王都へ
夜、宿舎にてユリクスは腕と脚を組んで椅子に座っていた。目を閉じ、傲岸不遜な雰囲気を醸し出している。その前には仁王立ちで立っている五人。一触即発だ。そんな中で、一人が言葉を発した。
「ねぇユリィ、あんたなんでサボったのかしら?」
「……」
リアナが圧を孕んだ声音で問いただす。しかしユリクスは口を開かない。何度も繰り返されているやり取りだ。繰り返されるたびに五人の視線が責めるような鋭いものに変わっていくのだが、それでも頑なに口を開かない。
ピリピリとした空気に満たされる中、仁王立ちをしていなかったティアが穏和に問い掛けた。
「ねぇ兄さん、どうしてサボったの?」
「……」
「何かあったの?」
「……」
「何か大事なことしてた?」
「……」
ティアの問い掛けにも何も答えない。しかし、ほんの少しだけ瞼が開いた。鋭さはなく、柔らかさもない眼差し。それはすぐにまた隠された。ティアの眉がハの字に下がる。すると、仁王立ちをしていたライトも首を傾げながら眉をハの字に下げた。
「ねぇ兄貴、ティアの姉御にも答えないってことは、何かあったんスね?」
「……」
反応はない。そこで、ティアは少し考える素振りを見せてから再び問い掛けた。
「じゃあ、答えたくないってことでいい?」
「……そうだな」
初めてユリクスは口を開いた。
「む? 答えたくないから黙っているのではないのか?」
「そうだけど、みんなが思ってるような理由じゃないと思うよ」
ティアに視線が集まる。ティアはユリクスを見つめた。
「だって兄さん、どんな時だって正直に言うもん。なのに黙ってるってことは言えない理由があるんだと思う」
ティアの言葉に他の者たちは「確かに」と納得する。普段から傲岸不遜なのでサボった理由など「面倒だったから」と悪びれもせずにはっきり言うだろう。リアナが長嘆息を漏らした。
「もういいわ。何かあったってことで」
「そうですね」
「悪かったな、ユリィ!」
はい解散。というようにそれぞれ寛ぐために散っていった。そんな中、ティアはユリクスの脚に両手をついて顔を覗き込んだ。
「答えたくない理由くらい言ってもいいと思う。せめて『答えられない』とか」
「……俺にはどこまで言っていいのか、その線引ができない」
「そっか」
ティアが顔をほころばせた。ユリクスは首を傾げる。
「嘘つかないところ、好きだよ」
「……そうか」
ティアはユリクスに寄りかかって甘える。ユリクスはそれを拒絶することなく受け入れた。
しばらくゆったりとした時間が続いた。各々のんびりして羽根を伸ばす。しかし、唐突に呟かれた言葉に全員が反応した。
「……来たな」
ユリクスの言葉の意味を一拍おいて全員が理解した。少しだけ空気が締まる。
「兄貴、それって……」
「……眷属だ」
「随分早かったな」
示し合わせたかのように揃って外へ出るために動き出す。いつ出発するかは相談もしていないが、眷属たちと話だけはしておくべきだろう。きっと出発は明日になるだろうから。言葉を交わさずとも全員の思いは合致している。ここまできて自分たちの目的を先送りにする者など当然いないのだから。
外へ出て真っ直ぐに眷属たちの元へと向かった。恐らく自分たちが来たことには気づくはずなので遠慮なく家に入る。そこには七体の鷲獅子がいた。
『流石雷神、お気づきでしたか』
「……いい加減その呼び方をやめろ。……そこの四体が俺たちを連れていくんだな?」
『その通りでございます』
村へとやってきた新たな眷属たちはエイと同様の威厳と美しさを兼ね備えている。ビイとシイは無事上位眷属たちを連れてきたようだ。上位眷属たちが頭を垂れる。
『ご無沙汰しております』
「……俺はお前たちを知らないんだが」
『またお会いできたこと、欣幸の至りに堪えません』
「……本当に話を聞かない奴らだな」
斬り伏せてやりたいが、そうすると王都へ行かれなくなるので耐える。上位眷属たちが頭を上げたと同時にエイが口を開いた。
『そのご様子、すぐに出発なさるのですね?』
「……そうだな」
「村の人たちにお礼は言ったほうがいいよね?」
「……明日だ。明日出発する」
『承知しました』
決めてしまえばもう用はない。ユリクスたちはすぐに家を出て宿舎へと戻った。宿舎の中には先程のような緩んだ空気はなく、引き締まっている。
思い出される、戦う理由ができたあの日。必ず目的を果たす覚悟。それぞれが自分自身と向き合う。そして、空気が緩んだ。
「よーしっ! 明日に備えて寝るっスよ!」
「夜更しは体に悪ぃからな!」
「貴様は寝相を良くしろ。蹴ったらただじゃ済まさんからな」
「そう? ならリューズの隣はイヴね」
「端はいただきました」
いつも通りの気負わない会話。各々布団へ入っていき、穏やかな眠りに落ちていく。ユリクスも寝るために動きだそうとすると。
「兄さん」
ティアがくいくいと服を引っ張ってきた。
「一緒に寝たい。だめ?」
ねだってくるティアだが、その表情に不安の色はない。明日のことは一切心配していないのだろう。ならばそういう気分なだけだろうか。ティアはにこりと笑った。
「兄さんからエネルギーを吸収する」
「……お前な」
「ふふ、冗談」
にこにこしながらティアがユリクスを布団へと引っ張っていく。ユリクスはそれに逆らわずに共に布団に入った。ティアがユリクスの胸元にすり寄ってくる。
「シオンのこと、任せてね」
「……」
また見破られたらしい。実のところ、最も不安を感じていたのはユリクスであった。それは自身の戦いについてではない。不安だったのは、妹のこと。つらい思いをさせてしまった。今もつらいのだろうか。今は怖い思いをしていないだろうか。……愚かな自分を、許してくれるだろうか。
情けなくも今日は不安で眠れないかもしれない。そこまで考えていた。しかし、今側にいるこの子は気づいてくれた。自身の抱える不安を。気づいて、寄り添ってくれた。それがどれだけの救いになることか。人の機微に敏く、芯の強いこの子はとても強い。そんなこの子があの子と向き合うと言ってくれている。ならば、不安に思うことはないのだろう。ユリクスは小さく息を吐いた。ティアを抱きしめる。
「……信じている」
呟けば、ティアはしっかりと頷いた。
◇◇◇
翌朝、ユリクスたちは眷属の家の前にいた。ユリクスたちが出発することを知った村人たちも集まっている。リンドは変わらぬ柔和な表情を浮かべながらユリクスたち一人ひとりの顔を見回した。
「我々の村に来てくださったこと、誠に感謝申し上げます」
「ボクらの方こそ、いろいろありがとうっス!」
「いえいえ、皆様のお役に立てたのならば幸いです」
穏やかに微笑んでいたリンドだが、それが少しだけ崩れて心配を覗かせるものへと変わった。
「本当に王都へ行かれるのですね?」
「……そうだ」
「そうですか……。きっとすべてを理解して行かれるのでしょう。ならば我々から言えることは一つだけです。……ご武運を」
リンドが目礼する。ユリクスたちは頷いた。挨拶を終え、眷属たちの元へと向かおうとすると。
「ユリクスさん」
子どもの声が聞こえてきた。ユリクスに歩み寄ってきたのはラックだ。ラックもリンド同様心配そうな表情をしていたが、それが和らいだ。眉を下げ、ゆるりと目を細めて、柔らかな笑みへと。
「ありがとう」
たった一言。しかしその言葉には大きな思いが含まれていることをユリクスは悟った。大切に紡がれた言葉に、ユリクスはどんな言葉を返したらいいのかわからない。だからユリクスはラックへとゆっくり手を伸ばした。小さな頭に手を置いて、優しく撫でる。それがユリクスにできる最上の返事。それを受け取ったラックはにこっと子どもらしく快活に笑った。
村人たちに背を向けて、ユリクスたちは眷属たちの元へ。遠慮なく背に乗り、それを確認した鷲獅子たちが大きく翼を羽ばたかせた。空へと飛び立てば村はどんどん小さくなっていく。やがて見えなくなった。
「いい人たちだったわね」
「そうですね」
「また来てぇな!」
三人は余韻に浸るようにゆったりと言葉を交わす。
「おい、狭いぞ」
「こっちはもう落ちそうなんスけど!?」
こちらの二人はぎゃいぎゃいと騒がしく争っている。
鷲獅子に乗っている組み合わせだが、リアナとレージェ、リューズ、イヴァンとライト、ユリクスとティアと小さくなったメラである。
一部が騒がしいな、とユリクスが溜め息をつくと、ティアが腕の中でくすくすと笑った。
「やっぱり大事なことしてたんだね」
「……」
「ふふ、なんでもない」
恐らく先程のラックの態度で察したのだろう。しかしそれでもユリクスは応えない。きっとあの時の出来事は胸の内に留めておいた方がいいものだろうから。少しずつ、少しずつ、ユリクスも人との関わり方を思い出しているのだ。いや、もしかしたら十年前の自分よりも成長していっているのかもしれない。それはユリクスにもわからないことだ。ただわかることは、ティアの反応を見る限り自分の判断はきっと間違いではないだろうということだ。ユリクスにとっての道標はティアなのだから。
けれど、気になった。
「……ティア」
「なに?」
「……俺は、変わったと思うか?」
ガルダは心が凍ったと言っていた。そしてそれは解けつつある。しかし本当に? 己は正しく変われているのだろうか?
ティアは微笑んだ。
「うん。変わったよ」
「……そうか」
「でもね、変わったのは態度だけだよ」
「……態度?」
よくわからない。ユリクスは言葉の続きを待った。
「言葉とか、触れ方とか、接し方とか、とっても優しくなったよ。でもね、兄さんが優しくなったからじゃない」
「……どういうことだ?」
「兄さんはね、元から優しかったんだよ。それがただ態度に出るようになっただけなの」
「……俺は……優しくなんて……」
「優しいよ。だって、だからみんな兄さんと一緒にいるんだもん」
仲間たちと出逢う前、己はずっと独りだった。独りの中で、たくさんの人間を拒絶してきた。憎んできた。殺してきた。それなのに、本当に優しいといえるのか? ユリクスには自信がない。ユリクスはティアを抱きしめる力を少しだけ強めた。額をティアの頭に乗せる。
「ねぇ、兄さん」
「……」
「自分のことが信じられないなら、私たちを信じてよ」
「……お前たちを……?」
「うん。私たちが一緒にいることが証明になるんだって思ってよ。それで、兄さんがもし道を踏み外しそうになったら私たちが助けてあげる。だから、大丈夫だよ」
ティアは前に回されたユリクスの手に自身の手を重ねた。
ユリクスはティアの言葉を己の内で染み渡らせるように目を閉じた。ほしい時にくれる、あたたかな手、柔らかな声、力強い言葉。自分はなんて頼りないんだろう。不安になってばかりですぐにこの子に縋ってしまいたくなる。けれど、それをこの子は嫌な顔ひとつせずに受け入れてくれる。それに安心する自分がいる。
「……すまない」
「謝ることなんて何もないよ?」
「……そうか」
「うん」
安らぎをくれるこの子に自分は何も返せない。いつか、何かを返せるだろうか。何を返すべきなのだろうか。わからない。まだわからない。けれど、今少しだけ返せるものがあるじゃないか。それに気づけたことにユリクスは自身の変化を少し嬉しく思った。
「……ありがとう」
ティアの頭に顔を埋めながら呟けば、ティアの驚きが伝わってきた。それからするりと額にすり寄られる。腕の中の温度がとても心地よかった。
「ちょっとそこなにイチャついてんのよ」
「見せつけてくれますねぇ」
「ボクはこんなに狭い思いして頑張ってるのに」
「シスコンここに極まれりだな」
「妹離れできねぇんだなぁ」
うるせぇぞ外野。魔法をぶっ放してしまいたくなるユリクスだがなんとか耐えた。
顔を上げて何事もなかったかのように前を見据える。すると、ティアの方がむっと不機嫌そうな表情を仲間たちに向けた。
「みんなだめだよ。兄さん今センチメンタルなんだから、優しくして」
センチメンタル……?
「「「センチメンタル……?」」」
不本意なことに五人と思いが合致した。
「あのユリィがセンチメンタル……?」
「こいつがそんな繊細なわけがないだろう」
不本意なことに同意できた。
「ユリィさんってなんでも物理で解決しますからね」
「斬り伏せればなんでも解決っス! 暴君っス!」
「がっはっはっ! ちげぇねぇ!」
「……そこまで言うなら斬り伏せてやる」
そこまで言っていいとは言っていない。最近は自重を覚えたのだから。暴君は不本意だ。ここで斬り伏せてやる思考が発生するあたりが暴君とは気づかないユリクスである。
そんなこんなでわちゃわちゃとしたやり取りが繰り広げられること二日。その時が来た。
まだ距離はあるが、そびえ立つ建物が見えた。王城。当然他の建物とは一線を画する威光を放っていた。離れていてもわかる、小市民を拒絶するだろうほどの存在感。そんなものがある場所など一つしかない。
王都バハムヴィア。
漸く辿り着いた決戦の地だ。ユリクスたちは戦いが待っている地へと躊躇いなく近づいていく。とはいえ様子を見る必要はあるため鷲獅子たちには高度を上げさせた。
ある程度近づくと、王都を一周囲むように防壁が建てられているのが見える。国全体を守る防壁とは比べるまでもなく低い。イヴァンの魔法がなくともユリクスたちの身体強化であれば乗り越えられるだろう。常人には不可能だろうが。そんな防壁の外側、飛んでいてわかったことだが大平原がひたすら広がっている。他の町とはできるだけ距離を取るためだろう。その辺の町から来る人間を選定し、減らす目的であると推測できる。そう易易と余所者を受け入れることはしないという気位の高さが見て取れた。
「どうするの?」
ティアがユリクスを見上げて問う。王都に辿り着いたはいいが、どこに降りるか。それを聞いているのだ。王都の中央にある王城に真っ直ぐ突っ込んでいくわけにもいかない。そこで、ユリクスは気配を探知する。範囲が広いのでユリクスでも少々難しいが、よく知る気配を探知することに成功した。
「……北東へ向かえ」
『承知』
真っ直ぐに向かっていた鷲獅子たちが方向を変える。目的地は防壁を挟んで王都の東側にある大平原だ。行く先を定めたことで鷲獅子たちがスピードを上げ、よく知る気配の元へとすぐに到着した。
「あ!」
ティアにも目視できる下方に多くの人間が集まっていた。高度を下げ、目的の人物のすぐ側に着地する。
「鷲獅子に乗って来るなんてすげぇことすんじゃねぇか!」
目的の人物。それはゲオルグであった。ユリクスたちは鷲獅子から降りる。
「久しぶりだなお前ら!」
「……会いたくなかった」
「相変わらずつれねぇのな」
呆れたゲオルグを放って辺りを見回してみると、見知った顔があった。今まで出会った支部長、冒険者。しかしそれ以上に会ったこともない者たちで付近一帯が溢れかえっている。……多過ぎないか?
「なんかどこ見ても人なんスけど……」
「そりゃあ数十万いるからな」
「……数十万……?」
その数を聞いて愕然とする一行。そんな一行に歩み寄ってきたのはガルダだ。
「何驚いてるんだい。これから戦争だっつぅのに少ないわけないだろ?」
「……それにしても多過ぎるだろう」
「そんなこともねぇんだよなぁ」
「……まぁ、そうか」
「やっぱアンタは気づいたか」
「どういうこと?」
ティアが問えば、ゲオルグとガルダは揃って表情を深刻なものに変える。二人は重々しく口を開いた。
「丁度反対側の平原には敵である冒険者たちがいる。で、その数はアタシたちの比じゃなかったんだよ」
「全体の数はわからねぇ。だが、大体の割合くらいならわかる」
「……割合?」
「あぁ。ギルドが把握してる限り、今の世では解放者が三割、神人族に敵対している冒険者が五割、神人族を信じてる冒険者たちが二割ってところだ。集まってるのがどの程度の人数かは把握できねぇが、それを考えりゃ人数差は大体わかんだろ」
それを聞いたユリクス以外の六人は表情を固くした。その割合が良い方向に崩れているといいのだが。そんな中でユリクスは。
「……何故把握している?」
「ギルドが何してるかはアンタには言ったろ」
ユリクスはチベトーナでのガルダとの会話を思い出す。
「……ギルドも役に立つんだな」
「そりゃねぇぜユリクス」
ゲオルグが肩を落とした。それを見ても何も思わないユリクスである。そしてそれは師匠も同じなので構うことはしない。
「ちなみに魔獣もかなりいるぞ? 冒険者たちと同じくらいにな」
「……操っている個体か」
「それももちろんいるだろうが、今でもどっからか来て集まり続けてんだよ。偵察に行くたびに単独で集まってくる個体が確認できてるからな。恐らく集めてるのは奴だろう」
「……どこからか、か……」
「どうした?」
顎に手を当てたユリクスにガルダは表情を固くして問う。ユリクスは淡々と言った。
「……結構減らしてきたんだけどな」
「は?」
「確かに、ワイバルスで狩り競争して、ここに来る途中も暇だからしてたっスよね」
「いい暇つぶしだったな」
「アンタらは一体何やってんだい」
「相変わらず緊張感ねぇ奴らだな」
ガルダとゲオルグが呆れ果てた視線を向けてくるが七人はどこ吹く風で受け流した。そんな連中に二人は溜め息をつく。
「まぁアンタたちの奇行は今に始まったわけじゃないからね」
「とにかく今はゆっくりしてくれや。向こうに野営地があるからそっちに行くといいぜ」
「……随分堂々としてるんだな」
「防壁もあるし、それに向こうも同じことしてるから問題はねぇさ」
「……町を挟んで集まっている……」
「ん? そうだが?」
ユリクスは二人を正視して自らの内で出た結論を口にした。
「……王都を滅ぼすのか」
「「んなわけねぇだろ」」
なんだ、違うのか。ユリクス的には本気で言ったので外れて残念だ。
「ったく、ほら早く行けよ。しっかり英気を養ってこい」
ゲオルグにしっしっと手で払われたのでユリクスたちは野営地へと向かうことにした。その前に眷属たちには他の眷属が仲間を呼びにいっていることを伝えるようにと丸投げしておいた。向かっている間、自分たちを見た多くの人間が何やら声を漏らしているが不快なものではないので無視して歩く。野営地に辿り着くと。
「来たか」
「あ、モテナさん」
歩み寄ってきたのは〝ギルド総長の懐刀〟であるモテナだ。モテナは金に煌めく前髪をかき上げた。
「ふっ、私ももちろん来たぞ」
「……そうか」
「私も神人族のためにできることはしたいからな。まぁ、レージェと婚約したお前のことは気に食わんが」
ユリクスとレージェは互いに顔を見合わせた。
「……そうだったか?」
「そういえばそんな設定ありましたね」
「せ、設定……?」
モテナが困惑と混乱が入り混じったような表情でユリクスとレージェに詰め寄った。
「せ、設定と言ったのか!?」
「はい、設定です」
「おい龍王! これはどういうことだ!?」
「……忘れた」
「忘れた!?」
「簡単に言うと、婚約は嘘です」
「はぁ!? どういうことなんだ!?」
「つい流れで」
「な、ながれ……」
モテナはふらふらと体を揺らしたかと思うとその場に崩れ落ちた。完全に生気が抜けている。
「モテナさん可哀想」
「二人とも容赦ねぇなぁ」
二人の所業に哀れみの視線をモテナへと向ける五人。すると一人駆け寄ってきた者がいた。
「モテナさん一体どうしたんだよ?」
「あ! ダリオさん!」
「ようティア、それにユリクスとライトとメラも久しぶりだな」
ルシファルタ王国のライオーネにて共に過ごしたダリオだ。
「ダリオさんも来てくれたんスね!」
「お前らと神人族の力になれるなら当然だっての! あと、ここにいるのは俺みたいな冒険者だけじゃないぜ?」
「どういうことっスか?」
「チベトーナにある隠れ里から来たっていう神人族たちもいるのさ。人間族と神人族が一緒に戦える機会が来るなんて嬉しいったらないよな」
「隠れ里……ミサもいるのかしら。だとしたら複雑なのだけれど……」
「リアナ!」
「いたわね」
呼び掛けと共にミサが駆け寄ってきた。とても眩しい笑顔に対してリアナはなんともいえない表情をしている。嬉しいような、危ないから来ないでほしかったような、と。とはいえ共に戦いに来てくれたというのはやはり嬉しく、リアナは表情を微笑みに変えた。
「ミサも来てくれたのね」
「当たり前だよ!」
「でもここは危険なのよ? 何かあったら……」
「大丈夫だよ。不死鳥の一族は後方支援だもん。だから安心して!」
「そう……でも気をつけるのよ?」
「まったく、リアナは心配性なんだから」
「リアナだからな」
「あら、アイサ」
悠然と歩み寄ってきたのは奴隷解放軍リーダーのアイサだ。
「みんな久しぶりだな。元気そうでよかったよ」
「アイサもね。あんたがいるってことは……」
「あぁ。奴隷解放軍、皆この戦いに参加するよ」
「そう……。ありがとう」
「礼を言われることじゃない。私たちは自らの意思でここに来たんだからな」
アイサの言葉にダリオとミサも頷いた。とても頼もしい表情で。数では圧倒的に不利な戦争。それでも毅然と勝利を見据えているその姿にユリクスたちも背を押されたように感じた。
「引き止めて悪かったな。ゆっくり休んできてくれ」
「……あぁ」
アイサが未だ生気の抜けていたモテナを立ち上がらせてそう言ったので、ユリクスたちは再び歩き出そうとした。――その時だった。
「「「ッ!!」」」
この場にいる誰もが息を呑んだ。一瞬感じた、体がよろけるほどの衝撃。何が起こったのかわからずに辺りを見回すと。
「……これは……」
ユリクスたちを含め、平原にいた全ての人間のすぐ近くに王城が現れた。
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