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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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02 無能戦士、大芋虫を捕まえる

 俺は、先へ進む《疾風の刃》のメンバーと別れ、一人、近くのエルム村までやってきた。


 当面は、彼らに分けてもらった幾ばくかの金でしのげる。


 とはいえ、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 取り急ぎ、次の仕事を見つけなければ。


 村の冒険者ギルドを見つけ、扉を開ける。


 刹那。


 それまで響いていた冒険者たちの騒ぎ声が、ぴたりとやんだ。


 皆が息をのみ、俺を遠巻きに凝視している。


 いつもそうだ。


 二メートル近い、岩山のような体躯。

 顔に刻まれた傷。

 獲物を狩るような鋭い目つき。


 我ながら目を引く風貌なのは分かっている。


 勘弁してくれ。


 いつも心の中でそう思う。


 まあ、この風貌のおかげで、酔っ払いやチンピラに絡まれたことは一度もないのだが。


 俺は受付へ向かった。


 すると、受付に並んでいた冒険者たちが一斉に左右へ退いた。


 そして俺に列を譲る。


 これも、いつものことだ。


 ――いや、気を遣ってもらわなくて結構。急いではいない。最後尾でゆっくり待たせてもらう。


 そんな軽快な口が利けたら、どんなにいいだろう。


 だが。


 無口で人見知りの俺には、黙って彼らの間を通り抜けることしかできない。


 せめてもの礼に、軽く頭を下げる。


「ひっ」


 短い悲鳴が上がった。


 なぜか、さらに一歩退かれた。


 ……睨んだと勘違いされたらしい。


 大変申し訳ない。


 カウンターまでたどり着く。


 そこには、すでに怯えきった受付嬢が立っていた。


「仕事を探している」


「は、はいっ!」


 受付嬢の背筋がピンと伸びる。


「ド、ドラゴン討伐でしょうか!? それとも大盗賊団の討伐などをお探しで!?」


「いや」


 俺は首を振った。


「薬草集めとか、人探しとか……そういうのはないだろうか」


「……え?」


 受付嬢が固まった。


「…………」


「…………」


「あっ、はい! それでしたら!」


 我に返った受付嬢が、慌てて依頼書を探し始める。


「魔法薬の材料となる、大芋虫百匹の採取などはいかがでしょうか?」


「うむ。では、それを受けよう」


「えっ」


「何か問題が?」


「あ、いえ……大芋虫といっても、大きさはせいぜい三十センチほどです。危険性もほとんどなく、戦闘もありません。ただ捕まえていただくだけの依頼ですが……」


「問題ない」


 俺は即答した。


 むしろ。


 正直――。


 こういうのが、いいのだ。


 俺は。


◇


 村の近くに広がる森。


 俺は大きな籠を背負い、受付嬢から教えてもらった大芋虫の出現ポイントへと向かっていた。


 鬱蒼と生い茂る木々。

 枝葉の隙間から差し込む日の光。

 時折吹き抜ける風が木々を揺らし、どこからともなく獣とも鳥ともつかない鳴き声が聞こえてくる。


 一見すれば、魔物でも飛び出してきそうな深い森なのだが――。


「今日もいい天気だねー」

「ほんとうだねー」


 普通に村人たちが行き来していた。


 少し離れた木陰では、家族連れや男女が敷物を広げ、楽しそうに弁当を食べている。


 どうやら村人たちにとって、ここはちょっとした行楽地らしい。


「…………」


 うん。


 こういう場所がいいのだ。

 俺は。


 俺はさらに森を進み、人の少ない場所までやってきた。


 受付嬢から教えてもらった辺りで足を止め、木々を見上げる。


「おお……」


 いた。


 大芋虫だ。


 一本の木に何十匹もの大芋虫が、びっしりとへばりついている。


 体長は三十センチほど。

 名前のとおり、かなり大きい。


「……ひっ」


 思わず小さな悲鳴が漏れた。


 気持ちのいいものでもない。


 とはいえ仕事だ。


「よし」


 俺は気を取り直し、木によじ登った。


 大芋虫へと手を伸ばす。


「捕まえ――」


 するり。


「……ん?」


 俺の手をかわした大芋虫が、ぽとりと木から落ちた。


 そして地面に着地するや否や、


 シャカシャカシャカシャカ――。


「速っ!」


 とんでもない速度で草むらへ消えていった。


 見かけによらず、すばしっこい。


 だが、一匹くらいならどうということはない。


 次だ。


「よし、今度こそ――」


 するり。


 ぽとっ。


 シャカシャカシャカシャカ――。


「…………」


 次。


 するり。


 ぽとっ。


 シャカシャカシャカシャカ――。


「…………」


 それから三十分。


 俺は木の幹にしがみついたまま、途方に暮れていた。


 成果――ゼロ匹。


「おじちゃん、へただねー」


「……ん?」


 下から声がした。


 見下ろすと、一人の女の子が俺を見上げていた。


 八歳くらいだろうか。

 肩まで伸びた髪を後ろで束ね、腰に小さな布袋をぶら下げている。


「あたし、お手本見せてあげよっか?」


「お手本?」


「うん」


 そう言うなり、女の子は木に手をかけた。


 するするする。


「お、おお……」


 速い。


 あっという間に俺の隣まで登ってくる。


 驚いた大芋虫が、木から飛び降りた。


 すると――。


「えいっ!」


 女の子も飛び降りた。


「えっ!?」


 俺が驚いている間に、女の子は地面へ着地。


 逃げようとする大芋虫を両手で押さえ込んだ。


「ほら」


 得意げに大芋虫を持ち上げる。


「すごい……」


 素直に感嘆の声が漏れた。


「お嬢ちゃん、すごいな」


「へへーん」


 女の子が胸を張る。


「ねえ、おじちゃん」


「なんだ?」


「おじちゃんは木の上で芋虫を驚かせて。落ちてきたの、あたしが捕まえてあげる」


「なるほど」


 それなら俺にもできそうだ。


「よしきた!」


 こうして、俺と女の子の共同戦線が始まった。


 俺が木の上で大芋虫を追い立てる。


 驚いた大芋虫が次々と地面へ落ちる。


 それを女の子が捕まえて、籠へ放り込む。


 先ほどまでの苦戦が嘘のように、大芋虫が次々と集まっていった。


 そして30分ほど経ったころ。


「はあ……はあ……」


 俺は地面にへたり込んでいた。


「疲れた……」


「おじちゃん、もう疲れたの?」


「ああ……」


「なさけないなー」


「面目ない……」


「いいよ。あとはあたしがやっといてあげる」


 女の子はそう言うと、再び木へ登っていった。


 木に登っては、大芋虫を捕まえる。

 地面へ飛び降りては、また次の木へ。


 まるで森の中を駆け回る妖精のようだった。


「…………」


 俺はその姿をぼんやり眺めていた。


 なんとなく、描いてみたくなった。


 懐から紙と鉛筆を取り出す。


 近くにあった切り株に腰を下ろし、紙を膝の上に載せた。


 木の上へ手を伸ばす姿。


 大芋虫を追いかけて走る姿。


 捕まえた瞬間の得意げな笑顔。


 目で追いながら、鉛筆を走らせていく。


 こうして旅先で目に留まったものを描くのが、昔から好きだった。


「おわったよー!」


 しばらくすると、女の子が息を弾ませながら戻ってきた。


「ほら!」


 指さした先には、大芋虫でいっぱいになった籠。


「おお……」


 うぞうぞうぞうぞ。


 少々気持ち悪いが、見事なものだ。


「ありがとう。本当に助かった」


「どういたしまして!」


「そうだ。これ、お礼に」


 俺は先ほど描いた絵を女の子に差し出した。


「なにこれ?」


「君だ」


「え?」


 女の子が紙を覗き込む。


 途端に目を輝かせた。


「わあっ! すごい!」


「気に入ったか?」


「これ、おじちゃんが描いたの!?」


「ああ」


「すごーい! あたしだ!」


 女の子は嬉しそうに絵を眺める。


「ありがとう! 宝物にするね!」


「そうか」


 喜んでもらえたなら何よりだ。


 女の子は大切そうに絵をしまった。


 そして――。


「でもね、おじちゃん」


「ん?」


 女の子の目つきが変わった。


「まさか、この労働の対価が絵一枚ってわけじゃないでしょうね?」


「…………」


 八歳くらいの女の子とは思えない凄みだった。


「あ、ああ。もちろんだ」


 俺は慌てて懐から銅貨十枚を取り出した。


 今回の依頼で受け取る報酬の、ちょうど半分だ。


「これでどうだ?」


「まいど!」


 女の子が満面の笑みを浮かべる。


 たくましい。


 そのとき。


「アカネー! どこー? 帰るわよー!」


 遠くから女性の声が聞こえてきた。


「あっ、ママだ」


 女の子――アカネが振り返る。


「ママー! ここだよー!」


 それから俺に向き直った。


「じゃあね、おじちゃん。またいつでも言ってね!」


「ああ。ありがとう、アカネ」


「うん!」


 アカネは元気よく手を振ると、母親の声がした方へ駆けていった。


「…………」


 俺はその背中を見送る。


 そして、足元に置かれた籠へ目を落とした。


 百匹の大芋虫が、うぞうぞとうごめいている。


 初心者向けの採取依頼。


 所要時間、およそ二時間。


 捕獲した大芋虫、百匹。


 そのうち――。


 俺が捕まえた大芋虫。


 ゼロ匹。


「…………」


 まあ。


 達成は達成だ。

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