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三歳の娘を探して異世界へ渡った。俺を見つけたのは、水を出す魔法を覚えた八歳の娘だった  作者: 船越千里
第四章 冬、越えるまで

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わたしの冬は、火のしごとから始まる

 灰を掘ったら、下から燠が出てきた。ゆうべの火が、まだ残っている。

 朝は、これをさがすところから始まる。上のほうの灰は白くて、さわると冷たい。その下に、まだ生きている火がいる。掘るのは棒でやる。指でやると熱い。

「いた」

 赤いのに、細い薪を一本渡した。渡して、上から手をかざす。

 ぱち、と鳴った。

 鳴ってから、もう一本足した。

「ひとりで燃えだすまでが、いちばんいいんだよね」

 冬になって、朝の仕事が一つ増えた。灰をかき出すことだ。

 夏はそんなにたまらなかった。いまは二日でいっぱいになる。窪みからすくって、外の決まったところへ空ける。風の下に立つと目に入る。一回入って、それから覚えた。

 へったものもある。干したものは、もう昼にさわりに行かない。乾かないと決まっているからだ。乾かないぶんは、竈のそばに吊るす。吊るすと、けむりのにおいがつく。

「わたしは、好きだけどね」

 言っても、だれも何も言わない。だから、そのままにしておく。

 やることは入れかわっただけで、多いのか少ないのかは、よくわからない。わかるのは、朝が前より短くなったことだ。いそがしいのは、きらいじゃない。

 水瓶の蓋をあけたら、上に薄い氷が張っていた。

 指で押すと、へこんで、それからぱきっといった。割れたところをはしへ寄せて、上から手をかざす。水が上がってきて、割れた氷が持ち上がって、くるっと回った。

 これは、冬にしかできない。

「入っておいで」

 鶏が入ってきた。いちばん小さいのだ。

「まだ、そんなにあったかくないよ」

 言っても、竈の前に座った。座って、羽をふくらませた。ふくらむと、まんまるになる。

 わたしは、その横で靴をはいた。

 おとうさんの家へ行ったら、おとうさんはいなかった。

「日の出から、壁ですって」

 おかあさんがそう言って、紙をひらいた。

 わたしは水瓶に水を足して、竈をのぞいた。こっちの竈は、きのうおとうさんがいじったところだ。灰を受けるところが、前より深くなっている。

「ふかいと、たくさん入るね」

「……そうね」

 おかあさんは、それも書いた。何を書いているのかは、聞かない。聞いても、たぶん書く。


 外に出たとき、鼻の先に何かあたった。

 上を見た。落ちてくる。

「ゆき!」

 わたしは走った。走って、家の前の平べったい石のところで止まって、手のひらを出した。

 のったのが、しばらく白いままでいて、それから消えた。もう一回やった。今度は早く消えた。手を石にくっつけて、つめたくしてからやったら、長くもった。

 口をあけて、上を向いてもみた。入ったのは一回だけで、味はしなかった。

「つむぎー」

 坂の下から呼ばれた。子供が三人、こっちへ走ってくる。いちばんうしろの子が転んだ。転んで、すぐ立って、また走ってきた。

「積もるかな」

「積もるよ。夜のうちにもっと降るって、うちのとうさんが言ってた」

「じゃあ、あしたなら、坂で板がすべる」

 板がすべる、と聞いて、四人で坂を見上げた。まだ土のほうが多い。

「きょうは、すべらないね」

「あしただね」

「あした」

 言ってから、それがおかしくて笑った。

 それから坂の雪を集めた。集めると茶色くなる。茶色いのを丸めて、石の上に三つ並べた。大きい玉と、まんなかと、小さい玉。

「鶏みたい」

 わたしがそう言ったら、いちばん小さい玉を指ではじいて落とした子がいた。わたしがまた作って置いた。置いたら、また落とされた。三回目からは、笑いながら作った。

 鶏を見に戻ったら、三羽とも軒の下にいた。

 大きいのと、まんなかのは、首だけ出して、すぐ引っこめる。また出して、引っこめる。

 いちばん小さいのが、先に出た。

 一歩出て、止まった。足を上げたまま止まっている。しばらくそうしていた。

「どうしたの」

 その足を、そうっと下ろした。下ろしてから、二歩目は早かった。三歩目からは、もう走っていた。

 小さいのは雪の中をぐるっと回って、戻ってきた。三羽のうちで、いちばん濡れていた。濡れて、ちょっと細くなっていた。

 細くなったまま、ほかの二羽より先に食べた。

「やっぱり、いちばん強い」

 昼まで外にいた。手が赤くなって、指の先が言うことをきかなくなったので、火のところへ戻った。手をかざすと、じんじんする。じんじんするのは、痛いのとはちがう。


 夕方、戸をあけたら、土間の奥にサナが座っていた。

「あ、帰ってる」

 わたしは戸を閉めて、それから「ただいま」と言った。順番が逆になった。サナはこっちを見て、「おかえり」と言った。

 肩と髪が濡れていた。外を歩いてきた人の濡れかただ。サナは、こういう日に帰ってくる。

 わたしは棚へ行って、布をめくった。いちばん奥のを出して、器に移す。となりの器も出して、水を出した。

 サナが手を出したので、その上に落とした。手をこすって、それから食べはじめた。

 食べているあいだ、サナはあまり喋らない。わたしのほうは、言うことがたくさんある。

「きょう、ゆきが降ったんだよ」

 わたしは土間に座って、端から言った。

「朝はまだだったの。灰をかき出して、水を足して、おとうさんの家に行って、それから外に出たら、もう降ってた」

「手のひらで受けるとね、しばらく白いままなの。手をつめたくしてからやると、もっと長い」

「口もあけたよ。あんまり入らない」

 サナは食べている。

「これ、今年のはじめてのだよ。村長さんが、匂いが変わったら次の日に来るって言ってて、ほんとうに来た」

 サナは器をいったん置いた。

「初雪ね」

 そう言って、また食べはじめた。

 はつゆき、と言われると、なんだか大事な日みたいに聞こえた。

「鶏がね、いちばん小さいのだけ、雪に出たの。ほかの二羽は首だけ出して、引っこめて、また出すの。ずっとやってた」

「小さいのは、戻ってきたときがいちばん濡れてた。濡れると細くなるの。細いのに、先に食べるの」

 気がつくと、鶏の話ばかりしていた。いつもそうなる。

「あとね、村の器がぜんぶ外に出てるんだよ。甕とか、鉢とか。家によって、ぜんぶ大きさがちがう。おかあさんが、どこの家がどれって書いてる」

「わたしは順番に回るの。上の段から。こっちからって聞いたら、そっちからでいいって言われた」

 サナは食べおわった。器を置いて、指を布でぬぐった。

 わたしは立って、棚の布をかけ直した。かけ直しているあいだに、サナが後ろに来た。

 頭に手がのった。

 手は、冷たくもあたたかくもない。しばらくそのままで、それから、髪のところで一回止まった。

「髪、濡れてるわね」

 言って、手が離れた。

 さわってみたら、ほんとうに濡れていた。ずっと外にいたからだ。わたしは手ぬぐいで頭をふいて、それからまた喋った。

 サナは、聞いているのかいないのか、わからない顔をしていた。それでも、ときどき「そう」と返ってくる。だから、聞いているんだと思う。


 夜は、おとうさんの家で食べることになっている。

 戸のところまで二十歩ない。今日は雪の上を歩いた。歩くと、きゅっと鳴る。数えたら、二十回にならなかった。足が大股になったからだと思う。

 おとうさんは、土のにおいがした。

「壁、終わったの」

「一軒終わった。あと一軒だ」

「あしたも?」

「明日もだ」

 おかあさんが汁をよそって、それから、わたしの手を見た。

「……つめたくない?」

「つめたくないよ。じんじんしただけ」

 おかあさんは、それは書かなかった。かわりに、わたしの器のほうへ汁を寄せた。

 ごはんのあと、竈の灰をかいた。

 こっちの窪みは深いから、たくさん入る。かき出して、外の決まったところへ空けた。ちゃんと風の上に立った。目に入らなかった。

「そっちはいい。俺がやる」

 おとうさんが戸口から言った。

「もうやった」

「……そうか」

 おとうさんは、灰を受けるところをのぞきに来て、それから何も言わなかった。

「ふかくしたの、いいね。いっぱい入る」

「そうか」

 今度は、少し早く言った。

 うちのと、こっちの。竈は二つある。灰も二つある。

 二つあると、二回できる。二回できるほうが、いい。

 外に出たら、雪はやんでいた。地面が白いせいで、思ったより明るい。

 戸をあけたら、サナはまだ座っていた。

「ただいま」

 おかえり、とサナが言った。わたしは竈の前にしゃがんだ。

 太い薪を一本はずして、立てかける。燠をまんなかへ寄せて、上から灰をかぶせる。かぶせすぎると朝まで残らないから、ふわっとやる。

 おとうさんの家のも、いまごろ同じようにしているはずだ。深くしたところに、灰がたまっている。

 わたしは横になって、目をつぶった。

 明日の朝も、二つとも、下は赤いままだ。


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