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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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24 S級剣士、同居することになりました

 受付嬢は、アイリスが記入した滞在登録証を受け取ると、


「では、ごゆっくりー」


 と、満面の笑みを浮かべて去っていった。


 周囲に集まっていた冒険者たちも、


「いやあ、いいもん見せてもらった」


「一時はどうなることかと思ったぜ」


「よかった、よかった」


 などと口々に言いながら、それぞれの席へ戻っていく。


「…………」


 なんだったんだ、あいつらは。


 そして――。


 ギルド中央のテーブルには、俺たち四人だけがぽつんと取り残された。


「…………」


「…………」


「…………」


 妙な沈黙が流れる。


 やがて――。


「改めまして」


 アイリスが口を開いた。


「アイリス・ヴァレンティアです。どうぞよろしく」


 ぺこりと頭を下げる。


「あ、ええ。よろしく」


「はい。よろしくお願いします」


 リゼットとオルフィナも、つられるように頭を下げた。


「それで……」


 アイリスが二人を見る。


「たぶんなんだけど」


「なに?」


「私がここに残ること、あなたたちとしては、ちょっと複雑なのよね?」


「…………」


「…………」


 リゼットとオルフィナが顔を見合わせる。


 なんだ?


「何を言い出すんだ、アイリス」


「え?」


「お前はS級の戦士だぞ。ちょうど俺たちのパーティには、まともな戦士がいなくて――」


「ガルドは、ちょっと黙ってて!」


 ぴしゃり。


「…………」


「あ、ああ。分かった」


 なぜ怒られた。


「……まあ」


 リゼットが少し言いにくそうに口を開く。


「正直に言えば、ちょっと複雑ね」


「わたしも……まあ」


 オルフィナも頷いた。


「やっぱりね」


 アイリスが小さく肩をすくめる。


 そして――。


 アイリスが俺をちらりと見た。


「この男、鈍感(バカ)でしょ?」


「おい!」


 思わず声を上げた。


「いきなりバカとはなんだ!」


「だから、ガルドは黙ってて!」


「…………」


 ぴしゃりと言われた。


「あ、ああ。すまん」


「そうね」


 リゼットが俺を見る。


「鈍感(バカ)ね」


「わたしも否定できません」


 オルフィナまで頷いた。


「…………」


 なんか、とてもひどいことを言われている気がするぞ。


「この男、悪気はないのよ」


 アイリスがため息をつく。


「ただ、自分に対する評価が異常に低いの」


「ああ……」


 リゼットが納得したように頷く。


「なるほどね」


「よく分かります」


 オルフィナまで深く頷いている。


「…………」


 なんだ。


 なぜ三人とも、そんなに納得している。


「それで――」


 アイリスがリゼットとオルフィナを交互に見る。


「見るところ、あなたたち二人とも、ガルドとはまだ特別な約束をしているわけではない、ってことで合ってる?」


「なにを言っている」


 三人の視線が俺に集まった。


「二人とも正式なパーティメンバーだぞ」


「…………」


「…………」


「…………」


 アイリスが俺を睨んだ。


「……すまん」


 俺は口を閉じた。


 もう喋らない方がよさそうだ。


「そうね」


 リゼットが答える。


「アイリスの認識で合ってるわ」


「わたしも同じです」


「そう」


 アイリスが小さく頷いた。


「なら――」


 リゼットを見る。


 次にオルフィナを見る。


「私も、あなたたちと同じ立場ってことでいいのかしら?」


「…………」


「…………」


 リゼットとオルフィナが顔を見合わせた。


 しばしの沈黙。


「……まあ、いいわ」


 リゼットが答えた。


「わたしも異存ありません」


「そう」


 アイリスが微笑む。


「ありがとう」


「…………」


 なんの話だ?


 俺にはさっぱり分からない。


 しかし、さっきまで妙に緊張していた三人の空気が、少しだけ柔らかくなった。


 まあ。


 話がまとまったのなら、それでいいか。


「それじゃあ――」


 アイリスが言った。


「これからよろしくね、リゼット、オルフィナ」


「ええ。よろしく」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 三人が微笑み合う。


「…………」


 よかった。


 どうやら仲良くやっていけそうだ。


 俺がそう安心していると――。


「ただし」


 リゼットが言った。


「抜け駆けはなしよ」


「もちろん」


 アイリスが即答する。


「わたしも賛成です」


 オルフィナも頷いた。


「…………」


 抜け駆け?


「なんの話だ?」


 三人が一斉に俺を見る。


「ガルドは知らなくていいの」


「そうか」


「…………」


 いや。


 さっきからずっと、俺の話をしていた気がするのだが。

 

◇


 そこへ、また受付嬢が近づいてきた。


「…………」


 今度はなんだ?


「このあと、アイリス様の魔獣王討伐とご帰還、そしてセリアへのご滞在を祝して、歓迎会を開催したいと思います!」


「え、いきなりだな?」


「はい! 先ほどギルド長の許可も取りました。あ、後ほどギルド長とセリア町長もご挨拶に来られるそうですよー」


「…………」


 相変わらず仕事が早い。


「でも、アイリスも長旅で疲れているだろう。どうする?」


「私は構わないわ」


 アイリスが微笑む。


「ありがとうございます。喜んで参加させていただくわ」


「決まりですねー!」


 受付嬢は満面の笑みを浮かべると、早速準備に取りかかった。


◇


 そして、その夜。


 セリアの冒険者ギルドで、アイリスの魔獣王討伐祝勝会兼、歓迎会が盛大に開かれた。


 盛大――。


 なんてもんじゃなかった。


 魔獣王討伐の英雄がセリアにやってきた。


 その噂は瞬く間に町中へ広がった。


 冒険者はもちろん、町民、巡礼者、旅人までが押し寄せる。


 気づけばギルドだけでは収まりきらず、周囲の酒場や通りにまで人が溢れていた。


「…………」


 これはもう、祭りだな。


 アイリスのもとには、ギルド長やセリア町長をはじめ、町の名だたる有力者たちが次々と挨拶に訪れた。


 さすが、魔獣王を討ち取ったS級冒険者だ。


 さらに――。


「アイリス様ー!」


「ぜひ握手をー!」


 どこから湧いてきたのか、アイリスファンクラブの熱烈な連中まで現れた。


 何人かが人混みをかき分け、アイリスのもとへ突撃しようとする。


「…………」


 危ないな。


 俺はアイリスの後ろに立った。


「…………」


 すると。


 こちらを見た連中の足が、ぴたりと止まった。


「…………」


「…………」


 なぜか、すごすごと引き返していく。


「?」


 なんだったんだ?


◇


 宴は、そのまま明け方近くまで続いた。


 空が白み始めた頃。


 さすがに祭りの熱気も、幾分落ち着いてきた。


 ギルドの中にも、酔いつぶれている冒険者がちらほらいる。


 俺たちもようやく、ゆっくり話せるようになった。


 とはいえ――。


「…………」


「…………」


 リゼットとオルフィナは、完全に電池切れだった。


 右肩にリゼット。


 左肩にオルフィナ。


 二人とも俺にもたれかかり、すうすうと寝息を立てている。


「…………」


 重くはない。


 ただ、動けない。


 仕方なく、そのまま向かいに座るアイリスを見る。


「アイリス。今日は慌ただしい一日だったな。疲れてないか?」


「ええ。この程度、なんともないわ」


「そうか」


「楽しかったしね」


 アイリスは、しこたま酒を飲んでいたはずなのだが。


 顔色ひとつ変わっていない。


 疲れた様子すらない。


「…………」


 さすが歴戦の戦士だ。


「そろそろお開きだろう。俺たちも退散するか」


「ええ」


 アイリスが周囲を見回す。


「今日は本当に楽しかったわ。こんなに晴れやかな気持ちになれたのは、久しぶり」


「ああ。俺も楽しかった」


「それにしても――」


「ん?」


 アイリスが俺の両肩を見る。


 リゼット。


 オルフィナ。


「驚いたわ」


「何がだ?」


「一級魔術師に、聖ルミエル大神殿の神官でしょう?」


「ああ」


「どうしてそんな二人が、あなたなんかとパーティを組んでるの?」


「…………」


 あなたなんか。


 幼馴染とはいえ、ひどい言われようだ。


 だが――。


「そう言われるのも、もっともだな」


「納得するのね……」


「ああ。ただ、二人とも天才ではあるが、弱点もある」


「弱点?」


「リゼットは魔法に関しては天才だが、怖がりだ。オルフィナも神官として優秀だが、放っておくとどこへ行くか分からん」


「…………」


「俺が、その辺りを補っているというわけだ」


「なるほど……」


 アイリスが感心したように頷いた。


「適材適所ってやつだな」


「適材適所……」


 アイリスは、その言葉を噛み締めるように繰り返した。


「私にはなかった考え方だわ」


「そうか?」


「ええ」


 アイリスが少しだけ笑った。


「……それで?」


「ん?」


「今後、二人をどうするつもり?」


「どうする、と言われてもな」


 俺は両肩で眠る二人を見る。


「少なくとも、いつまでも俺なんかとパーティを組んでいるような二人じゃない」


「…………」


「いずれ、それぞれの弱点を克服して、もっと上へ行くんじゃないかと思ってる」


「そう」


「ああ」


 俺は少し考えてから続けた。


「俺は、それまで二人の止まり木になれればいい」


「止まり木?」


「ああ。少し休んで、力をつけて、それからまた飛び立っていく。そんな場所になれれば、それで十分だ」


「…………」


 アイリスが俺を見る。


 なぜか、少し呆れたような顔をしていた。


「ずっと、巣立たないかもよ?」


「ははっ。そんなわけはないと思うが」


 まあ――。


「それはそれで、俺は構わんけどな」


 ピクリ。


「…………」


 両肩の二人が、同時に動いたような気がした。


「?」


 気のせいか。


 遠くから、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 夜明けだ。


「ところで、アイリス」


「なに?」


「今夜は――というか、もう朝だが。どこに泊まるんだ?」


「まだ決めてないわ」


「そうなのか?」


「ええ。昨日はあなたに会うことしか考えてなかったから」


「なら、俺の泊まっている宿でいいか? 案内するぞ」


「……そうね。そうしようかしら」


 その瞬間――。


「駄目よ!」


「駄目です!」


「うおっ!?」


 両肩の二人が同時に顔を上げた。


「お前ら、起きてたのか!?」


「アイリス!」


 リゼットがびしっと指差す。


「あなた、今日から私の家に住みなさい!」


「え?」


「わたしも住まわせてもらっています。部屋ならありますよ」


 オルフィナもすかさず続ける。


「そんな急に……いいの?」


「もちろんよ!」


「大歓迎です」


「…………」


 アイリスが二人を見る。


 そして、俺をちらり。


「……なるほど」


「?」


「そうすべきってことね?」


「そう!」


「そうです!」


「……分かったわ。じゃあ、お世話になろうかしら」


「決まりね!」


「よろしくお願いします、アイリス」


「ええ。よろしく、二人とも」


「…………」


 あっという間に話がまとまった。


 それにしても――。


 リゼット。


 オルフィナだけでなく、アイリスまで住まわせてやるのか。


 お前は、本当にいいやつだ。

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