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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第104話:星の海への魔道重力昇降機(スペース・エレベーター)と、究極の無駄遣い

第104話:星の海への魔道重力昇降機スペース・エレベーターと、究極の無駄遣い

「――というわけで、現在の我が迷宮のDPは、帝国のマキナ侵攻の熱狂還元により、カンストはおろか限界突破の向こう側へと突入しつつある」

マスターズ・チェンバーの円卓。

俺が重々しく告げると、空間に投影されたステータス画面の狂ったような数字を見た幹部たちは、一様に息を呑んだ。

「これ以上のDP飽和は、ルリのコアそのものに負荷をかけかねん。したがって、今回の方針会議の目的はただ一つ。『いかにして、この天文学的なDPを文字通り宇宙の果てまで吹き飛ばすか』だ」

俺の言葉に、幹部たちはゴクリと喉を鳴らした。

前回の「無駄な過剰防衛階層」は、結果的に最高のアトラクションと化して大黒字を生んでしまった。同じ轍は踏まない。今回は絶対に、一銭の利益も生み出さない、ロマンと自己満足の極致を叩きつける。

「マスター。宇宙の果てとおっしゃいましたが、それは比喩表現ではなく……?」

ミラージュが、何かを察したように瞳を細めた。

「ああ。文字通り、宇宙そらへ行く」

俺は立ち上がり、円卓の中央に新たなホログラムを投影した。

それは、俺たちのいるこの広大な惑星。そこから、大深緑の迷い森の地下深くにある我が迷宮を起点として、一本の光の線が天を貫き、宇宙空間へと伸びていく図面だった。

「新プロジェクト。第4都市『軌道上宇宙開発基地』の建造を開始する」

「う、うちゅうぅぅぅっ!?」

ファウストが、片眼鏡を吹っ飛ばして絶叫した。

「マ、マスター! それは星の海! 神々の領域! 大気を抜け、重力の枷を外れた虚空の絶対領域ですぞ! そこに都市を造るなど、正気の沙汰では……ッ!」

「正気じゃないからやるんだよ。DPが有り余ってるからな」

俺は前世の知識――現代地球の科学技術と宇宙開発の概念を、魔法世界流に翻訳して説明を始めた。

「まず、地下の迷宮から地表、そして遥か上空の宇宙空間の基地までを繋ぐ『魔道重力昇降機スペース・エレベーター』を建造する。素材はガストン、お前の工房で最高純度のミスリルと神樹の繊維を編み込んだ超高度合成ケーブルを何万キロも作ってもらう。途方もない時間とDP、魔力を食い潰す究極の建造物だ」

「ガ……ガハハハハッ! 最高だぜマスター!! ドワーフの歴史上、星を繋ぐ柱を打った奴なんていねぇ! 俺の職人魂が沸騰してマグマになりそうだ!」

ガストンが太い腕をバンバンと叩き、歓喜に顔を歪める。

「そして、宇宙空間に第4都市を築き、そこから無数の『魔導人工衛星』を軌道上に放つ」

「エイセイ、ですか?」

レオンハルトが眉をひそめる。

「空に浮かぶ、俺たちだけの偽物の星だと思えばいい。こいつの目的は三つある。一つ目は『全世界の測量とマッピング』だ」

俺はホログラムの惑星を回転させた。

「俺が最初にルリから聞いた話では、この星は地球……いや、俺の知る基準の星の数十倍の大きさがあるという。だが、今俺たちが把握しているのは、この大陸と周辺の20数カ国だけだ。衛星の超高高度カメラと魔力探知を使えば、まだ見ぬ他の大陸の存在や、未知の海洋、すべての地形を丸裸にできる」

「なんという……! それは、世界そのものを掌握する神の視点に等しい!」

ミラージュが身震いし、その目に強い興奮の色を浮かべた。

「二つ目は『全魔星測位システム』……俺の故郷の言葉で『GPS』という機能だ。これは、衛星からの特殊な魔力波を使って、地上のどこにいても自分や味方の位置を寸分の狂いなく把握できるシステムだ」

「位置を……常に……?」

「そうだ、レオンハルト。これがあれば、深い森や砂漠、海上であっても絶対に迷わない。我が迷宮の物流は完璧な最適化を迎え、もし戦争になれば、敵の部隊の位置を完全に補足しつつ、味方の軍を針の穴を通すような精度で誘導できる」

「……ッ!! 戦術の根底が覆ります。そのような神の如き目を手に入れれば、我が迷宮に奇襲など絶対に不可能です!」

騎士団長が震える声で感嘆を漏らした。

そして俺は、最も凶悪な三つ目の目的を口にした。

「最後は『絶対防衛網』の構築だ。軌道上の衛星に高出力の魔力砲を搭載する。もし再び帝国のような大軍が攻めてきたり、あるいはあの『狂宴の残党』どもがどこかの国で不穏な動きを見せたら……」

「……地上からは絶対に手出しできない宇宙空間から、ピンポイントで超火力のレーザーを撃ち落とすのですね。もはや一方的な蹂躙、天罰そのものです」

ミラージュが恍惚とした溜息をつき、ファウストは「おおお! 重力加速を利用した軌道質量兵器メテオ・ストライクも組み込ませてください!」とヨダレを垂らして懇願している。

『マスター! すごいです! この計画なら、何千万、何億っていうDPを一気に消費できちゃいます! ルリ、もうパンクしなくて済みそうですーっ!』

台座の上のルリが、安堵と興奮で青白く輝いている。

「ああ。これだけスケールがデカくて、かつ『直接的な利益(金)』を生まないインフラ事業なら、絶対に大赤字になるはずだ。無駄の極致だが、俺たちの安全と知的好奇心は完全に満たされる。……よし、全会一致だな。第4都市および衛星防衛網計画、これより発動する!」

「「「御意!!」」」

幹部たちの地鳴りのような返答と共に、俺のステータス画面から、かつてないほどの凄まじい勢いでDPの数値が減少していく。

俺は心の中でガッツポーズをした。

(勝った……! これでようやく、DPのオーバーフローに怯えなくて済む。宇宙開発なんて、金と魔力をドブに捨てるようなもんだからな。絶対に回収なんてできないはずだ!)

――しかし、この時の俺はまだ気づいていなかった。

この「GPS機能」と「世界地図(別大陸の発見)」が、リゾート階層に集う世界中の大商人や同盟国たちから『天文学的な価値を持つ情報インフラ』として絶大な需要を生み出すことを。

そして、安全な航海ルートと新大陸発見の興奮が世界中を包み込み、迷宮に対する凄まじい「畏敬」と「感謝」の感情エネルギーとなって還元されることを。

数ヶ月後、俺が宇宙の彼方から降り注ぐ莫大なDPの濁流を前に、完全に白目を剥いて玉座から転げ落ちる運命にあることを……今の俺はまだ、知る由もなかったのである。

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