↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/33

26 ずっと続けばいいのに

「肝とモモ肉だけいただきましょう」


 今回も、オルフィナは手際よく鹿ハイロードを解体していく。


 その横で手伝う俺。


 感心しながら眺めるアイリス。


 そして――。


「うっ……」


 少し離れたところで顔を引きつらせているリゼット。


 モモ肉と肝を切り分けると、俺たちはその場を後にした。


◇


 午後。


 俺たちは山頂近くまでたどり着いた。


 目の前には、深い谷が広がっている。


 右前方。


 谷を挟んだ向こう側の崖。その中腹には、銀白色に輝く一帯が見える。


 そして左前方には――。


 一本の吊り橋。


「あれが月白草よ」


 リゼットが崖の中腹を指差した。


「あの吊り橋を渡って向こう側へ行きます」


 オルフィナも続けて説明する。


「へえ……」


 アイリスが辺りを見回した。


「すごく気持ちのいいところね」


「ああ」


 俺たちは早速、吊り橋へ向かった。


 ギシッ。


 ギシギシッ。


「…………」


「…………」


 案の定。


「こ、怖い……」


 リゼットの腰が引けている。


 前回来たときとまるで変わっていない。


「大丈夫よ、リゼット」


「ゆっくり行きましょう」


 だが今回は、オルフィナとアイリスが左右からリゼットの手を握った。


「…………」


 なるほど。


 状況に応じて、3人のポジションを変えている。


 三人とも、ずいぶん息が合ってきたものだ。


 三人がキャッキャと騒ぎながら吊り橋を渡っていく。


 俺も、その後を追った。


 ギシッ。


 ギシギシッ。


「…………」


 やっぱり怖い。


 そして、橋の中ほどまで来たところで――。


「アイリス」


「なに?」


「この景色だ。見てくれ」


「…………」


 アイリスが顔を上げた。


 目の前に広がる山々は、前に来たときとはまるで違っていた。


 あのとき赤や黄色に染まっていた山は、今、まぶしいほどの新緑に覆われている。


 その下には、深い影を落とす渓谷。


 崖の中腹では、月白草の群生が淡い銀色の光を放っていた。


 春の強い日差しが、山の緑と谷の影、そして月白草の銀色を、くっきりと浮かび上がらせている。


「ああ……」


 アイリスの口から、ため息が漏れた。


「綺麗……」


「でしょう?」


 リゼットがなぜか得意げに胸を張る。


「すごいでしょう?」


 オルフィナまで得意げだ。


「…………」


 なぜ、お前たちが自慢する。


 まあ、いい。


 俺は改めて景色を見渡した。


 秋には紅葉。


 春には新緑。


 ならば、夏はどうなるのだろう。


 冬には、この辺り一帯が白銀の世界になるのかもしれない。


「…………」


 四季折々のこの場所を、全部描いてみるのも面白そうだ。


 そんなことを考えながら、俺たちはしばらく景色に見入っていた。


◇


 吊り橋を渡った後は、前回と同じように月白草を採取した。


 必要な量を集め終えると、再び吊り橋を渡って戻ってくる。


 そして――。


 今回も、この辺りで野営することになった。


◇


「なにこれ、おいしい!」


 静かな森に、アイリスの声が響いた。


 すでに日は落ちている。


 満天の星空の下。


 焚き火の上では、大きな鍋がぐつぐつと音を立てていた。


 昼間仕留めた鹿ハイロードのモモ肉と肝を使った鹿鍋だ。


「そうでしょう?」


 リゼットがなぜか得意げに胸を張る。


「なんせ新鮮ですもの」


「アイリス。肝も食べてみてください」


 オルフィナが鍋から肝を取り分ける。


「特にこちらが格別ですよ」


「どれどれ……」


 アイリスが口へ運ぶ。


「…………!」


 目を見開いた。


「おいしい!」


「でしょう?」


 わいわいと鍋をつつく三人。


 にぎやかだ。


 暗い森の中。


 焚き火の明かりだけが、三人の姿を柔らかく浮かび上がらせている。


 笑うリゼット。


 鍋をよそうオルフィナ。


 楽しそうにそれを頬張るアイリス。


「…………」


 いい景色だ。


 ふと、描いてみたいと思った。


 この三人を。


 この焚き火を。


 この夜を。


「…………」


 だが。


 今は、スケッチブックを取り出す気にはならなかった。


 ただ、この景色を眺めていたかった。


「ガルド」


「ん?」


「なにぼーっとしてるのよ。お肉なくなるわよ」


 リゼットが鍋を指差す。


 俺は思わず笑った。


「ああ。いただくとしよう」


 俺も鍋をつつく。


 温かい。


 胃袋とともに、心まで満たされていく。


「…………」


 こんな生活が――。


 ずっと続けばいいのに。


 ふと、そんなことを思った。


◇


 アイリスが加わった俺たちのパーティは、その後も順調に活動を続けた。


 普段は採取系や狩猟系の依頼(クエスト)を中心にこなし、ときおり、他のパーティから助っ人を頼まれることもあった。


 助っ人となると、たいていは難易度の高い討伐系の依頼(クエスト)だ。


 だが――。


 アイリス、リゼット、オルフィナの三人は、そんな依頼でも目が覚めるような働きを見せた。


 剣を振るえば、アイリス。


 魔法を放てば、リゼット。


 そして、二人の力を最大限に引き出すオルフィナの加護。


 三人が揃えば、大抵の魔物はあっという間に片づいてしまう。


「…………」


 俺?


 まあ、三人のフォーメーションの真ん中で、剣を構えている。


 つまり、立ってるだけだ。

 

 そんなことを繰り返しているうちに、俺たちのパーティの評判はセリアを越え、近隣の町にまで知られるようになっていた。


 それもそうだ。


 俺以外は、アイリスを筆頭に超一流の冒険者なのだから。


◇


 そして、夏を迎える頃。


 リゼットとオルフィナが、揃ってA級冒険者へ昇格した。


「わ、わたしなんかがA級で、本当にいいのでしょうか……」


 恐縮するオルフィナ。


「ふふん! S級までもう一歩ね!」


 鼻息を荒くするリゼット。


「二人とも、早く私のところまで登ってらっしゃい」


 S級冒険者の余裕を見せるアイリス。


「…………」


 三者三様である。


 しかし――。


 出会った頃を思えば、二人ともずいぶん遠くまで来たものだ。


 俺は少しだけ誇らしい気持ちになった。

 

◇


 この頃、俺は一枚の絵を完成させた。


 あの夜の光景だ。


 満天の星空。


 暗い森。


 焚き火を囲み、鹿鍋をつつく三人。


 笑うリゼット。


 鍋をよそうオルフィナ。


 頬を膨らませ、幸せそうに笑うアイリス。


 俺はこの絵に――。


 《焚火の三人娘》


 と名をつけた。


 そういえば、以前にも似た絵を描いた。


 《焚火の少女》。


 リゼットと二人でワイバーン討伐へ出かけた夜の絵だ。


 あの絵にいるのは、リゼット一人。


 楽しそうではあるが、どこか儚げで、それが幻想的だった。


 対して、こちらは三人。


 儚さなど、どこにもない。


 ただただ賑やかで。


 ただただ楽しそうだ。


 俺は、こっちも好きだ。


 おれは、この絵を3人に贈った。


 題名についてはまたリゼットにダメ出しされたが、それでも三人はずいぶん喜んでくれた。


「ガルド。これからも、私たちをいっぱい描いてね」


「ああ。もちろんだ」


 言われなくても、そのつもりだ。


 《焚火の三人娘》は、いまは、リゼット家のリビングに、《吊り橋の3人》と並んで飾られている。


◇


 それは、一通の知らせから始まった。


 ある日。


 リゼットから「ちょっと話がある」と呼び出された。


 場所は、ギルドの食堂の片隅。


 俺、オルフィナ、アイリスの三人を前に、リゼットが一枚の書状をテーブルへ置いた。


「これよ」


「ん?」


 書状に目を落とす。


 そこに書かれていたのは――。


 王立セレスティア魔術学院、魔法理論学教授への就任辞令。


「…………」


 一瞬、意味を理解するのに時間がかかった。


「教授?」


「ええ」


「リゼットが?」


「そうよ」


「すごいじゃないか!」


 俺は思わず声を上げた。


 今、リゼットは先日誕生日を迎えたばかりの十七歳。


「十七歳で教授って、すごいことなんだろう?」


「ええ。異例中の異例らしいわ」


 リゼットは淡々と答える。


「一級魔術師としての研究実績に加えて、冒険者としてA級まで昇格したことで評価が上がったみたい。机上の魔術理論だけじゃなく、実戦にも精通した研究者としてね」


「なるほど」


 すごい。


 本当にすごいじゃないか。


 以前、リゼットは王立セレスティア魔術学院の学院長になることが夢だと語っていた。


 教授への就任。


 これは、その夢へ向けた大きな足掛かりになるはずだ。


「よかったな、リゼット!」


「…………」


「夢に一歩近づいたじゃないか!」


「……まあね」


「…………」


 なんだ?


 それにしては、妙に反応が薄い。


「あまり嬉しくなさそうだが」


「……問題は、ここよ」


 リゼットが書状の一角を指差した。


「ん?」


「教授就任と同時に、独立した研究室を任されるの」


「おお。それもすごいじゃないか」


「専用の研究室に、研究費。それに助手も何人かつくわ」


「ますますすごいじゃないか!」


「…………」


 リゼットが俺をじろりと見る。


「その分、仕事も増えるのよ」


「ああ」


「研究だけじゃない。授業もあるし、助手の指導もある。学院の仕事だって今までより増えるわ」


「なるほど」


「たぶん、かなり忙しくなる」


「そうか」


 そこでようやく、リゼットが何を言いたいのか分かった。


「だから――」


 リゼットが少しだけ視線を落とす。


「今までみたいに冒険者を続けるのは無理だと思う」


「…………」


「パーティも、抜けることになるわ」


「そうか……」


 それは――。


 寂しいな。


 リゼットと一緒に依頼(クエスト)へ行くのが当たり前になっていた。


 それがなくなると思うと、胸にぽっかり穴が開くような気もする。


 だが。


「それなら、受けるべきだな」


「…………」


「せっかく夢に近づけるんだ。こんな機会、逃すわけにはいかないだろう」


「…………」


 なぜかリゼットが黙った。


「どうした?」


「……返事は、少し待ってもらうつもり」


「そうなのか?」


「ええ」


「…………」


 リゼットは浮かない顔をしている。


 よほど、冒険者稼業が気に入っていたのだろう。


 俺だって、リゼットが抜けるのは寂しい。


 だが――。


 学院長になるという夢と、俺たちとの冒険。


 天秤にかけるまでもないと思うのだが。


「ああ。まあ、大事なことだからな。ゆっくり考えればいい」


「……ええ」


「…………」


「…………」


 なんだ?


 ふと横を見る。


 オルフィナとアイリスが、揃って俺を見ていた。


「…………」


 なんだろう。


 なぜか二人に睨まれている気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。