盟国との絶望的なまでの「経済格差」を見せつけられたことで、完全にプライドを捨ててすり寄ってきたのだ。

「中には、『国の主権を半分譲渡してもいいから、迷宮国家の属国にしてくれ』と泣きついてくる小国すらあります。彼らをどうなさいますか?」

「……追い返せ。うちは慈善事業で列車を走らせてるわけじゃない。最初から俺たちを信じ、共に血を流す覚悟を持って盟約を結んでくれた国(エルフや獣人たち)だからこそ、恩返しをしているんだ。金や利益目当てで尻尾を振るような連中に、俺たちのインフラを使わせる気はない」

「承知いたしました。容赦なく叩き出し、同盟国との格差を指をくわえて見させておきましょう」

ミラージュが嬉々として退室しようとした、その時だった。

『ほっほっほ。相変わらず、容赦のない男じゃのう、シンよ』

突如、マスターズ・チェンバーの空間が歪み、巨大な魔力通信のホログラムが浮かび上がった。

そこに映っていたのは、叡智の賢人会の五人――老魔術師や女傑のマスターたちだった。

「爺さんたち。通信機(GPS端末)の使い方はすっかり覚えたようだな。で、世界最古のダンジョンマスター様たちが、揃いも揃って何の用だ?」

俺が警戒しつつ尋ねると、五人のマスターは顔を見合わせ、そして――深々と頭を下げた。

「シン! 頼む! 我々の迷宮にも、あの『魔導列車』の駅を造ってくれ!!」

「えっ?」

「リゾートへの移動が劇的に楽になるだけじゃない! あの列車に我々の迷宮で産出する素材を乗せれば、地上の商人を介さずに莫大な利益を生むことができる! あんな途方もない魔導技術、我々の時代には考えもつかんかったわ!」

女傑のマスターが、興奮で鼻息を荒くして身を乗り出してくる。

「もはや、お主の創り上げた地下ネットワークは、この星の新たな『大動脈』じゃ。これに乗れねば、我々古い迷宮は時代に取り残されて干からびるしかない。頼む、莫大なDPと、我々の迷宮の全技術を対価として支払う! だから、地下を繋がせてくれ!」

世界を裏から支配してきた賢人会すらも、魔導列車の利便性と経済効果の前に完全に屈服し、頭を下げてきたのだ。

彼らからすれば、もはやシンはただの新参のマスターではなく、星の経済と流通を完全に掌握した「新たな神」に等しい存在となっていた。

「……ミラージュ。もう、俺はダンジョン経営をしているのか、世界征服をしているのか分からなくなってきたぞ」

「ふふっ、マスターの深い慈愛と無駄遣いが、結果として世界中の首を真綿で締め上げているのです。実に素晴らしいことですわ」

完全に狂ってしまった世界の経済と、ひれ伏す権力者たち。

俺の『究極の無駄遣い計画』は、皮肉にも迷宮国家を名実ともに「世界の絶対的中心(覇権国)」へと押し上げ、もはや誰にも止められない黄金のインフレーションを引き起こしていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ