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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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06 無能戦士、自画像を描く

「うおおおっ!」


 俺は大剣を振り下ろした。


 ひょい。


 避けられた。


「え?」


 次の瞬間。


 どんっ!


「ぐはっ!」


 芋虫ロードの体当たりをまともに食らった。


 俺は吹き飛ばされる。


「ガルド!」


「だ、大丈夫だ!」


 起き上がろうとした俺の上へ、芋虫ロードがのしかかってきた。


「うわっ!」


 気づけば、俺は巨大な芋虫と取っ組み合いをしていた。


「くっ……!」


 ぬるっ。


「うえっ!」


 体表がぬるぬるしている。


 しかも。


「くっさ!」


 ものすごく臭い。


 何なんだ、こいつは。


 俺は必死に押し返す。


 芋虫ロードも負けじと身体を押しつけてくる。


 ごろごろ。


 ごろごろ。


 地面を転がる。


 俺。


 芋虫。


 俺。


 芋虫。


 おそらく、とんでもなくひどい絵面になっている。


「うええええ……ガ、ガルド! 頑張ってください!」


 背後からオルフィナの悲痛な声が聞こえる。


「頑張ってる!」


「今、回復します!」


 オルフィナが杖を掲げた。


「《回復》!」


 淡い光が俺の身体を包む。


「……おお?」


 痛みが引いていく。


「続けて――《鼓舞》!」


 今度は身体の奥から力が湧き上がってきた。


「これは……」


 知っている。


 《疾風の刃》にいた頃、アルフレットから何度も受けた魔法だ。


 しかし――。


「すごいな……」


 アルフレットにも引けを取らない。


 いや。


 もしかしたら、それ以上かもしれない。


「オルフィナ!」


「はい!」


「あんた、すごい神官なんだな!」


「まあ!」


 オルフィナが嬉しそうに胸を張る。


「ようやくお姉さんの偉大さが分かりましたか!」


「ああ!」


「では、ガルド! 反撃です!」


「ああ!」


「剣を!」


「…………」


「ガルド?」


「剣がない」


「ええっ!?」


 見ると、俺の大剣は少し離れた地面に転がっていた。


 さっき吹き飛ばされたときに落としたらしい。


「取りに行ってください!」


「こいつをどうにかしてからな!」


「そうでした!」


「うおおおおおっ!」


 俺は芋虫ロードを必死に押し返す。


 しかし、倒せない。


 《鼓舞》を受けても倒せない。


 やはり俺は弱い。


 芋虫ロードが俺を押し倒そうと、さらに強く身体をくねらせた。


「ぐっ!」


 俺は横へ逃げた。


 支えを失った芋虫ロードの巨体が勢い余って前へ飛び出す。


 その先には――。


 大きな木があった。


 ゴォン!


 鈍い音が森に響いた。


「…………」


「…………」


 芋虫ロードが地面に倒れた。


 動かない。


 俺とオルフィナは、しばらくそれを見つめた。


「…………勝った」


「や、やりましたね、ガルド!」


「……ああ」


 勝った。


 勝ったのだろうか。


 まあ、動かなくなったのだから勝ったということでいいだろう。


 オルフィナが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ガルド! さすが――」


 ぴたり。


 オルフィナが止まった。


「どうした?」


「…………」


 鼻を押さえる。


「くっさーい!」


 地面を蹴って、一気に俺から離れた。


「…………」


「す、すみません! でも臭いです!」


「分かっている」


 俺自身、泣きたいくらい臭い。


◇


 幸い、少し歩いたところに小さな湖を見つけた。


 俺は水辺で身体を洗った。


 服も洗った。


 何度も洗った。


「どうだ?」


 少し離れた場所にいたオルフィナを呼ぶ。


「確認いたします」


 オルフィナが近づいてくる。


 俺の前まで来ると、少しだけ顔を寄せた。


 くんくん。


「…………」


「どうだ?」


「…………ちょっとだけ」


「まだ臭うのか」


「ほんのりと」


「そうか……」


 オルフィナが一歩下がった。


「なぜ離れる」


「離れておりません」


「今、一歩下がったぞ」


「気のせいです」


「…………」


 まあいい。


 早く宿場町へ行って、熱い湯で洗い流したい。


「行くぞ」


「はい」


 俺は手を差し出した。


「…………」


 オルフィナが俺の手を見る。


「どうした?」


「ガルド」


「なんだ?」


「今日は、もう迷わない自信があります」


「手を出せ」


「でも――」


「手を出せ」


「…………はい」


 オルフィナがおそるおそる手を差し出した。


 俺はその手をしっかり握る。


「では行くぞ」


「はい……」


「…………」


「…………」


 少し歩く。


「ガルド」


「なんだ?」


「手から、ほんのり芋虫の香りがします」


「我慢してくれ」


「巡礼とは、まことに厳しい修行なのですね……」


 俺たちは手をつないだまま、宿場町へ向かって歩き続けた。


◇

 

 その日の夕方。


 俺たちは無事、街道沿いの宿場町へ到着した。


 俺は真っ先に宿の風呂へ向かった。


 熱い湯を何度も身体にかけ、石鹸で念入りに洗う。


 芋虫臭は――。


 たぶん、消えた。


 夕食は宿の食堂で取った。


 焼きたてのパンに、肉と野菜の煮込み。


 二日ぶりのまともな食事だ。


「おいしいですねえ」


「ああ」


 オルフィナは相変わらず、幸せそうに食べていた。


 食事を終えた俺たちは、それぞれ別の部屋を取り、休むことにした。


◇


 夜。


 俺が部屋のベッドで横になっていると――。


 コンコン。


 扉を叩く音がした。


「ん?」


 こんな時間に誰だ?


 ベッドから起き上がり、扉を開ける。


 そこに立っていたのはオルフィナだった。


「ガルド。少しよろしいですか?」


「ああ」


 オルフィナを部屋へ入れる。


 彼女は椅子に腰掛けた。


 俺も向かいのベッドへ座る。


 少し様子がおかしい。


 何か言いたそうにしている。


「どうした?」


「…………」


 オルフィナは少し黙ったあと、口を開いた。


「明日には、アルセリア神殿へ到着しますね」


「ああ。そうだな」


「到着したら……わたくしたちはお別れですね」


「ああ」


 そういう約束だ。


 俺が引き受けたのは、アルセリア神殿までの道案内。


 そこへ送り届ければ依頼は完了する。


「…………」


 オルフィナが俺の顔をじっと見つめている。


「どうした?」


「ガルド」


「ああ」


「一つ、お願いを聞いていただけないでしょうか?」


「お願い?」


「はい」


 オルフィナは一度、大きく息を吸った。


「ガルドは、自分の肖像画を描けますか?」


「俺の?」


「はい」


 肖像画?


 自分の姿なら、今まで何度も見てきた。

 おそらく、目をつぶってでも描けるだろう。


「ああ。描けると思うが」


 すると、オルフィナの表情がぱっと明るくなった。


「では、ガルドの肖像画を描いていただけませんか?」


「別に構わないが……」


 変わったお願いをするものだ。


 俺は荷物から紙と鉛筆を取り出した。


「しかし、なんで俺の絵なんか欲しいんだ?」


「それは……」


 オルフィナが少しだけ目を伏せる。


「明日で、お別れですから」


「…………」


「旅の思い出に、一枚くらい欲しいなと思いまして」


「そうか」


「はい」


 それなら、と。


 俺は記憶にある自分自身の姿を思い浮かべながら、さらさらと鉛筆を走らせた。


 オルフィナは俺の隣に腰掛け、興味津々といった様子で手元を覗き込んでいる。


「…………」


 近い。


 ほのかに石鹸の香りがする。


 鼻先をくすぐられて、どうにも集中しづらい。


 もう少し離れてくれないだろうか。


 そう思ったが、口には出せなかった。


 それでも三十分ほどで、肖像画を描き上げた。


「こんなものかな」


「見せてください!」


 オルフィナが身を乗り出す。


 そして――。


「わあ……」


 しばらく、絵と俺の顔を交互に見比べた。


「すごい。そっくりです」


「こんなのでよければ」


 描き上げたばかりの肖像画を差し出す。


 オルフィナは両手で、そっと受け取った。


「ありがとうございます」


 大事そうに絵を見つめる。


 そして、胸元へ抱き寄せた。


「家宝にします」


 オルフィナはにこりと笑った。


「では、おやすみなさい。ガルド」


「ああ。おやすみ」


 オルフィナは肖像画を大事そうに抱えたまま、部屋を出ていった。


 ぱたん。


 扉が閉まる。


「…………」


 静かになった部屋で、俺は一人、扉を見つめた。


 明日で、お別れか。


 そう思うと――。


 少しだけ、寂しい気がした。

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