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三歳の娘を探して異世界へ渡った。俺を見つけたのは、水を出す魔法を覚えた八歳の娘だった  作者: 船越千里
第四章 冬、越えるまで

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サナが帰ってきて、わたしは全部しゃべった

「つむぎちゃん、朝からごめんよ」

 外から呼ばれた。棒を灰に入れたまま、返事をした。

「いるよ」

 戸があいて、下の家のおばさんが顔を出した。両手で鉢を抱えている。

「ゆうべ、落としちゃってねえ」

 鉢の中には灰が入っていた。火をもらいに来る人は、みんなこれを持ってくる。

 わたしは棒で寄せて、下から燠を二つすくった。おばさんの鉢の灰の上にのせて、それからまた上に灰をかける。かけすぎると、着くまでに消える。

「つけてこようか。すぐだよ」

「いいのいいの。これで足りるよ」

 おばさんは鉢を抱えなおして、そうっと出ていった。

「助かったよ」

 と、戸の外で言った。

 わたしはまた、竈の前にしゃがんだ。おとうさんの家で寝たのは三日で、雪のやんだ朝に、こっちへ帰ってきた。それからは、朝はうちの竈から始まる。もとにもどった。

 二十歩の道は、あれから何回も掻いた。いまは固くなっていて、走ってもいい。走るなと言われなくなったのは、おとといからだ。

 灰は二日でたまる。三回すくうと、窪みの底が見えてくる。外の決まったところまで運ぶあいだに、腕がだんだん下がってくる。

「どいて」

 窪みの前に、いちばん小さいのが立っていた。羽をふくらませたまま、どかない。灰を持ったままでは押せないので、またいで通った。

 水瓶の蓋をあけたら、上に薄い氷が張っていた。手をかざして、下から足す。張っていた氷がういてきたので、端へ寄せて、指でつまんで外へ出した。指にくっついて、なかなか落ちなかった。

 干したものは、朝に出して、そのままにしておく。昼に見に行っても、まだ濡れている。


 わらぐつを、靴の上からかぶせて履いた。ひもが凍っていて、結び目がかたい。指で押してゆるめてから、足首にまわした。

 外は、あちこちで、しゃっ、しゃっと鳴っていた。みんな掻いている。道は村じゅうでつながっている。

 きょうは四軒だ。上の段から順に回る。

 一軒目は、甕が大きいのに替わっていた。前のは、わたしが両手でかかえられた。いまのは、かかえられない。

「これ、いっぱいでいい?」

「いっぱいでいいよ。この前みたいに、来られん日があるからねえ」

 中へ手のひらを向けた。内側に、わたしの手のかげがうつっている。かげが短くなってきたら、もうすぐいっぱいだ。

 短くなって、消えた。

「助かるよ」

 二軒目は、水ではなくて、保たせるほうだった。鉢のふたをあけてもらって、上から手をかざす。水のときとちがって、音がしない。中で五つ数える。数えるのは、わたしが勝手に決めた。ほんとうは、もっと早くていい。

「そっちのも、いいかい」

「いいよ」

「助かった」

 三軒目のおじさんは、話が長い。ゆうべの雪の話をして、去年の雪の話をして、そのまた前の雪の話をした。わたしは途中で、自分で鉢のふたを閉めた。

 四軒目へ行く途中で、坂の下から呼ばれた。

「つむぎー、板ある!」

 子供が三人、板を一枚かかえていた。薪の下に噛ませてあったのを、もらったのだそうだ。まんなかが割れていて、もう使わないやつだ。

「すべる?」

「すべる」

 四人で坂の上まで持って上がった。上から見ると、村がぜんぶ下にある。

 いちばん小さい子が先に乗った。まっすぐ行って、下の平べったいところで止まった。次の子は途中で横を向いて、そのまま横のまま下まで行った。

 わたしは二回乗った。二回目はうしろにもう一人乗ったので、重くて、途中で止まった。二人で降りて押したら、板が先に行った。

「あ」

 板は、下まで行った。ひとりで行った。

 四人で走って下りた。走ると、足首のところから雪が入る。入ったのは、あとで気がついた。

 三人で乗ろうという話になって、乗る前に三人とも落ちた。落ちて、しばらく起きなかった。空が白い。白いところを、そのまま見ていた。

 横でだれかが笑いだした。つられて、止まらなくなった。笑うたびに、背中の雪がずれた。

「つむぎ、まだ行くとこある?」

「ある」

 起きて、走った。

 四軒目は、いちばん下の家だ。器を二つ出してもらって、両方いっぱいにした。

「これで四軒」

「そうかい。じゃあ、きょうはおしまいだ」

 おしまいだと言われると、まだ行けるのにと思う。でも、そう決まっている。北のはずれは、あしただ。

 帰りに、坂の途中の家の前を通った。

 戸があいていて、中から煙が出ていた。おばさんが屈んで、灰を掻いている。

「また落ちたの」

「落ちたよ。もらいに行こうと思ってたとこさ」

 わたしは、四軒までと言われている。

「やろうか」

「いいのかい。あんた、四軒までって言われてるんだろ」

「いいよ」

 言ってしまってから、いいよ、と言った自分の声を聞いた。

 細い薪を組んでもらって、上から手をかざした。ぱち、と鳴った。鳴ってから、太いのを足した。

「助かった」

 わたしは、鳴るまでのあいだがいちばん好きだ。

 坂を下りながら、指で数えた。五つある。

 四軒だと言われている。だから、五つ目は数えないことにした。

 数えないことにしたら、四つになった。


 昼をすぎたころから、また降りだした。細かい雪が、まっすぐ落ちてくる。

 夕方に帰ったら、土間の奥がふさがっていた。目がなれてくると、サナが座っていた。

「そこにいたんだ」

「さっきからいたわよ」

 わたしは戸を閉めて、わらぐつを脱いだ。サナの肩のところが、点々と濡れている。

 棚の布を持ち上げて、いちばん奥に腕を入れた。指にあたったのを出して、器に移す。もう一つ器を並べて、その上へ手をかざした。

 サナが両手を出した。そこへ落とすと、手のひらにたまって、指のあいだからこぼれた。サナは二回こすって、食べはじめた。

 わたしは土間に座って、端から話すことにした。

「戸がね、あかなかったの。押しても、ふわってへこむの」

「三回目に肩でやったら、体の通るぶん、あいた」

「出たら、一歩目で腰まで入ったよ。二歩目をさがそうとしたら、こっちが沈むの」

「ぼふって鳴るの。前のは、ぱきって鳴ったのに」

 サナは器をいったん置いた。

「ずいぶん積もったのね」

 そう言って、また食べはじめた。

「三日、おとうさんの家で寝たんだよ。渡れなかったから。なんにも持っていってない」

「ひまだから、わらでにわとりを作ったの。五羽できた。竈の横に置いてある」

「二羽目からは、うまくなった」

「こっちの火はね、消えなかったよ。三日目の朝に見に行ったら、灰の下に小さい燠が二つ残ってたの。棒をずうっと下まで入れて、持ち上げたの。そしたら、出てきたよ」

 サナの指が止まった。

「残ってたのね」

「残ってたよ」

 わたしも、もう一回言った。

「おとうさんの家のは、消えたんだって。夜に。朝、起きたら、ついてた」

「あとね、おとうさんが、帰るみちが無いって言ってた」

「きょうは四軒回った。甕が、大きいのに替わってたよ」

「坂で板をすべったの。三人で乗ろうとして、乗る前にみんな落ちた」

「小さいのは、きょうは出てこなかった。あの子、雪がおなかにつくと戻るの。ほかの二羽は軒の下から動かないのに、食べるのは早いんだよ」

 気がつくと、また鶏の話をしていた。

 わたしが一つ言うと、サナは「そう」と言う。また一つ言うと、また「そう」と言う。

 サナは器を空にした。置いてから、指を一本ずつ布でぬぐった。

 わたしは立ちあがって、めくれたままの棚の布を下ろした。下ろしているうちに、サナがうしろに来ていた。

 頭に手がのった。のったまま、動かない。わたしは喋るのをやめなかった。しばらくして、手が離れた。


 夜は、おとうさんの家で食べる。

 外に出たら、降りはやんでいた。掻いた道は、まだ道の形をしている。二十歩、まっすぐ歩いた。

 戸をあけたら、汁の匂いがした。

「サナ、帰ってるよ」

「そうか」

 おとうさんはそう言って、箸を取った。おかあさんが汁をよそって、わたしの前に置いた。

「手、なおった?」

「なおった」

「見せて」

 おとうさんは手のひらを出した。めくれていたところが白っぽくなって、まわりとおなじ高さになっている。さわると、そこが硬い。

「かたい」

「そのうち戻る」

 竈の横に、藁のにわとりが五羽ならんでいた。ぜんぶ、おなじほうを向いている。置いたときは、ばらばらだった。

「これ、ならべた?」

「……ならべてないわ」

 おかあさんはそう言って、汁を飲んだ。

「あしたも四軒?」

「四軒だ」

 あしたは、上の段が三つと、北のはずれが一つ。ちょうど四つになる。

 ごはんのあと、こっちの灰をかいた。窪みが深いから、たくさん入る。

「風、こっちだよね」

 おとうさんが、うん、と言った。

 わたしは風の上に立って、決まったところへ空けた。目に入らなかった。

 外は晴れていた。息が白い。星が出ている。

 うちへ入ったら、サナはさっきと同じところに座っていた。

 わたしは竈の前にしゃがんだ。太い薪を一本はずして立てかけて、燠をまんなかへ寄せる。上から灰をふわっとかけた。かけすぎると、朝まで残らない。

「これでいい」

 棚のところへ行った。いちばん奥は、空になっている。そこはサナの場所で、動かさない。となりに、村から預かっているのが二つある。取りに来ることになっている。

 あしたのぶんを、いちばん奥に置いた。

 よけたぶんに、布をかけなおした。


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