京都へ
安心院を離れ、潤は別府へ向かった。
山道を下る。
昨日までとは違う気分だった。
昭吾朗。
孝子。
そして典子。
頭の中で三人の顔が重なる。
「似すぎやろ」
独り言が風に消えた。
*
別府へ着き、フェリーを待つ間に家へ電話した。
祖父へ、安心院で典子という大学生に会ったことを話す。
『孝子さんに似てる?』
「びっくりするくらい」
『親戚かもしれんな』
「本人もよう分からんみたい」
『そうか』
祖父はそれ以上言わなかった。
*
里美にも電話した。
『どうだった?』
「いろいろ分かった」
『孝子さんのこと?』
「それもやけど」
『ほかに何?』
「孝子さんにそっくりな人に会った」
沈黙。
『女の人?』
「そら孝子さんに似てるんやから」
『何歳?』
「大学一年」
『……へえ』
「何や、その言い方」
『別に』
「またそれか」
『かわいかった?』
「まあ」
『ふうん』
「何やねん」
『何でもない』
潤は受話器を見た。
京都にいるときと同じだった。
*
夜のフェリー。
潤は甲板で海を見た。
行きよりも静かな気分だった。
旅の目的だった昭吾朗のことは、少し分かった。
孝子という名前も知った。
けれど新しい謎が増えた。
徳田典子。
偶然なのだろう。
そう思う。
それでも、写真の孝子と典子の顔はあまりにも似ていた。
*
翌日。
神戸から京都へ走る。
見慣れた町が近づく。
家の前まで来たとき、門の横から人影が飛び出した。
「潤!」
「うわっ」
里美だった。
「おかえり!」
潤は笑った。
「ただいま」
その一言を口にした瞬間、
本当に帰ってきたのだと思った。




