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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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08 無能戦士、思い出を描き止める

 日差しは日に日に強くなり、少しずつ夏の気配が近づいてきた。


 オルフィナと別れて、もうすぐ一か月になる。


 俺は今も、セリアに滞在していた。


 理由は、大きく二つある。


 一つは、もしオルフィナが道に迷って戻ってきても、ここにいれば見つけてもらいやすいと思ったこと。


 そして、もう一つは――。


「…………」


 俺は宿の部屋の中央に置かれた、画布(キャンバス)を眺めた。


 一抱えほどもある大きさだ。


 そこには、セリアの町の風景が描かれている。


 夕暮れの柔らかな光に染まる空。


 遠く、小高い丘の上にそびえるアルセリア神殿。


 そこへ続く、活気に満ちた門前町。


 参道を行き交う大勢の人々。


 そして、その片隅には――。


 満面の笑みで露店を指差す、一人の神官の少女。


 その少女に手を引かれ、まんざらでもない表情でついていく大男。


 オルフィナと俺だ。


 俺はどうしても、あの日の風景を絵に残しておきたくなったのだ。


 鉛筆でさっと描いたスケッチではない。


 ちゃんとした一枚の絵画として。


 そのためには、当然ながら道具が必要になる。


 絵具に筆。


 パレットに画架(イーゼル)。


 そして、大きな画布(キャンバス)。


 幸い、巡礼者や旅人が大勢集まるセリアでは、そういったものも手に入れることができた。


 ただし――。


 高い。


 かなり高い。


 そこで俺は、日々の生活費と画材代を稼ぐため、セリアの冒険者ギルドで依頼(クエスト)をこなすことにした。


◇


 オルフィナと別れたその日。


 俺はその足で、セリアの冒険者ギルドへ向かった。


 扉を開けた瞬間――。


 ざわざわと騒がしかったギルド内が、しん、と静まり返った。


「…………」


 まあ。


 いつものことだ。


 後から知った話だが、この頃の俺は陰で、


《漆黒の戦士》


《暗黒の騎士》


《狂犬ガルド》


 などと呼ばれていたらしい。


 最後のやつは、どこから出てきたんだ。


 それから一か月。


 今ではギルドの連中とも、ずいぶん打ち解けた。


 最近では《黒のガルド》とか《大男のガルド》くらいに落ち着いている。


 だいぶ親しみやすくなった。


 ……気がする。


 セリアの冒険者ギルドは、依頼の種類が豊富だった。


 魔物討伐や護衛といった冒険者らしい仕事はもちろん、素材採取、荷運び、建物の修繕など、戦闘とは無縁の仕事もたくさんある。

 俺にはありがたい話だ。


 俺は主に素材採取や、力仕事を引き受けた。


 神殿の塀を直したり。


 宿屋の屋根を修理したり。


 重い荷物を運んだり。


 そういう仕事なら、俺にもできる。


 最初は怪訝そうな顔をしていた受付嬢も、今ではすっかり慣れたようだ。


 ただ、一つ困ったこともある。


「ガルド。明日、俺たちと護衛依頼に行かないか?」


「いや、遠慮しておく」


「報酬が不満か? なら、俺たちの取り分を減らしても――」


「そういうことじゃない」


 こんなふうに、他の冒険者から助っ人を頼まれることがちょくちょくあるのだ。


 前衛が足りない。


 強敵が出るかもしれない。


 新人のお目付け役を頼みたい。


 理由は様々だ。


 そのたびに、


「俺は戦闘が苦手なんだ」


 と説明するのだが――。


「またまた」


 誰も信じてくれない。


 どうやら、この身体と顔で「戦闘が苦手」と言っても、説得力がないらしい。


「報酬が安いから断っているんだろう」と、勝手に納得されているようだ。


 困ったものである。

 

◇


 そんなある日。


 いつものようにギルドの依頼掲示板を眺めていると、少し変わった依頼が目に入った。


「…………似顔絵?」


 紙を一枚、掲示板から外す。


 そこには、


『賞金首の似顔絵作成』


 と書かれていた。


 なんでも、近隣の街道を荒らしている盗賊の一人を手配したいらしい。


 ただ、そいつの顔を正確に描いたものがない。


 そこで、実際に盗賊を目撃した者たちから話を聞き、手配書に載せる似顔絵を作ってほしい、という依頼だった。


「こんな仕事まであるのか」


 面白そうだ。


 俺はその依頼書を受付へ持っていった。


◇


 その日の午後。


 俺はギルドの一室で、三人の男と向かい合っていた。


 いずれも賞金首の男を実際に見たことがあるという。


 俺は紙と鉛筆を用意した。


「では、顔の特徴を教えてくれ」


「ええっと……目つきが悪かったな」


「どんなふうに?」


「こう……もっと細い感じだ」


「こうか?」


 鉛筆を走らせる。


「そうそう。そんな感じだ」


「鼻は?」


「鼻はでかかった」


「いや、そんなにでかくなかったぞ」


「でも高かったよな?」


「ああ。鼻筋は通っていた」


「なるほど」


 線を足す。


 消す。


 また描く。


「傷などは?」


「あった! 鼻の横だ」


「右か? 左か?」


「右だったと思う」


「いや、左じゃなかったか?」


「…………」


 三人が顔を見合わせる。


 俺は少し考え、もう一度それぞれから話を聞いた。


 髪。


 目。


 鼻。


 口。


 輪郭。


 傷。


 ばらばらだった証言を一つずつ拾い、紙の上で組み合わせていく。


 しばらくして――。


「こんな感じか?」


 出来上がった似顔絵を机の上へ置いた。


「…………」


 三人が黙った。


「違ったか?」


「いや……」


 一人が紙を手に取った。


「こいつだ」


「うん。こいつだ」


「すげえ。そっくりだ」


「そうか」


 どうやら役に立てそうだ。


 よかった。


 完成した似顔絵は、そのまま手配書として使われることになった。


 それ以来、似たような依頼を見つけると、ときどき引き受けている。


 受付嬢によると、俺の描いた似顔絵はなかなか評判がいいらしい。


「まるで実物を見て描いたみたいだ」


 などと言われることもある。


 お役に立てて何よりだ。


 ただ――。


 素材採取。


 建物の修繕。


 荷運び。


 そして、賞金首の似顔絵。


 そんな仕事ばかり引き受けているものだから、


「あのガルドってやつ、いったい何者なんだ?」


 と、ますます不思議がられているらしい。


 俺としては、自分にできる仕事をやっているだけなのだが。


◇


 そうして稼いだ金で、少しずつ画材を揃えた。


 絵具を一色買う。


 次は筆を買う。


 その次はパレット。


 そして、ようやく大きな画布(キャンバス)を買った。


 そうして今――。


 俺は宿の部屋で、あの日のセリアを描いている。


「…………」


 改めて、画布を眺めた。


 完成までには、まだひと月ほどかかるだろう。


 細かいところまで見れば、まだまだ気になるところは多い。


 それでも――。


 春の夕暮れ。


 賑やかな参道。


 楽しそうに笑うオルフィナ。


 俺の記憶に残る、あの華やかな午後に、少しずつ近づいている気がした。


「うん」


 悪くない。


 俺は一人、満足してうなずいた。


 そして再び筆を取り、画布(キャンバス)へ向かった。


◇


 ある日、俺はギルドの依頼掲示板で、一風変わった依頼を見つけた。


『的(まと)役募集』


「……的?」


 詳細には、こう書かれていた。


『一級魔術師による攻撃魔法訓練の的役を募集。

 火球などの攻撃魔法を使用しますが、本人には絶対に当てません。

 目隠し使用可。

 報酬――一日一ゴールド』


「一ゴールド……」


 かなりの高額だ。


 気になって受付嬢に聞いてみると、近郊にある王立セレスティア魔術学院の講師から出された依頼らしい。


「本当に立っているだけでいいのか?」


「はい。あくまで魔法を撃つための目印になっていただくだけです。安全面には十分配慮するそうですよ」


「なるほど」


 危険はない。


 ただ立っているだけ。


 それで一ゴールド。


「…………」


 ちょうど、欲しい絵具がある。


「これを受ける」


「分かりました」


 こうして俺は――。


 魔術師の『的』になることにした。

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