↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/37

第31話 大綯い記と名消しの碑

 この国の聖典を『大綯い記(おおないき)』といいます。どの村の子どもも、寝物語に一度は聞かされる話です。

 私もこの話は好きです。少なくとも、途中までは。

【大綯い記】

◆一の段 白

 はじめ、世界には何もなく、ただ白いだけだった。

◆二の段 三本の糸

 そこへ綯い母(ないはは)が来て、月の光と、潮の満ち引きと、竜の息を三本の糸にし、一本の大縄を綯った。それがこの世界である。

◆三の段 十三の結び目

 綯い母は一年かけて、大縄に十三の結び目を作った。十四番目を結ぼうとしたところで、疲れて眠ってしまった。だから一年には、どの月にも属さない綻びの日がある。

◆四の段 人という糸

 人は大縄からほつれた細い糸である。生まれるとき大縄から一本抜け出し、死ぬと大縄へ戻る。戻る前に誰にも覚えられなくなった糸は、忘れ喰いに食べられる。

◆五の段 預けた目と手

 綯い母は眠る前に、世界が綻びからほどけてしまわないよう、片方の目を月に預け、片方の手を竈に預けた。目は留め月になり、手は鍋の婆になった。留め月が片目なのは、そのためである。

◆六の段 結び目の王

 綯い母が眠っているあいだ、大縄を結び直す者が要る。それが王である。王は大縄の結び目であり、眠る綯い母に代わって世界を結ぶ。

 この段は、古い写本にはない。初代王の時代に書き足されたのだと説いた学者がいたが、その学者の名は、今はどの帳簿にも残っていない。

【大綯い堂の宝】

◆始まりの一結び

 大綯い堂の奥に納められた、世界の最初の結び目とされる縄の切れ端。これをほどこうとした者は、自分が誰だったかを忘れたという。

◆名消しの碑

 大綯い堂の裏庭にある、名を消された者たちの碑。字はすべて削られ、表面は白い。夜になると、削られたはずの字がうっすら浮かぶと言われ、夜番の衛兵はこの碑の前を通るとき、目を伏せる。

◆巨像の目

 大綯い堂の綯い母の巨像は、刃集めで集めた刃物を釘にして組まれていて、釘が増えるたびに少しずつ姿勢が変わる。ここ百年ほどで、閉じていた巨像の目が、ほんのわずかに開いてきた、と言う者がいる。

 『大綯い記』は六つの段でできています。けれど下町の年寄りが語る話には、七つめの段があります。

 六つめの段がいつ書き足されたのか、私は知っています。七つめの段が、なぜ聖典に入れてもらえなかったのかも。

 次は少し寄り道をして、森の民の話を。人間の神々を、いちばん遠くから眺めている人たちです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。