保津川
典子は保津川の方へ潤を連れていった。
青いカブを押しながら、潤は後を追う。
「どこまで行くんです?」
「もう少し」
「典子さん」
「何?」
「さっきの話、答えてください」
典子は足を止めた。
*
「D大学に、徳田典子はいない」
「そうみたいだね」
「安心院にも、あなたはいなかった」
「うん」
「じゃあ、何であそこにいたんです?」
典子が微笑む。
「潤君に会うため」
「俺に?」
「待ってたから」
背中に冷たいものが走った。
「何で俺が来るって知ってたんです」
答えない。
*
「孝子さんと、どういう関係なんです?」
典子の表情が変わった。
「私のこと、怖い?」
「……分かりません」
「昭吾朗さんに似てるね」
「知ってるんですか」
「優しかった」
潤の息が止まる。
「何で……」
「帰ってくるって約束してくれた」
それは、
孝子の言葉のように聞こえた。
*
典子が近づく。
潤を抱きしめた。
「私のこと好き?」
「典子さん」
「私は好き」
腕に力が入る。
「ずっと待ってた」
耳元で囁く。
「もう離さない」
潤の頭がぼんやりする。
典子の手が潤の手を取る。
川の方へ。
柵の向こうへ。
「私と一緒に……」
*
里美は道端に青いカブを見つけた。
「潤!」
カブを停め、走る。
川。
崖。
そして潤。
一人で立っている。
誰かに手を引かれているように腕を伸ばし、
ゆっくり縁へ向かっている。
「だめえっ!」
里美は走った。
潤へ飛びつく。
二人で地面へ倒れた。
*
「痛っ……」
「馬鹿!」
里美が潤を叩く。
「何すんねん!」
「馬鹿! 馬鹿!」
泣いている。
潤は周囲を見る。
「典子さんは?」
里美の手が止まった。
「……誰?」
「え?」
潤は立ち上がる。
「典子さんや! 今ここに――」
誰もいない。
風が吹く。
川の音だけ。
里美は、
怯えた目で潤を見ていた。




