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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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01 無能戦士、追放される

 ローデン村。

 ドラゴンの巣にほど近い、小さな村だ。


 俺たちはドラゴン討伐のため、今日ここへやって来た。


 夕暮れの山から、ときおり不気味な咆哮が響いていた。


 俺は道具屋で紙と鉛筆を購入し、宿への道を急いでいた。


「やめてください!」


 女性の声。


 人気のない路地から聞こえてきた。


「ん?」


 何事かと覗いてみる。


「いいじゃねえか、ちょっとぐらい」


「俺たちと遊びに行こうぜ」


 若い村娘が、二人の男に囲まれていた。


 一人が村娘の腕をつかんでいる。


「離してください!」


 男たちは皮鎧を身につけ、腰には剣。


 流れの冒険者といったところか。


「…………」


 こんなところで、強引に村娘をナンパとは。


 同じ冒険者として恥ずかしい。


「おい、お前ら」


「ああ?」


「嫌がっているだろう。やめないか」


 俺はたまらず声をかけた。


 男たちが振り返る。


「…………」


 俺を見る。


「ひえっ!」


「なっ……!」


 二人とも、喉の奥から悲鳴のような声を漏らした。


「ん?」


 村娘も振り返る。


 俺と目が合った。


 涙で濡れた目が、俺を見つめる。


「たっ、助けて!」


「ああ。もう大丈夫――」


 娘は男たちの手を振りほどいた。


 そして、そのまま――。


 男たちの背中に隠れた。


「…………」


 あれ?


「た、頼む! 殺さないでくれ!」


「俺たちが悪かった!」


「…………」


 男たちまで命乞いを始めた。


「いや、俺は別に――」


「ひいいっ!」


 二人は村娘を振りほどき、一目散に走り去っていった。


「あっ!」


 その場に残された村娘。


 地面にへたり込み、真っ青な顔で俺を見上げている。


「…………」


 あれ?


 そのとき――。


「ガルド。どうした?」


 背後から、柔らかな声がした。


 振り返る。


 銀の胸当てに赤いマント。


 腰には剣。


 そこには、俺たちのパーティメンバーであり、幼馴染でもある女剣士が、怪訝そうな顔で立っていた。


「ああ、アイリス」


 その瞬間。


「あっ!」


 村娘が飛び上がった。


 俺の横をすり抜け、アイリスの背中に隠れる。


「剣士様! どうかお助けください!」


「…………」


 アイリスは村娘を優しく抱き寄せた。


 そして、俺を見る。


「ガルド」


「ああ」


「また、山賊に間違えられたようね」


◇


 翌朝。


 俺は村外れの岩に腰を下ろしていた。


 ドラゴン討伐へ出発するまで、まだ少し時間がある。


 俺には、昔から好きなことがある。


 絵を描くことだ。


「…………」


 スケッチブックの上で、鉛筆を走らせる。


 目の前には、朝日に照らされた山々。


 その麓には小さな村。


 さらに向こうには、どこまでも続く青い空が広がっている。


「…………」


 いい景色だ。


 こういう景色を見ると、無性に描きたくなる。


 俺は夢中になって鉛筆を走らせた。


「ガルド」


「ん?」


 声をかけられ、振り返る。


 大魔術師モルゾフが、俺の後ろに立っていた。


「そろそろ行くぞ」


「ああ。もうそんな時間か」


 俺は慌ててスケッチブックを閉じた。


「…………」


「どうした?」


「いや……」


 モルゾフは、閉じられたスケッチブックを見つめている。


「相変わらず、上手いな」


「そうか?」


「ああ」


 モルゾフが少し考える。


「前から思っていたんだが」


「なんだ?」


「お前、戦士じゃなくて画家になった方がいいんじゃないか?」


「ははっ」


 思わず笑った。


「冗談はよしてくれ」


「…………」


「俺は戦士だぞ」


「……そうか」


 なぜかモルゾフは、それ以上何も言わなかった。


「ガルド!」


 今度は遠くから声が飛んできた。


 アイリスだ。


「いつまで絵を描いてるの! 置いていくわよ!」


「ああ! 今行く!」


 俺はスケッチブックを荷物へしまった。


 そして――。


 代わりに、大剣を背負う。


「よし」


 こっちは、絵ほど得意ではない。


 まあ。


 なんとかなるだろう。


◇


「グォオオオオオオオオオオッ!」


 耳をつんざくドラゴンの咆哮が、薄暗い洞窟に響き渡った。


 空気が震える。

 巨大な翼が広がり、俺たちの何倍もある巨体がゆっくりと立ち上がる。


 怖い。


 ものすごく怖い。


 できることなら今すぐ帰りたい。


「――勇猛なる者たちよ、恐怖を捨てよ!」


 背後で大神官アルフレットが《鼓舞》の呪文を唱えた。


 温かな光が俺の身体を包む。


 すると不思議なことに、さっきまで恐怖で縮み上がっていた心に、むくむくと勇気が湧いてきた。


 いける。


 今の俺なら、いける気がする。


 俺は大剣を構えた。


「アイリス! ガルド! 詠唱が終わるまで持ちこたえてくれ!」


 後方から大魔術師モルゾフの声が飛ぶ。


「承知した。任せろ!」


 隣に立つアイリスが即答した。


 さすが剣聖。

 頼もしい。


 俺も負けてはいられない。


 俺はドラゴンを睨みつけ、大剣を握り締めた。


「たとえこの身が滅びようとも――俺がお前たちを守ってみせる!」


 その刹那。


 ドラゴンの巨大な尾が地面を叩いた。


 ドンッ!


 砕けた岩の破片が、こちらへ飛んでくる。


「ガルド、避けろ!」


 アイリスがひょいと身をかわした。


「え?」


 ゴツン。


 拳ほどの石が、俺の額に直撃した。


「あ」


 間抜けな声が聞こえた。


 いや、俺の声だ。


 ぐらりと視界が傾く。


 ああ。


 兜、かぶっててよかった――。


 そう思ったところで、俺の意識は途切れた。


◇


 びしゃああー!


「ばぅ、ぶぅうう、ぶっはー!」


 顔に思いっきり水をぶっかけられ、奇声とともに俺は飛び起きた。


 何が起こった!?


 慌てて周囲を見回す。


 目の前では、アイリスが空になったバケツを握りしめたまま、真っ赤な顔で仁王立ちしていた。


「あんたってやつは、あんたってやつは!」


 全身がぷるぷると震えている。


 どうやら俺を心配していたわけではなさそうだ。

 むしろ、かなりご立腹のご様子である。


「私一人でドラゴンの攻撃を引き受ける羽目になったでしょうが!」


「……すまん」


 俺は思わずアイリスから目をそらした。


 そうだ。


「ドラゴンは!?」


 慌てて辺りを見回す。


 少し離れたところに、真っ黒に焼け焦げた巨大な塊が横たわっていた。

 ドラゴンだ。

 ぷすぷすと白い煙を上げている。


「ドラゴンなら、俺たちが倒した」


 大魔術師モルゾフが静かに言った。


「俺が気絶している間に!?」


「うん」


「…………」


「むしろ、お前が気絶してから楽だった」


「…………」


 ああ。


 また、やってしまったようだ。


 まあ、いつものことなのだが。


「すま――」


「いい」


 謝ろうとした俺を、アルフレットが手で制した。


「とりあえず、これを飲め」


 アルフレットが小瓶を投げてよこす。


 受け取って見る。


「これ……特級回復薬じゃないか」


 かなりの高級品だ。


「いいのか?」


「ああ。餞別だ」


「餞別?」


 何の?


 俺が首を傾げる。


 アルフレットは少し困ったような顔をして、それから俺の目をまっすぐ見た。


「お前が寝ている間に、みんなで話し合った」


「ああ」


「俺たちもこの半年、お前をどうにか活かせないか、ずっと考えてきた」


「……ああ」


「最初は、その体格なら盾役ができると思った」


「ああ」


「駄目だった」


「……ああ」


「大剣を持たせれば、その腕力を活かせるとも思った」


「ああ」


「当たらなかった」


「…………ああ」


「ならばと防御に専念させてみた」


「ああ」


「普通に吹っ飛ばされた」


「…………」


 反論できない。


 全部、本当だからだ。


 アルフレットが小さく息を吐いた。


「ガルド」


「……なんだ」


「悪い。俺たちにはもう、お前を活かす方法が思いつかない」


「……ああ」


「だから――」


 アルフレットが俺の肩に手を置いた。


「今日限りで、お前にはこのパーティを辞めてもらうことにした」


「…………」


「誘ったのは俺たちの方なのにな。こんなことになって、本当にすまない」


 アルフレットが頭を下げる。


 後ろでは、モルゾフが申し訳なさそうにうなずいている。


 アイリスはぷいっと横を向いたまま、俺と目を合わせようとしない。


 誰も笑っていない。


 誰も俺を罵っていない。


 だからこそ、分かった。


 ああ。


 これは本当に駄目なやつだ。


 こうして俺は、S級冒険者パーティ《疾風の刃》を首になった。

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