里美の違和感
「典子さんって、何学部?」
里美が突然聞いた。
「知らん」
「住所は?」
「知らん」
「電話番号」
「向こうからかかってくるから」
「友達は?」
「知らん」
「京都のどこに住んでるの?」
「……知らん」
里美は潤を見る。
「潤、典子さんのこと何も知らないじゃん」
「大学一年で、大分出身で、D大で」
「それ全部、典子さんが言ったことだけだよ」
潤は黙った。
*
「125のバイク乗ってるんだよね」
「うん」
「見た?」
「まだ」
「車種は?」
「知らん」
「ナンバーは?」
「だから見てへん」
里美の表情は真剣だった。
「私、焼きもち焼いてるのは認める」
「認めるんか」
「今はそこじゃない」
「はい」
「典子さんと会ったあと、潤、変なんだよ」
「変?」
「ぼうっとしてる」
「そうか?」
「前よりひどい」
*
その夜。
里美は自宅で紙を広げた。
徳田典子。
D大学一年。
大分出身。
十九歳くらい。
125ccのバイク。
安心院で会った。
だが確認できるものが何もない。
里美は黒電話の前へ座った。
電話帳を開く。
D大学の番号を探す。
*
「もしもし、すみません」
緊張しながら尋ねる。
「そちらに徳田典子さんという一年生はいらっしゃいますか」
電話の向こうで確認する声。
少し待つ。
返事が来た。
「……え?」
里美の手が止まる。
「いないんですか?」
もう一度確認する。
答えは同じだった。
受話器を置く。
紙を見る。
徳田典子。
その横へ、
里美は一言だけ書いた。
――いない。
その瞬間、
里美の表情から嫉妬の色が消えた。
代わりに浮かんだのは、
はっきりとした恐怖だった。




