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三歳の娘を探して異世界へ渡った。俺を見つけたのは、水を出す魔法を覚えた八歳の娘だった  作者: 船越千里
第七章 秋、帰る日を数える

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俺は棒をもう一本こしらえ、娘の帰る日を数えた

 薪を割る音が、上の段から下まで届くようになった。

 葉が落ちて、家と家のあいだに何も無い。夏は、隣で割っていても途中で消えていた。いまは、どこの軒先でやっているかまで分かる。

 木は、もう出してある。ヨナスが人を集めて、林から割る場所まで運んだ。俺の手はいらなかった。上の段の、まん中の家の屋根には、そのあとで藁を足した。上へ上がったのはヨナスで、俺は下から束を渡した。南の面の痩せたところへ、上から重ねてある。

「あんた、枝を一本持ってったろう」

 割る場所のほうから声が来た。

「もらいました。棒にします」

「棒なら、夏に削ったのがあるだろう」

「縄の当たるところが減っています。二本にして、交替で使います」

「減ってから削っても、間に合うだろう」

「減ってからだと、その日は運べません」

「……あんたは、去年もそう言って、壁を先にやったな」

「壁は、村長に頼まれたものです」

「頼まれる前から、見て回ってたろう」

 ヨナスは丸太を一つ起こして、割る場所のまん中へ据えた。

 軒の下の薪は、どの家も去年より高い。春のうちに頼んで、夏のあいだに乾かしたぶんだ。

 見回りは、この前で一度終えてある。屋根と、壁の下と、薪と、戸。戸のところは、どの家も下の隙間を見た。冬に風が通るのは、たいてい下からだ。北のはずれの手前の一軒は、埋め木を入れてから音が出ない。

 坂の途中で、あの婆さんとすれちがった。

「風が、入らなくなったよ」

 布に包んだものを俺の手へ押しつけて、そのまま上がっていった。中は見ていない。手のひらに、温かいところがあった。

 置き場の前で足を止めた。袋の面は、胸の下まで下がっている。秋に積み終えたときは、胸のところまであった。はじめの出す日が、霜の降りた朝にあった。減ったのは、そのぶんだ。次の出す日までは、この面は動かない。

 南の風よけは、その日の夕方に戻した。夜になると風の向きが変わると、去年言われた。杭は動いていない。縄も、たるんでいない。


 枝は、軒の下に立てかけてある。木を出した日に、一本もらってきたものだ。

 節が二つある。節のところは折れないが、肩に当たると痛い。どちらも、はしのほうへ来るように向きを決めた。節のまわりは、ほかより硬い。小刀が滑るので、そこだけ刃を立てて落とす。

 片目をつぶって、はしから通して見た。まん中で、わずかに逃げている。逃げているほうを上にして使う。下にすると、重さのかかったところが、そのまま下がっていく。

 古いほうを横へ並べて、はしをそろえた。長さは変えない。変えると、桶の振れ方が変わる。古いほうは、娘の発つ日が決まる前に削ったものだ。印のところへ鉈を入れて、余ったぶんを落とした。

 皮を剥いだ。肩の来るところだけは残す。剥いだ側は、しばらく手に粉がつく。

「それ、なに」

 木屑を拾いに来た子が、袋の口を持ったまま覗きこんでいた。

「棒です。水を担ぐのに使います」

「そのくずも、もらっていい」

「持っていってください。焚きつけになります」

「なんで、二本もいるの」

「一本を休ませます。休ませたほうが、長くもちます」

 子は削り屑を両手で集めて、袋へ入れた。入れてから、走っていった。

 まん中は細くしない。重さが乗るのはそこだ。太さは、握って親指と中指の先が触るくらいにする。細いと、肩に食い込む。落とすのは、はしのほうだけにする。小刀で回しながら削って、握って、指の腹に当たるところをまた落とした。

 はしの溝は、爪が引っかかるだけの深さで止めた。深くすれば縄は動かないが、木がそこから折れる。縄は、夏に綯ったのが一巻き残っている。新しいうちは伸びるので、伸びたぶんは二度目に締め直せばいい。

 一日に二軒ぶん、二度に分けて運ぶ。上りのあいだ、棒は肩から下りない。減るのは、いつも同じところだ。

 持ち上げて、古いほうと持ち替えた。新しいほうが重い。切ってからの日が浅い。使ううちに軽くなる。肩へ入れてみると、当たるところが古いほうより俺の首に近い。皮を残した幅を、そのぶん広げた。溝から桶の縁までの長さは、古いほうで測ってある。長く提げると、坂で足に当たる。縄は、まだ通していない。


 村長が来たのは、日が高くなってからだ。日の当たっている側に立って、俺が手を止めるまで何も言わなかった。

「昨日、主家から人が来た」

「置いていきましたか」

「置いていった。泊まりは一晩だ。向こうのやることは変わらん」

 村長は、たたんだ紙を出して、俺に渡した。手のひらより小さい。

「つむぎちゃんが学園を出るのは、今日から十日あとだそうだ」

 一度、通して読んだ。

 学園を出る日が、まず書いてある。その下に、迎えのことがあった。行き帰りの人は主家から出す、とある。前に書かせたとおりだ。

 その下に、学園へ戻る日があった。今日から二十六日あとだ。

 日にちのところへ戻って、指で押さえた。道は四日か五日ある。十日に足すと、着くのは十四日か十五日あとだ。帰りは冬が進んでいるぶん、五日のほうで組む。戻る日から引くと、村を発つのは二十一日あとになる。村にいるのは六日か七日だ。村長と俺で、二度読み返した。

「迎えは、どこまで来ますか」

「村までだ。前と同じところまで来る。坂は上がらん」

「日は、動きますか」

「雨なら動く。向こうは先に決めて、決めてから知らせてくる。人と馬をそろえる都合があるからな」

「一人で乗ってくるんですか」

「いや、人はつく。行きも、つけたろう」

「泊まりは、行きと同じですか」

「同じだろう。主家が取る。あの子が決めることじゃない」

「返事は、要りますか」

「要らん。受け取ったと、それだけ書いておく。おれが書く」

 村長は、置き場のほうへ目をやった。

「上の段の藁は、足りたか」

「足りました。残ったぶんは、置き場の隅に入れてあります」

「そうか。次は、出す日だ」

「出す日の前に、文乃に訊いてください。今年のは、どれが何日もったか、ぜんぶ紙に書いてあります」

「日にちが出るのか」

「出ます。長くもたないものから、先に配れます」

「なら、決める前に寄る」

 村長が行ったあと、割る音がまた聞こえた。

 紙を懐へ入れて、置き場の裏へ回った。木の実の袋の口を、見ておくつもりだった。渋の抜けたぶんは、この前、娘の家の棚へ上げてある。

 袋の向こうに、畑が見える。土には、株の跡しか残っていない。その跡のあいだに、サナがしゃがんでいた。土に手はつけていない。

 こちらからは、声をかけなかった。袋の口を折り直して、坂を下りた。


 日が落ちてから、家へ戻った。

 台の上に鉢が並んでいる。文乃は、蓋を一つずつ布で拭いていた。

「今年のぶんは、これで終わりか」

「……終わり。あとは、去年のと並べるだけ」

「去年の頁と、同じ形になるのか」

「……なるわ」

 懐の紙を、台の上へ置いた。

「主家からだ」

「……日にちが」

「十日あとに、学園を出るそうだ。村にいるのは六日か七日だ」

 文乃は受け取って、そのまま黙って読んでいた。

「……六日か七日」

「道が四日か五日ある。着くのは、十四日か十五日あとだ」

 文乃が娘へ書くと言っていた紙は、出さないうちに、本人が着くことになった。

 文乃は紙の束をひらいた。書かずに、そのまま手を止めていた。

「……帰ってきたら、水は」

 あとは言わなかった。

「村には、言っていない」

 文乃は、鉢の一つに蓋をのせた。

 板を出して、俺は下のほうに日にちを書いた。学園を出る日と、着く日の見込みと、村を発つ日。それだけ書いて、炭を置いた。

 その下には、何も書かなかった。



 あと十日で、あの子が学園を出る。

 あの人は、紙を受け取るとすぐ、その場で日を足していた。道が四日か五日で、村にいるのは六日か七日になるという。

 今年の鉢は、今日で終いまで書けた。去年の頁の隣へ置くと、並びの長さが違う。長いほうが、去年だ。

 これで、去年と今年が同じ形になった。同じ形になるまでに、一年かかっている。訊きたいことは、いくつもある。並べてみると、どれも、私の都合で並んでいる。

 あの子が着くころの日づけを、先に書いておいた。その下は、あけてある。何を書くことになるのかは、その日に分かる。六日か七日なら、はじめから終わりまで数えられる。



 寝る前に、土間へ下りた。

 新しいほうへ縄を通した。はしの溝へ二度巻いて、重さがかかると締まる向きで結ぶ。土間の隅から桶を二つ持ってきて、両はしに提げた。肩へ入れて、先へ出る側を指の幅ぶん短くした。水は入れていない。空でも、釣り合うところは変わらない。

 古いほうは、縄を外した。黒くなったところを指で押すと、木が沈む。ここが割れると、上りの途中で桶が落ちる。

 休ませるほうを、軒の下の奥へ入れた。


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