↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/33

07 無能戦士、ポンコツ神官を見送る

 翌朝早く。


 宿を発った俺たちは、再びアルセリア神殿を目指して街道を進んでいた。


 今日も俺はオルフィナの手を引いて歩く。


「あっ、ガルド。見てください。あの鳥!」


「ああ」


「あっちには花畑がありますよ!」


「本当だな」


 相変わらずオルフィナは、鳥や花、変わった形の木などを見つけては、そのたびに俺の手を引っ張って寄り道した。


 俺も黙って付き合った。


 急ぐ旅でもない。


 それに、オルフィナの着眼点はなかなか面白い。


 俺も気になった景色を見つけては、ときどき紙と鉛筆を取り出し、簡単にスケッチした。


 そんな寄り道を繰り返しながら、街道を進む。


 そして夕方――。


「あっ!」


 オルフィナが前方を指差した。


「ガルド。見えてきました!」


 小高い丘。


 その頂に、大きな白い建物が見える。


 アルセリア神殿だ。


 そして、その丘の麓には町が広がっていた。


 アルセリア神殿への巡礼者や参拝者を相手に発展した門前町――セリア。


 俺たちは町の門をくぐった。


◇


「わあ……!」


 オルフィナの目が一気に輝いた。


 町の中央には、アルセリア神殿へと続く大きな参道が伸びている。


 その両側には宿屋や食堂、菓子屋、土産物屋が軒を連ね、道端にはたくさんの露店が並んでいた。


 行き交う人々の声。


 客を呼び込む店主たち。


 あちこちから漂ってくる料理の匂い。


 巡礼者だけではない。


 観光目的で訪れている旅人も多いのだろう。


 参道は大勢の人々で賑わっていた。


「すごいですね、ガルド! まるでお祭りです!」


 オルフィナが感嘆の声を上げた。


「あっ、あれ、おいしそうです。食べましょう!」


 オルフィナが指差した先では、串に刺した肉が炭火で焼かれていた。


「次は、あのお店が気になります!」


「土産物屋だぞ」


「入りましょう!」


「うむ」


 その後も菓子屋に露店と、気になるものを見つけるたびに寄り道する。


 俺はオルフィナに手を引かれ、あちらこちらを見物しながら参道を進んだ。

 

 それにしても、すごい人混みだ。


 前からも後ろからも、次々と人がやってくる。


 俺は隣を歩くオルフィナを見る。


「ガルド! あっちにも何かありますよ!」


「ああ」


 これ――。


 手を離したら、絶対にいなくなるな。


 この人混みではぐれたら、一生会えないような気さえする。


 俺は握っていた手に、自然と少しだけ力を込めた。


◇


 結局、アルセリア神殿へ到着した頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 丘の上から振り返る。


「おお……」


 思わず声が出た。


 眼下にはセリアの町が広がっている。


 無数の明かりが夜の中に浮かび、まるで地面いっぱいに宝石を散りばめたように輝いていた。


 そして背後には、アルセリア神殿。


 白い神殿が月明かりを浴び、淡い青色に浮かび上がっている。


 入口に並べられた松明の炎が、夜風にゆらゆらと揺れていた。


「綺麗……」


 オルフィナが小さく呟いた。


「…………」


 月明かりが、その横顔を照らしている。


 風に髪が揺れる。


 俺は、しばらくその姿を眺めていた。


 綺麗だ。


 ふと――。


 この姿を、絵に残したいと思った。


「ガルド?」


「ん?」


「どうしました?」


「いや」


 俺は首を振った。


「なんでもない」


◇


 俺は神殿の入口へ続く階段に腰掛けていた。


 オルフィナが中へ入ってから、しばらく経った。


 やがて――。


「ガルド!」


 聞き慣れた声がする。


 顔を上げる。


 神殿の大きな扉から、オルフィナが出てきた。


 足取りが軽い。


「終わったのか?」


「はい!」


 オルフィナは俺の前まで来ると、嬉しそうに胸元から小さな巡礼手帳を取り出した。


「見てください」


「ん?」


 開かれた頁には、アルセリア神殿のものらしい聖印が押されていた。


「無事、巡礼の証をいただきました。次は聖ヴァレリア神殿です。ここから北西へ、徒歩で三日ほどだそうです」


「そうか」


「今日はこの町に泊まって、明日の朝、出発します」


「ああ。明日、見送ろう」


「ありがとうございます」


 オルフィナが、にこりと笑った。


「ところで、道は分かるのか?」


「もちろんです。北西へ向かえばよいのです」


「北西が分かるのか?」


「…………」


「…………」


「なんですか、その目は。わたくしだって、いつまでも迷子になるわけではありません」


「そうか」


「そうです!」


 オルフィナは頬を膨らませたあと、すぐに笑顔に戻った。


「それでは、最後の晩餐といきましょうか」


「縁起でもない言い方をするな」


 俺たちは再び、賑やかなセリアの町へと歩き出した。


 こうして、二人で過ごす最後の夜を迎えた。

 

◇


 その夜。


 俺たちは宿屋の食堂で、セリア名物の肉料理に舌鼓を打っていた。


「ガルド」


「ん?」


「わたくし、実は……この先もずっと、ガルドに道案内をお願いしたいと思っていたんです」


「そうなのか」


「はい。でも、考え直しました」


「……なぜ?」


 オルフィナは少し考えてから、口を開いた。


「ガルドと一緒にいると、わたくしはどうしても、あなたに甘えてしまいます」


「…………」


「あなたとの旅は、わたくしにとって、あまりにも楽(らく)すぎるのです。それに――」


 オルフィナが少し笑った。


「あまりにも、楽(たの)しすぎます」


 オルフィナは小さく首を振る。


「これでは修行になりません。だから、ここから先は一人で進もうと決めました」


「別に、楽しんだり楽をしたりしながら修行してもいいだろう?」


「ガルド」


「なんだ?」


「あなたには一度、信仰というものについて、きちんと説法する必要がありそうですね」


「そうか」


「はい」


 オルフィナはおかしそうに笑った。


「でも、大丈夫です。少しは旅のコツをつかんだ気がします。ここから先は、一人でやってみます」


「そうか」


「はい」


 そして、少しだけ間を置いた。


「でも――」


「ん?」


「巡礼の修行を終えて、一人前の神官として認められたら……」


 オルフィナが俺を見る。


「そのときは、ガルド。また、あなたと旅ができたらいいなって思います」


「…………」


「ああ」


 俺はうなずいた。


「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」


 オルフィナは、にこりと笑った。


◇


 翌朝。


 セリアの町の入口。


「では、行ってまいります」


 旅支度を整えたオルフィナが、俺の前に立っている。


「ガルド。今日まで、本当にありがとうございました」


「ああ」


「ガルドに会えて、よかったです」


「俺もだ」


 少しだけ沈黙が流れた。


「困ったことがあったら、また俺を頼ってくれ」


「ありがとうございます。でも、安心してください」


 オルフィナが胸を張る。


「今までのわたくしとは、一味違いますからね」


「そうか」


「はい!」


 いつもの笑顔だった。


「では、さようなら。ガルド」


「ああ。さようなら、オルフィナ」


 オルフィナが手を振る。


 俺も手を振り返した。


 そして彼女は、街道を歩き始めた。


「…………」


 その背中が、少しずつ遠ざかっていく。


 寂しくなるな。


 ほんの少しだけ、胸の奥が締め付けられた。


「…………」


 俺は、その背中をしばらく見送った。


「オルフィナ!」


 俺は思わず声を上げた。


 オルフィナが立ち止まり、振り返る。


「なんですか?」


 その頬が、ほんの少し濡れていた。


「方向が逆だ」


「あ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。