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解放者の国

最終章が始まります。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

 大道を一台の馬車が通る。馬ではなく変わった形貌の獣が引く馬車。もちろんユリクス一行の馬車だ。ユリクスたちはついに最後の国であり決戦の地であるサダン王国へと向かっていた。戦いの日は近い。故に馬車の中では緊張感が漂って……いなかった。


「ライト、それ早くちょうだい」

「急がなくてもたくさんあるっスよ!」


 荷台では七人揃って輪を作り、団欒していた。今日もライト作のお菓子の時間だ。御者台? この時間にそんなつまらない場所に座る者などいない。自分たちを狙う敵? そんなもの荷台からユリクスが排除する。見ずとも魔法を展開してサクッと仕留めるのはお手の物。敵に構っている時間がもったいない。そんなことよりお菓子だ。今日のお菓子は一口サイズに作られたフィナンシェ。いつでもどこでも食べられるようにと小さく作られたそれは全員の元へ配られ、一斉にそれぞれの口に入った。


 一瞬で口内を染めるバターの風味。油っぽさは一切感じられず、寧ろ爽やかな甘さが広がる。ぱさつきのないしっとりとした舌触り。くどさのない上品な味わいと食感が舌を楽しませ、喉を通ると体中に多幸感がもたらされる。


 ……うん。美味い。


 全員が余韻に浸っていると、それがぶち壊された。


『それはなんなのですか!? 私にも一つください!!』

「……お前は何故ここにいるんだ?」


 ユリクスの周りで喧しく騒いでいるのはドラちゃんである。ユリクスたちが出発する際、ちゃっかり馬車に乗ってきたのだ。人目を避けて国から離れるために乗ったのかと思えば、今でも当然のように一緒にいる。ユリクスは顰めっ面だ。


「……まさかずっとついてくるわけじゃないだろうな?」

『どこまでもついていきます!』

「……帰れ」

『私の帰る場所はご主人様の元です!』

「……邪魔だ」

『いえ! これだけは譲れません!』

「……」


 邪険にすれば一層ユリクスに巻き付いて密着してきた。ユリクスの機嫌が降下する。その横でくすくすと笑う声が聞こえてきた。


「兄さん、ドラちゃん良い子だし、もう仲間でいいと思うな」


 そう言ったティアはドラちゃんにお菓子を一つ差し出す。ドラちゃんは目を輝かせてぱくりとそれを食べた。


『おいしー!』

「ふふ、可愛い」

「……」

「相変わらずティアに甘いわねぇ」


 嬉しそうなティアを見て何も言えなくなったユリクスだが、その心境を簡単に見破られてしまい渋面になる。しかし言えないものは言えないのだ。この笑顔を曇らせることなどできやしない。ユリクスは嘆息してドラちゃんの体を軽く押しやった。


「……おいドラ、離れろ」

『うぅ、もっと一緒にいたいです……』

「兄さん」

「……………………ついてきていいからせめてもう少し巻き付きを緩めろと言っている」


 ユリクスから許可が下りると、ドラちゃんは見ているこちらが眩しくなるほど目を輝かせた。ユリクスからほんの少しだけ離れるとくねくねと体を大きく動かして嬉しさを表現している。これはこれで鬱陶しい。


 ティアがにこにこしながらドラちゃんを撫でた。


「よかったね、ドラちゃん」

『はい!』


 可憐な少女と美しい龍のツーショットはとても癒やされるもののはずだが、どうにも外面だけという印象が強くてユリクスには微妙である。一つ嘆息してお菓子を口に放り込んだ。やっぱり美味い。ユリクスに続くように皆がお菓子をぽんぽん口に入れていく。それでもまだまだ尽きそうにない。まったく、こんなにも大量に作るとは。よくやった。


 馬車の中が和やかな空気で満たされる。そんな時、お菓子をもしゃもしゃしていたドラちゃんがユリクスに顔を向けた。そして世間話をするような緩い口調で話しかけた。


『ご主人様』

「……なんだ」

『この先、嫌な気配が多いようですが』

「……そうだな」

『やはり気づいておられたんですね! 流石です!』

「……別に大したことじゃない」

『ご謙遜を!』

「ボクらを置いて話進めないでほしいんスけど!?」


 変わらずお菓子を食べながら会話する一人と一匹にライトがツッコミを入れた。どうやら他の面々もライトと同じ思いだったようで呆れと困惑が入り混じったような表情をしている。ユリクスとドラちゃんは首を傾げた。


「……どうした?」

「『どうした?』じゃないっスよ! なんでゆるっと無視できない会話してんスか!」

「……そんな会話してたか?」

『してましたっけ?』

「自覚なしっ!!」

「落ち着きなさいライト。いつものことよ」


 揃って溜め息をつく様子に今度はユリクスが軽く困惑した。


「それで? 嫌な気配とはなんだ?」


 腕を組んでジト目を向けてくるイヴァンが問い掛けてきた。なるほど、それを知りたかったのか。そう納得したユリクスは困惑を消す。特に思うことはないので事実だけを事務的に伝えた。


「……そこら中に解放者(リベレイター)がいる」

「……そういうことは早く言えと言いたいところだが、まぁいい。解放者(リベレイター)というのは確かか?」

「……すぐ側に魔獣もいる」

「なるほどな」


 ユリクス以外の六人が顔を見合わせ、馬車の中の空気が少しだけ張り詰める。ユリクスは再び首を傾げた。


「……どうした?」

「気にするな。貴様に緊張感を求めた俺たちが馬鹿だった」


 うんうんと揃って頷いた一同にユリクスは疑問符を浮かべる。一体どこに緊張感が必要なものがあったのだろうか。きっとこれからもユリクスが他の者たちと同じ立ち位置になることはないだろう。未だ理解ができていないユリクスを放置してレージェが話を戻した。


「それにしても、そこら中ですか……。リルクさんが解放者の国と言っていましたが、やっぱり多いということなんでしょうね」

「こりゃあ入国前から騒がしくなりそうだな!」

「一体どれだけの相手と戦うんでしょうね」

「……今までも敵はいただろう?」

「普通の冒険者と解放者(リベレイター)を一括りにするあたりどうなんスかね……」

「兄さんだから」

「それだけで納得ですね」

「……よくわからないが、来たぞ」


 会話の内容を理解する機能はなくとも気配感知は問題なく機能しているユリクスである。ユリクスは正面に背を向ける位置に座っているため流石だ。


 道脇の茂みから野生の解放者(リベレイター)と魔獣が現れた。ユリクスたちに気づいて待ち伏せていたのだろう。解放者(リベレイター)の男は下卑た笑みを浮かべて魔獣と共に馬車の進行を妨げるように立った。


「こんなところで会えるなんてラッキーだぜ。懸賞金は俺のもんだ」


 それを聞いたユリクスは。


「……それで、今までの奴らと何が違うんだ?」

「まぁ言ってることは一緒っスけど……」


 そんな会話が行われているとは知らない解放者(リベレイター)は。


「死ねや!」


 お決まりのセリフと同時に雷魔法を放ってきた。荷台に向かって真っ直ぐに向かってくる魔法。それをユリクスは()()した。正面に背を向けていたユリクスに直撃。しかし雷はユリクスの神核がある位置へと吸収されて消えた。ユリクスは何事もなかったかのようにお菓子を堪能。しながら、雷槍を二つ展開。発射。解放者(リベレイター)と魔獣は爆散した。その跡地を馬車は通る。


「……それで、今までの奴らと何が違うんだ?」

「一緒だったっスね。ボクが間違ってたっス」


 結論に至ったユリクスたちはお菓子タイムを続行。緊張感はない。お菓子をもしゃもしゃしながらリアナがユリクスを見遣った。


「雷を吸収するとか、コミカル人間ねぇ」

「一発芸獲得ですね」

「……斬るぞ」


 弄ってくる二人にユリクスは軽く苛立つが、お菓子が美味しいのでそこまで機嫌は降下しない。それに、雷魔法に限っては対処しなくてよくなったので面倒事が一つ減ったのだ。ユリクス的には有り難いのである。


 そんなこんなで特に今までと変わることなく順調に馬車は走る。だが、初めてユリクスがはっきりと反応した。


「……これは……」

「どうしたの、兄さん?」

「……子どもがいる」

「マジかよ! こんなところに子どもがいたら危ねぇじゃねぇか!」


 父親であったリューズが真っ先に焦りを顕にした。ユリクスもわかりにくいが険しい表情をしている。


「……いや、そうでもないかもしれない」

「どういうことですか?」

「……もう一人大人と……魔獣が一緒にいるらしい」

「それって……」


 即ちそれは、その子どもは解放者(リベレイター)と共にいるということ。そしてユリクスの様子から争いは一切ないことがわかる。これには誰もが複雑な思いを抱く。一つ予想できることがあるから。


「……接触するぞ。メラ、轢くなよ」

「ガウ」


 メラが馬車を止める。すると、魔獣と共に道脇から子どもが飛び出してきた。子どもは今馬車の存在に気づいたようで大きく驚きをみせた。リューズが荷台から身を乗り出す。


「おいおい、いきなり飛び出したら危ねぇぜ? 今度から気をつけるんだぞ?」


 そう声をかけると、道脇から大人の男が出てきた。ユリクスたちを見て大きく目を見張る。そして敵意に満ちた鋭い視線を向けてきた。


「今は子どもがいるんでな、見逃してやるよ」


 そう一言言うと子どもの手を引いて歩き出そうする。しかしその前に子どもがキッと睨みつけてきた。


「獣族なんて死んじゃえ!」


 大声で放たれた躊躇いのない言葉。それは自分の意思で言ったことがわかるもの。


 歩き去っていく二人と一体を見送ると少しだけ重い空気が残った。


「予想はしていましたが、子どもに言われると刺さるものがありますね」

「やっぱり神人族への負の感情は子どもたちにまで浸透しているのね……」

解放者(リベレイター)とて子どもがいる者などたくさんいる。当然のことだろう」

「わかってはいたんだけどな……」


 ギルドや一部の人間は神人族の無実を証明するために奮闘している。しかし生半可な行動では恐らく何も変わらないだろう。もしかしたら、もう不可能なところまで来ているのかもしれない。子どもという次代を担っていく者たちにまで負の感情が根付いてしまっているのだから。


「ボクたちが戦って勝ったら……変わるんスかね……」

「……変わらないだろう」

「兄貴……」


 ユリクスの歯に衣着せない一言に皆切ない表情を浮かべる。その表情を受け止めながらも、しかしユリクスは自身の考えをはっきりと口にするのだ。


「……だがそれに何の問題がある? 俺たちの目的はなんだ? 自分たちが戦うべき相手に勝つことじゃないのか?」

「「「っ!」」」


 仲間たちが息を呑んだ。ユリクスは鋭い瞳を向ける。


「……目的を履き違えるな。今後神人族への考え方が変わるのを期待するのはいいがな、それは二の次だろう。まずは自分たちの目的を果たせ。他のことまで同時に背負ったら荷物になるだけだ」


 ユリクスの言葉を仲間たちは噛み締める。目が覚めた。自分たちの本来の目的を改めて胸に刻む。神人族への価値観についてはギルドを始め、他の人たちが動いてくれている。自分たちの成すべきこととして。ならば自分たちも自分たちにしかできない、自分の成すべきことを成すために戦うべきだ。もう仲間たちの瞳には切なさも、迷いもない。


「兄貴、ありがとう。兄貴のおかげで、ボクは間違わないでいられるっス」

「脇目をしてる場合じゃないわね」


 重い空気はここにない。ここにいる者たちは目的を果たすまで迷うことは絶対にないだろう。今この時に決意を確固たるものにできたのは幸いであった。あとは進むだけ。目的地に向かって。


「メラ、お願いね」

「ガウッ!」


 再び馬車は走り出す。ちょこちょこ現れる障害物を蹴散らしながら。そしてついに、辿り着いた。


 目の前には高い壁。国を守る防壁だ。馬車を降りた一行はイヴァンの魔法でいとも簡単にひょいっと壁に乗った。そして一斉に。


「「「え?」」」


 声を揃えて素っ頓狂な声を漏らした。


「なんかおかしな景色が見えるんスけど……気のせいっスかね……」

「「「……」」」


 ライトの言葉に誰も反応しない。皆考えていることは同じなので何も言えないのだ。暫く立ち尽くす一同。夢でも見ているのではないかと思ってしまう光景がそこにあった。


 サダン王国最初の町はワイバルス。大きくも小さくもない普通の町だ。広さだけならば。ただ、この町の特色は今まで訪れた町の中で最も度肝を抜かれるものであった。その特色は住人にある。……住人? 果たして、()()は住人と言えるのだろうか?


 町を俯瞰してみれば至る所に魔獣の姿がある。けれど人がいないわけではない。人は平然と魔獣と共に生活しているようだ。簡単にいえば、まるで魔獣が犬や猫のようなペット感覚で扱われているように見えるということだ。そして放し飼いらしい魔獣もいる。頭上に。つまり町の上を魔獣が飛び回っているのだ。誰も気にしていないあたり、恐らくこれもこの町の人々にとっては当たり前のことなのだろう。


「解放者の国とは聞いていましたが、これは予想外でしたね」

「こりゃ予測できなくねぇか?」

「まぁ解放者(リベレイター)が住民の多くを占めるっていうならこうなっても仕方ないのかもしれないわね」

「でも解放者(リベレイター)じゃない人もきっといるよね? 魔獣がいたら怖いと思うんだけど……」

解放者(リベレイター)に従順な魔獣を見ていれば安心できたのだろう」

「だけど……解放者(リベレイター)が魔獣を操ってるって時点で〝決別の日〟の真相がおかしいって気づくんじゃ……」

「……理由を探ってみればいい」

「兄さん?」


 普段よりも低く重い声音にユリクスへと視線が集まった。仲間たちが見たユリクスの瞳はどこか仄暗い。


「兄さん……怒ってるの……?」

「……」


 ティアの言っていることは正しい。今、ユリクスの内では苛立ちが渦を巻いていた。ぐるぐると全身に広がり、巡っていく〝怒り〟。それは自身のものか、それとも神のものか。きっと……両方だ。


 自分たちから全てを奪った解放者(リベレイター)の国へと成り下がった母国。蹂躙された理由として使われた魔獣と平然と暮らす人々。何故〝決別の日〟を起こした理由とされている魔獣を受け入れている? なら一体何のために自分たちは蹂躙された?


 ユリクスはもう全ての人間を一括りにしない。全ての人間を憎んでいない。けれど……けれどこの町の人間だけは無理だ。憎い。心から、憎い。理由を探ると言っておきながら、それを聞いてしまったら感情のままに動いてしまうかもしれない。




 ――人間を赦すな。




「っ……」


 ユリクスは一瞬息を止めた。深呼吸をして懸命に自身を落ち着かせる。だめだ。呑まれるな。そう言い聞かせて怒りを(しず)めていく。


「兄さん、大丈夫……?」


 ティアが心配そうに顔を覗き込んできた。ユリクスは頭を撫でてやる。


「……問題ない。だが理由を探るのはやめる」

「どういうこと?」

「……魔獣は殲滅する。それだけだ」


 ユリクスは重くなく暗くもない、ただただ気合いに満ちた声音で言い切り町を見下ろす。全ての町人を見下すように。


「お、おう、()る気満々だな……」

「異論はないが……」


 ユリクスから醸し出される圧力に仲間たちはたじろぐが、反対する者はいない。寧ろ賛成である。それはティアも例に漏れないが一応確認として問われた。


「さっきみたいに魔獣と仲良くしてる子もいるかもしれないけど」

「……関係ないな」


 同感、というように他の五人もにやりと笑った。この連中に情を求めてはいけないのである。ユリクスに至っては……。


「……町ごと消滅させられないことを幸運に思えばいい」


 いやそれはだめだろう、と呆れ混じりに笑う仲間たち。すると、『うーん』と唸り声が聞こえてきた。


「……どうした、ドラ」

『……ご主人様、私は暫く留守にしようと思います』

「……俺を家みたいに言うな。それで理由はなんだ」

『予想以上にこの国に集まっている魔獣の数が多いようです。ですので私は上位眷属たちを集め対抗しようと思います』

「……眷属を? それは危険じゃないのか?」

『上位眷属ともなれば魔獣(アンデッド)にされることはそうそうありません。必ずやお力となれるでしょう。しかし魔獣にされる可能性がゼロではないことも事実です。ですのでそうなった場合は私が責任を持って始末します。ご心配には及びません』

「……そうか。戦力になるならいい。行ってこい」

『はい!』


 ドラちゃんは目にも留まらぬ速さで飛んでいった。すぐに姿が見えなくなる。ユリクスは息を吐いた。


「……やっとうるさいのが消えたな」

「兄さん?」

「…………冗談だ」


 安易なことを言うのはやめよう。ユリクスは肝に銘じる。するとライトが神器を顕現するのが見えた。


「なんかあれだけ飛んでると一体くらい撃ち落としたくなるっスね」

「……殺れ」

「やった! ど・れ・に・し・よ・う・か・なー」

「こらこらちょっと待ちなさい」

「……何故止める」


 リアナは腰に手を当てて大げさに溜め息を吐いた。


「いい? 撃ち落としたと同時にあたしたちがいることはバレるんだからね?」

「……何か問題があるのか?」

「その前に決めておくことがあるでしょう」

「あ! じゃあ何体狩ったか競争にするっス!」

「それはいいけどそうじゃないわよ」

「それはいいんだ?」


 リアナはビシッ! ビシッ! とユリクスとイヴァンを順に指さした。


「町の破壊と人殺しは禁止。いいわね、ユリィ、イヴ」

「「……何故俺たち……?」」

「そんなの、やらかしそうなのがあんたたちだからよ」

「「……」」


 ユリクスとイヴァンは渋面になる。何か言い返してやりたいが反論しづらいのも事実。ぶっちゃけ町も住人もどうでもいいから。だが他の者たちもじっと見てくるのでこれは逆らえない。複雑な二人は顔を背けた。そんな二人を見たリアナは再び大きく溜め息をつく。


「道中はともかく、町を崩壊させるようなことをしたらあたしたちの印象が悪くなるだけよ。それに、町中にいる解放者(リベレイター)を殺し尽くすなんて……〝決別の日〟と同じようなものでしょう」

「「……」」


 解放者(リベレイター)は憎い。だから復讐したっていいではないか。そう思うが、〝決別の日〟を再現するようなことは本意ではなかった。何せそれでは……。


「兄さん」


 ティアがユリクスのコートの裾を掴んだ。ユリクスはティアと向き合う。ティアは真剣な瞳でユリクスを見上げていた。


「私は解放者(リベレイター)がどうなろうとどうでもいいと思ってる。でもね、兄さんには解放者(リベレイター)たちと同じことをしてほしくない。だってあいつらと違って、兄さんは優しいんだから」


 その言葉に嘘偽りは一切なく、切に願っていることがわかった。もしもここで町中の解放者(リベレイター)たちを殺してしまえば〝決別の日〟を再現するようなもの。即ちそれは、自身を解放者(リベレイター)たちと同じ立ち位置にするということ。自身が奴らと同じ立場に成り下がるということ。ティアはそれが嫌なのだ。そしてユリクス自身にとっても許せないことだ。それに何より、ティアの切願を踏みにじることはしたくない。


 ユリクスはティアの頭を撫でる。


「……ここで人殺しはしない」

「うん!」


 ティアが破顔する。その笑顔はユリクスにとって、自身の選択が正しいことの証明になるのだ。だから決して違えない。


「おいティア」

「なに?」


 何やらイヴァンが腕を組んで眉間にしわを寄せている。


「何故ユリクスだけなのだ」

「イヴは……まぁ、しない方がいいんじゃない?」

「貴様……」

「諦めるっスよ。ティアの姉御は兄貴第一っスからね」

「チッ、わかっていても腹が立つな」


 周りの連中にしてみれば、何を今更? という感じなので特に同情はしない。故にこれ以上イヴァンに構うこともしない。


「はい、じゃあそういうことで。ライト、殺っちゃって」

「了解っス! じゃあ下に被害がでなさそうな奴は……アイツっスね! それじゃあいくっスよ!」


 ライトが飛んでいる一体に照準を合わせた。全員がスタートの合図を今か今かと待つ。


「それじゃ! ……えーっと、じゃあ……ヒャッハーっス!!」

「なんで?」


 ドバンッ!!


 ティアの疑問の声は銃声に掻き消された。ついでに他の者たちも思わず姿勢を崩す。なんだその謎の掛け声は。とはいえ始まったことに変わりはない。六人とティアを乗せたメラは一斉に壁から飛び降りた。






お読みいただきありがとうございます。


「ヒャッハー!」って言って銃をぶっ放す(頭の悪そうな)狂人的な感じ好きなんですよね。なのでライトさんに言ってもらいました。

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