↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/27

動かないカブ

日曜日。


 潤は自分のカブを庭から出した。


 キーを回す。


 キック。


 かからない。


「くそっ!」


 もう一度。


 駄目。


 何度蹴っても、エンジンは沈黙したままだった。


     *


 そこへ青いカブで里美が来た。


「やっぱり行くの?」


「行く」


「やめようよ」


「典子さんに直接聞かな分からん」


「私も行く」


「里美」


 潤は時計を見る。


 待ち合わせに遅れる。


「里美、お前のカブ貸して!」


 里美が固まる。


「……うん」


 キーを渡した。


 潤は青いカブにまたがる。


「すぐ帰る」


「潤!」


 走り去った。


     *


 里美は残されたクリーム色のカブを見る。


「何で動かないの」


 試しにキックした。


 ――ブルン。


「え?」


 一発でかかった。


 止める。


 もう一度。


 ――ブルン。


 また一発。


「……何これ」


 そのとき。


『孫を助けろ』


 男の声。


 里美は振り返った。


 誰もいない。


「誰?」


『孫を助けろ』


 もう一度。


     *


 里美は榊原家へ飛び込んだ。


「おばあちゃん、潤の予備のヘルメット!」


「どうしたん?」


「あとで説明します!」


 祖母は驚きながらも渡した。


「潤を頼むな」


 その言葉に里美は一瞬止まった。


「はい」


 クリーム色のカブにまたがる。


 今度も一発でエンジンがかかった。


     *


 潤は典子と会っていた。


「バイクは?」


「今日はいいの」


「またですか」


「歩こう」


 典子が先へ進む。


 潤は青いカブを押しながらついていく。


「典子さん」


「何?」


「D大学に徳田典子って学生、いないそうです」


「そう」


「安心院にも、そんなバイトはいないって」


「そうなんだ」


「あなた、誰なんです?」


 典子が振り返る。


「典子だよ」


「そういう意味じゃない」


「潤君」


 声が柔らかい。


「こっち」


 なぜか、


 それ以上問い詰める気持ちが薄れていった。


     *


 里美はカブを西へ走らせる。


 どこへ行けばいいのか分からない。


 それでも時々、


 あの若い男の声が聞こえるような気がした。


 ――西へ。


 ――急げ。


 里美はアクセルを開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。