和田レオの算法:ランサムウェア感染、事の次第 再改訂版
『小室泰六(SHERLOCK) - 和田レオ、和田進一のひ孫と、Les contes fées du virtue(デジタルお伽草子)』は、
明治時代の名探偵 小室泰六 の相棒 和田進一 の
ひ孫である現代のITエンジニア・和田レオが、
現代の2026年における、
ITインフラの危機管理に直面していく物語りです。
どうぞ、お楽しみください。
二〇二六年、或る十月の朝。
秋晴れの陽光が遮られた、某中堅ITインフラ企業のシステム本部は、
冷徹な警告音と張り詰めた静寂に包まれていた。
大型の液晶画面に表示された、
すべてのサーバーのデータがアクセス不可能を示す、
暗黒のバグコード。
原因は、
分からなかった。
ただ、
他社のウェブサイトや大切な裏の帳簿を一括で管理している運用会社として、
完全に機能停止に陥っているという、
馬鹿げた現実だけがそこに実在していた。
私―和田レオは、
手元の缶コーヒーを一気に飲み干すと、
いつものようにキーボードの前に佇み、
青白く光る画面の暗闇をじっと見つめていた。
私は、
全社のグループウェアを、
これまでの Office 365 から、
Google Workspace へと完全に移行するための、
過酷なタイムライン調整の真真ん中にいた。
さらに、
私は自らの重要な任務として、
最新のデータ開発環境である Spyder 6.1.6 (standalone) を用いた、
次世代システム設計の最前線にいた。
それがどのような環境下でも一寸の狂いもない動作をするか、
multi-platform の対応確認を、
秒単位のタイムラインで検証している真真ん中だったのさ。
ただでさえその巨大なプロジェクトの調整と設計で手一杯の瞬間に、
まったく無関係なところで、
全社の防壁をエンドポイントディフェンダー(Microsoft Defender for Endpoint)へと一斉に切り替える移行期の死角が重なり、
原因不明のシステム崩壊が同時に勃発してしまったわけさ。
ただでさえその巨大なプロジェクトの調整と設計で手一杯の瞬間に、
まったく原因の分からない他社サーバーのシステム崩壊が同時に勃発してしまったわけさ。
まったく、マヌケな話だ。
私の曾祖父は、
明治の世に神田駿河台で名探偵の相棒としてプロフェッショナルに覚醒した、あの和田進一という男さ。
その血脈が、
令和のサイバー戦場の死角で、
危機管理のシステムエンジニアとして私を突き動かしている。
その時、
システム本部の重い防音扉を開き、入ってきた一人の男がいた。
他社のウェブサイトや基幹システムを一括で管理している、
運用保守チームの実直な、シニアエンジニアのチーフだ。
彼は、指先を小刻みに震わせながら、
ハッカー集団から送り付けられてきた一枚の脅迫画面の写しを、
私の前の机へと差し出してきた。
「和田主任、
なぜ協力してくれないか?
他のエンジニアたちも、
君がなぜこれほど冷淡に画面を見つめているのか、
疑問に思っている。
原因はまったく分からないんだが、
他社から預かっているすべての顧客データやウェブサイトが、
暗号化されて取り出すことができなくな成ってしまったんだ。
この大混乱を、
君の損切りのロジックで助けてほしいんだ」
実直な、チーフの吐き出す、
恐怖と焦燥。
だが、
その時、
私の瞳の奥に、
冷淡な理知がふっと点火した。
私は、
机の上の脅迫書類を一瞬にして脳内システムで見抜くと、
キーボードの上に指を置いた。
「チーフ、お引き取りください。
私はね、今この瞬間に、
Spyder 6.1.6 (standalone) のシステム設計中であり、
multi-platform の対応確認の真真ん中です。
私の本分を止めてまで、
そのマヌケな凡ミスに付き合う余裕などありません。
ホストサーバー側に、
全てのデバイスのMacアドレス登録と、
ポート番号制限、接続側のシステム設計確認を、
シニアエンジニアには、
以前から、進言していましたよね。
ですので、今般の案件に、僕は、
無関係な案件です。
ましてや、
仮に、ファイル書きかえ、
コマンドを実行してたなどと、いう話には、
関わりたくありません」
私が、
そう冷酷に言い切ると、チーフが、黙り込んだ。
私は服の袖をまくり上げると、
鋭い眼差しを、瞳の奥に走らせ、冷酷に言い放った。
「上層部が警察への連絡を拒んでいる本当の理由。
それはね、
この会社がこれまで『最先端のクラウドの開拓地』を謳って大衆から巨額の契約金を騙し取っていた、
ただのセキュリティの張り子の虎だったからですよ。
インフラの死角を突かれ、
ランサムウェアに一回、
入られると、助けられない事実があるない。
身代金を払ったところで、
暗号化されたデータの渦巻きが戻ってくるわけがない。
原因も分からないままシステムを完全に人質に取られた段階で、
インフラの信用は百パーセント完全にパンクしている。
毎日、バックアップサーバーへ切り替えをしてたら、
こんな、マヌケな話、おこらないですからね。
Office 365 の運用において、
モバイルデバイスマネージャーによる端末の識別と管理のインフラすら脳死で怠っていたこの会社に、
請け負える助けなど最初から存在しない。
契約している他社にとってはね、
君たちのマヌケなサーバーを今すぐ見捨てて、
別の強固な他社へシステムを契約移行する以外に、
生き残るための選択肢など最初から実在しないのだよ。
私は、正義のハッカーでもなければ、
会社の失態を隠蔽する味方でもない。
クライアントの資産を守り抜くための、
冷徹な相談役(危機管理コンサルタント)として、
このバグだらけの裏帳簿の損切り(パージ)を今ここで執行するだけです」
私は、
キーボードから両手を離すと、
胸のポケットから一通の白い封筒を取り出した。
一ヵ月後の日付を記した、
辞表。
こんな馬鹿な会社とは、
これ以上、関わらないのが一番さ。
私は、
その辞表を人事総務の机へと静かに差し出すために、
席を立った。
レオの、曽祖父和田進一という男の、仕事に対する、
プロフェッショナルな、完全なる覚醒。
それは、
和田レオが、
曾祖父の相棒であったあの名探偵 小室(SHERLOCK)のロジックを現代に蘇らせ、
真の相談役として、
完全に歩み出す姿そのものだったからだ。
私は、缶コーヒーの空き缶をゴミ箱へと入れた。
窓の外に広がる二〇二六年十二月の或る朝、寒々しい高層ビルの隙間から、輝く陽光が、顔をだしていた。
隠ぺい体質の、会社の上層部なら、
一回入られて助けもなにもない絶望のなかにありながら、
【「ただのデータセンターのハードウェア不具合です」】
【「一時的なネットワークの通信の不具合によるパケット詰まりです」】
という大嘘の防壁(Alias)をでっち上げ、
警察やサイバー犯罪対策課へ正式に被害届を出すことすら頑なに拒んで、
闇から闇へと葬り去ろうとする。
これが、
お上の帳簿(公式統計)に記述されている件数が「月平均で約15〜30件前後」という、
ただの綺麗な残像データでしかない真の死角。
現実にこの10月の裏側で起きているハッキングの比重は、
その何十倍、
何百倍もの「マヌケすぎる隠蔽劇」に満ち溢れている現実があるのさ。




