↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/33

こぼれ話1 女子会

 王立セレスティア魔術学院の敷地内にある、リゼットの家。


 そのリビング。


 テーブルの上には、クッキー、焼き菓子、ドライフルーツなど、さまざまなお菓子が溢れんばかりに並べられている。


 隣のカウンターには、ワイン、エール、火酒、オレンジジュース、紅茶。


 ありとあらゆる飲み物が、所狭しと並んでいた。


 そして、その山を前に――。


 リラックスした室内着に身を包んだ三人の少女が、なぜか真剣な顔でテーブルを囲んでいる。


 オルフィナの手にはワイン。


 アイリスの手にはエール。


 そして、リゼットの手にはオレンジジュースがなみなみと注がれていた。


「それでは――」


 リゼットがグラスを置く。


「緊急会議を始めます」


「はい」


「ええ」


 二人が神妙に頷く。


「議題は――」


 リゼットが一拍置いた。


「ガルドが旅に出ると言い出した件について」


 三人の間に、重苦しい沈黙が落ちた。


◇

 

「ガルド、どうやら本気のようですね」


 オルフィナがワイングラスを傾ける。


「ええ。絵を描きながら世界を旅する。昔からの夢よ」


 アイリスが答える。


「でも、きっと私たちに気を使ってのことでしょうね」


 リゼットがため息をついた。


「ええ。分かりやすすぎるのよ、あの男」


 アイリスはエールをぐびっと飲む。


「ところで、リゼット」


 オルフィナが尋ねた。


「教授就任のお話、どうするか決めましたか?」


「そうよ。王立セレスティア魔術学院の教授なんて、すごい話じゃない。受ければいいと思うわよ」


 アイリスも続く。


「もちろん、受けたい気持ちはあるわよ。すごく名誉な話だと思ってる。でもね……」


「でも?」


「……私、ガルドといたい」


「…………」


「…………」


「ずいぶんストレートですね」


「うるさいわね」


 リゼットがオレンジジュースをぐびっと飲む。


「そういうオルフィナはどうなのよ。聖女の話」


「そうね」


 アイリスが頷く。


「オルフィナなんて、いかにも聖女って感じじゃない。天職だと思うわよ?」


「……正直、嬉しいです」


 オルフィナが微笑んだ。


「聖女候補に推薦していただけるなんて、神官としてこれ以上ない名誉ですもの」


「じゃあ、受けたいの?」


「はい。王都へ戻って修練を受けてみたい気持ちはあります」


「いいじゃない」


「聖女になれば、今よりもっと多くの人を助けられるでしょうし」


 そこで、オルフィナの声が少しだけ小さくなった。


「でも――」


「でも?」


「……ガルドと離れたくありません」


「…………」


「…………」


「結局そこなのね」


「はい」


 オルフィナはあっさり頷いた。


「わたくしも、ガルドといたいです」


「…………」


 リゼットがじろりとオルフィナを見る。


「対抗してくるわね」


「対抗ではありません」


「…………」


「…………」


 今度は二人の視線が、アイリスへ向いた。


「なによ?」


「アイリス」


 オルフィナがじっと見つめる。


「先ほどから、わたくしたちを煽ってばかりですけど。あなたこそ、どうなんです?」


「そうよ」


 リゼットも身を乗り出した。


「公爵家の嫡男との縁談なんて最高じゃない。断る理由なんてどこにあるのよ」


「そうね」


 アイリスはあっさり頷いた。


「公爵家の跡取りで、騎士隊長。文武両道で温厚篤実。そして、たぶんイケメン」


「そうよ!」


「身に余るほど光栄な話だと思うわ」


「じゃあ――」


「でも、ガルドのほうがいい」


「…………」


「…………」


「…………」


 オルフィナがワインを一口飲んだ。


「……埒が明かないようですね」


◇


「そんなことより」


 リゼットが身を乗り出す。


「一番重要なのは、ガルドが私たちのことをどう思ってるか、じゃない?」


「それです!」


「間違いないわ」


「…………」


 オルフィナがワイングラスを見つめる。


「わたくし、自信がありません」


「なんで?」


「わたくし、結構分かりやすくアプローチしてるつもりなんですよ?」


「ええ」


「でも、ガルド。いつも無反応なんです」


「あー」


「あー」


「もしかして、わたくしに魅力がないのかな、と……」


「それはないわ」


 アイリスが即答した。


「あなた、私でもたまに見惚れるくらい綺麗よ」


「では、なぜ……」


「…………」


 リゼットが何かに気づいたように顔を上げた。


「まさかガルド……女に興味がないとか?」


「あー」


「あー」


「…………」


 三人が黙り込む。


「いや、待って」


 リゼットが首を振った。


「そもそもガルドって、どんな女がタイプなの?」


「さあ?」


「アイリス。あなた幼馴染なんだから、その辺知らないの?」


「知らないわよ」


「年上が好きとか、年下が好きとか、同い年が好きとか?」


 オルフィナが尋ねる。


「それ重要よ!」


「そうねえ……」


 アイリスが腕を組む。


「ガルドの好みなんて考えたこともないけど……強いて言えば、同い年じゃない?」


「…………」


 オルフィナがじっとアイリスを見る。


「いささか、その意見には願望が含まれている気がしますので、却下です」


 リゼットが深いため息をついた。


「駄目ね。憶測だけで話してても、話が広がるばかりで収拾がつかないわ」


◇


「もう、直接ガルドに聞くしかないんじゃない?」


 リゼットが言った。


「私たちのこと、どう思ってるのか」


「…………」


「それで、受け入れてくれそうならついていく。駄目なら――それぞれ自分の道へ進む」


「そうね」


 アイリスが頷く。


「もう時間もないし。それしかないかもね」


「でも……」


 オルフィナがワイングラスを両手で包む。


「わたくし、聞くのが怖いです」


「…………」


「…………」


「……そうね」


 リゼットが苦笑した。


「私たち、こういうところでは揃って臆病者ね」


「…………」


 しばし沈黙。


 すると――。


「あっ」


 アイリスが顔を上げた。


「じゃあ、それぞれ別の人のことを聞くのはどう?」


「別の人?」


「ええ。私がオルフィナのことを聞く。オルフィナがリゼットのことを聞く。そしてリゼットが、私のことを聞くの」


「なるほど!」


 オルフィナが身を乗り出した。


「それなら聞けます!」


「…………」


 リゼットが二人を見る。


「でも、それ……」


「なに?」


「私、自分に有利なように嘘つくかもしれないわよ?」


「…………」


「…………」


「いいわよ」


 アイリスが答えた。


「え?」


「嘘ついてもいい」


「いいの?」


「ええ」


 アイリスが微笑んだ。


「リゼットが自分の幸せのために嘘をつくなら、それでいいわ」


「…………」


「だって私、リゼットにも幸せになってほしいもの」


「アイリス……」


「もちろん、オルフィナにもね」


「まあ」


 そして――。


「ガルドは大切よ。でも、リゼットもオルフィナも、同じくらい大切だから」


「…………」


「…………」


 ぐすっ、ぐすっぅ。


「ちょっと、泣かないでよ!」


「だってぇ……」


「まあまあ、よしよし」


 オルフィナがリゼットの頭を撫でる。


「じゃあ、まず今夜、私が行ってくるわ」


 アイリスがエールを飲み干す。


「ガルドがオルフィナをどう思ってるのか、聞いてくる」


◇


 それから三日目の夜。


 ガルドの宿から戻り、リゼットが自宅の扉を開けようとした、その瞬間。


 バンッ!


 内側から勢いよく扉が開いた。


「どうだった!?」


「近い近い」


 目の前には、顔を引きつらせたアイリス。


「まあまあ、そう慌てなさんな」


 リゼットはアイリスを押しのけ、悠々とリビングへ向かった。


 リビングでは、今夜も当然のように女子会の準備が整っていた。

 テーブルには大量のお菓子。カウンターには酒と飲み物。

 三夜連続である。


 オルフィナも待ち構えている。


「それで?」


「どうだったんです?」


「まあ、座りなさい」


「早く!」


「はいはい」


 リゼットは椅子へ腰を下ろした。


「アイリスがガルドのことを好きで、結婚したいって言ったらどうする、って聞いたわ」


「それで!?」


「大歓迎だって」


「…………」


「結婚するって」


「…………」


「『アイリスは俺の初恋の相手だからな』だって」


「…………」


「アイリス」


 オルフィナが顔を覗き込む。


「顔面が崩壊してますよ?」


 リゼットが大きく息を吐いた。


「でも、これで三人とも答えが出たわね」


「そうですね」


「まさかガルドが、三人とも大歓迎とはね」


「あの男、案外節操ないわね」


「まさかの三人とも好き、ですものね」


「…………」


「まあ、私たちが言うのもなんだけど」


「それより――」


 アイリスが苦笑する。


「あの男の自己評価の低さには、改めて驚いたわ」


「それは本当にそう」


「正直、どん引きしました」


「…………」


 三人が顔を見合わせる。


 そして、笑った。


「結局、振り出しに戻ったわね」


 リゼットが言う。


「ええ」


 アイリスは嬉しそうにエールを口へ運んだ。


「でも、私は今はこれで十分」


「…………」


「十分、幸せよ」


「そうね」


「はい」


 穏やかな空気が、リビングを包む。


 ――はずだった。


「待ってください」


 オルフィナがグラスを置いた。


「なによ?」


「まだ何かあるの?」


「最後に一つだけ、はっきりさせておきたいことがあります」


 オルフィナは二人を見回した。


 一拍。


「――誰が正室になるか、です」


「…………」


「…………」


「…………」


 リゼット家のリビングに、今夜最大の緊張が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。