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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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後日談2 麦畑の女神(後編)

「アイリスはあっち、私はこっち。手分けして聞き込みしてたの」


 リゼットがおいしそうにオレンジジュースを飲みながら言う。


「私の方は手掛かりなし」


「そうか。では、アイリスと合流しよう」


 俺たちは再び町を歩いた。


 しばらくすると――。


「あれ、アイリスじゃない?」


 リゼットが指をさす。


 人混みの向こうに、見慣れた赤い髪。


 ポニーテール。


「ああ。アイリスだ」


 だが、様子がおかしい。


 見知らぬ男の後について歩いている。


「オルフィナのことを知ってる人かしら?」


「かもしれない」


 俺たちは急いで後を追った。


 男とアイリスが路地へ入っていく。


 俺たちも続く。


 その直後――。


「だましたわね!」


 アイリスの怒声が響いた。


「なんだ!?」


 路地の先。


 少し開けた場所で、アイリスが仁王立ちしていた。


 その周囲には三人の男。


 どいつも見るからに柄が悪い。


「そんな怒るなって。かわいい顔が台無しだぜ?」


「悪いな。そんな女、知らねえんだ」


「それより俺たちと遊ばねえか?」


「…………」


 アイリスの肩が震えている。


 まずい。


 危ない。


 ……あの男たちが。


 リゼットも何かを察したのか、俺の腕にぎゅっとしがみついた。


「ただで済むと思わないで!」


 アイリスの手が剣の柄へ伸びる。


「アイリス!」


 俺は慌てて声を上げた。


「!」


 アイリスが振り返る。


「ガルド!」


 俺を見る。


 そして――。


 俺の腕にしがみついているリゼットを見る。


「…………」


 次の瞬間。


 たたたっ!


 アイリスがこちらへ駆けてきた。


 そのまま俺の空いている方の腕へ、ぎゅっとしがみつく。


「怖かった~」


「…………」


「…………」


 リゼットと俺がアイリスを見る。


「怖かったのか?」


「ええ。とっても」


「そうか」


 それなら仕方ない。


「…………」


 俺は三人の男を見る。


 目が合った。


「ひっ」


「な、なんだこいつ……」


「逃げろ!」


 三人は一目散に路地の向こうへ消えていった。


「…………」


 何だったんだ、あいつら。


◇


「なかなか、人探しも難しいわね」


「アイリス。あなた、かわいいからいけないのよ」


「あら、リゼット。あなただって十分かわいいわよ」


「…………」


 なぜか褒め合いを始める二人。


「ひとまず宿へ戻ろう。作戦を立て直す」


 宿へ戻ってみると――。


「…………」


 オルフィナがいた。


「オルフィナ!」


「オルフィナ!」


 二人が駆け寄る。


「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまいました……」


 オルフィナがしょんぼりと頭を下げる。


「畑仕事をしてた人が連れてきてくれたんだよ」


 女将が教えてくれた。


「町外れの麦畑を一人でさまよってたそうだ」


「…………」


「…………」


「…………」


「本当にごめんなさい……」


「まあ、無事ならいい」


 俺は心からそう言った。


「さあ。みんなで朝飯にしよう」


◇


 翌日。


 俺たちは買い物がてら、ラトナの町を歩いていた。


 通りには露店が立ち並び、威勢のいい呼び込みの声が飛び交っている。


 収穫祭は終わったというのに、町にはまだ祭りの余韻が残っていた。


「あれ?」


 ふいに、オルフィナが足を止めた。


「どうした?」


「あれ……わたくし?」


「ん?」


 オルフィナが指さした先。


 露店の店先に、一枚の絵が飾られていた。


「…………」


 見覚えがある。


 いや、見覚えがあるどころではない。


 昨日、俺が描いたオルフィナの似顔絵だ。


 しかも、その下には――。


『麦畑の女神 一ゴールド』


「一ゴールド!?」


 一枚三分ほどで描いた、尋ね人の似顔絵だぞ。


「おやじ、この絵は?」


「ああ、これかい?」


 露店の親父が嬉しそうに絵を持ち上げた。


「昨日、突然町中に貼り出された絵だよ」


「貼り出された……」


「見てみなよ、この美しい女神様を。あっという間に町中で評判になってねえ」


「…………」


「どうだい、一枚? 今のうちに買っておけば、まだまだ値が上がると思うぞ」


「いや……」


 俺が描いたんだが。


「それにしても、本当に綺麗な娘だろう?」


「あの……」


 オルフィナがおずおずと声をかける。


「ん?」


「それ、わたくしです」


「…………」


 親父が絵を見る。


 オルフィナを見る。


 もう一度、絵を見る。


「…………」


「…………」


「女神様!?」


「違います」


◇


 気になって町を見て回ると、とんでもないことが分かった。


「ここにもあるわ」


「こっちにもあります」


「…………」


 俺が昨日貼ったオルフィナの似顔絵が、あちこちの露店で売られている。


 しかも――。


「全部なくなってるじゃない」


「ああ……」


 町中に貼った二十枚ほどの似顔絵。


 一枚残らず剥がされていた。


 それだけではない。


『この女性を探しています』


 ご丁寧に、その部分だけ綺麗に切り取られている。


 そして今では――。


『麦畑の女神』


 などという大層な名前をつけられ、高値で売買されていた。


「…………」


 呆れてものも言えないとは、このことだ。


「いいじゃない」


 アイリスが笑う。


「ガルドの絵の価値が認められたってことでしょ?」


「そうなのか?」


「そういうことにしておきましょう」


 リゼットも苦笑する。


「こういうの、怪我の功名っていうのかしら」


「わたくしは、複雑な気分です……」


 オルフィナだけは、なんとも言えない顔をしていた。


◇


 ひととおり買い物を終え、俺たちは宿へ戻った。


「それにしても……」


 歩きながら、オルフィナがぽつりと呟く。


「どうした?」


「いえ……」


 少し残念そうな顔をしている。


「自分の似顔絵なのに、わたくしが一枚も持っていないなんて」


「ああ」


 言われてみれば、そうだ。


 俺が描いたものは全部、町中に貼ってしまった。


「だったら――」


 アイリスが懐へ手を入れた。


「これ、あげるわ」


「え?」


 取り出したのは、折り畳まれた一枚の紙。


 広げると――。


「あっ」


 オルフィナの似顔絵だ。


 昨日、アイリスが聞き込みに使っていた一枚らしい。


「……いいのですか?」


「もちろん」


「…………」


 オルフィナの顔が、ぱっと明るくなった。


「ありがとう、アイリス」


「どういたしまして」


 オルフィナは受け取った似顔絵を、しばらく嬉しそうに眺めていた。


 そして――。


 俺を見る。


「ガルド」


「ん?」


「ありがとうございます」


 そう言って、柔らかく微笑んだ。


「…………」


 昨日、三分ほどで描いた、ただの尋ね人の似顔絵だ。


 それをオルフィナは、大切そうに懐へしまった。


 そんなに喜んでもらえるなら――。


 今度はちゃんと、一枚描いてやろう。

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