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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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18 無能戦士、二人の仲を取り持つ

 オルフィナには、冒険者になってもらうことにした。


『しばらく、一緒にいさせてもらえませんか?』


 そう言ってくれたのは、素直に嬉しい。


 だが、一緒にいるとなれば、オルフィナもこの町で生活しなければならない。


 俺は当面、セリアで依頼(クエスト)を受けながら暮らすつもりだ。


 絵を描く環境も整っているし、リゼットの相手もしないといけない。


 そうなると、オルフィナもこの町で日銭を稼ぐ必要がある。


 なら、冒険者登録しておいた方が何かと都合がいい。


 神官なら、依頼(クエスト)にも困らないだろう。


 なにより、俺と一緒に行動するにも、その方が動きやすい。


 というわけで――。


 俺はオルフィナを伴って、冒険者ギルドの扉をくぐった。


 すると。


「…………」


 なぜか、ギルド内が静まり返った。


「ん?」


 中にいた冒険者たちが、一斉にこちらを見る。


「おい。ガルドが女の子と手ぇ繋いでるぞ」


「誰だ、あの子?」


「かわいいな」


「リゼット先生じゃないぞ」


「…………どういうことだ?」


「…………」


 おい、待て。


 宿屋の食堂とまったく同じ反応ではないか。


「はあ……」


 俺はため息をついた。


「ガルド?」


「いや。なんでもない」


 気にせず、受付へ向かう。


「おはようございます、ガルドさん」


「ああ」


 受付嬢が俺に挨拶し――。


 隣のオルフィナを見る。


「…………」


 じっと顔を見つめる。


「……あっ!」


「ん?」


 受付嬢が声を上げた。


「あなた、もしかして……」


 もう一度、オルフィナの顔を確認する。


「《春日のセリア》の……?」


「…………?」


 オルフィナがきょとんとする。


 何を言われているのか、まるで分かっていないようだ。


「ああ。その通りだ」


 俺が代わりに答えた。


「きゃっ!」


 受付嬢が口元に手を当て、小さな声を上げる。


「…………?」


 オルフィナがますます困惑する。


「ガルド」


「なんだ?」


「いったい、何を驚かれているのでしょう?」


「ああ」


 俺は黙って、受付の頭上を指差した。


「?」


 オルフィナが顔を上げる。


 そこには――。


 《春日のセリア》。


 夕暮れの光に染まるセリアの街。


 行き交う人々。


 露店。


 立ち並ぶ建物。


 そして、その中を歩く大男と神官の少女。


「…………」


 オルフィナが固まった。


「え……」


 しばらく、絵を見つめる。


「これ……あの日の……」


「ああ」


「この二人……」


「俺とオルフィナだ」


「…………」


 オルフィナは何も言わなかった。


 ただ、じっと絵を見つめている。


「オルフィナ?」


「…………」


 ぽろり。


 その目から、涙がこぼれた。


「お、おい。どうした?」


「……嬉しくて」


「そうか?」


「はい……」


 オルフィナは涙を拭いながら、それでも絵から目を離さない。


「まあ……!」


 受付嬢も感激したように、オルフィナと絵を交互に見ている。


 どうやら、周りの冒険者たちも気づいたらしい。


「おい、あの神官……」


「ああ」


「絵の女の子だ」


「本物か……!」


 やがて――。


 ギルド内が、なんとも言えない温かな空気に包まれた。


「…………」


 ……ちょっと待て。


 俺はオルフィナを冒険者登録に連れてきただけなのだが。


 なぜ、こんな感動的な空気になっている?


 まあ、いいか。


「それで、受付を――」


 そのときだった。


 バーン!


 ギルドの扉が勢いよく開いた。


「あ、ガルド! 来てたのね! おはよう!」


「…………」


 聞き慣れた元気な声。


 振り返る。


 リゼットだった。


「あ」


 受付嬢が間抜けな声を漏らした。


「…………」


 冒険者たちも黙った。


「ん?」


 リゼットが首を傾げる。


「なによ。みんなして」


「…………」


 先ほどまでギルドを包んでいた温かな空気が――。


 一瞬にして消えた。


「?」


 そんなことなど気にも留めず、リゼットがこちらへ歩いてくる。


 そして。


「…………」


 俺の隣にいるオルフィナを見た。


「…………」


 オルフィナもリゼットを見る。


「…………」


「…………」


 なんだろう。


 急に空気が重くなった。

 

◇

 

 ギルドの中央に置かれたテーブル。


 オルフィナとリゼットが向かい合い、その間に俺が座っている。

 

「…………」


「…………」


「…………」


 どうしてこうなった。


 少し前――。


 リゼットがギルドへ入ってきた途端、受付嬢が突然立ち上がった。


「あー……あとは当人同士で、ゆっくりお話しされるのがよろしいかと!」


「ん?」


「どうぞ! あちらのテーブルをお使いください!」


 受付嬢がギルド中央のテーブルを指差す。


「いや、俺たちはオルフィナの冒険者登録を――」


「それは後ほど!」


「そうか?」


「はい!」


 ずいぶん強く言い切られた。


 まあ、いずれオルフィナをリゼットに紹介することにはなっただろう。


 ちょうど手間が省けてよかった。


 そう思って、三人で席についたのだが――。


「…………」


「…………」


 なんだろう。


 この緊張感は。


 オルフィナとリゼットは、先ほどから黙って互いの顔を見ている。


 ふと、周囲を見回す。


「…………」


 柱の陰。


 顔。


 その後ろにも、顔。


 さらにその後ろにも、顔。


 何人もの冒険者が連なるようにして、こちらを覗き込んでいた。


 受付嬢まで混じっている。


「…………」


 心配しているのだろうか。


 いや。


 あの顔は違うな。


 完全に興味津々だ。


 なんだ。


 何がそんなに面白い。


「オルフィナ。彼女はリゼットだ。一級魔術師にして、王立セレスティア魔術学院の講師だ」


 俺が紹介するなり、リゼットがすっと胸を張った。


「リゼットよ。彼とはずっとコンビを組んでいるわ。依頼(クエスト)だって、いつも一緒よ!」


「…………」


 なんだろう。


 いつもより妙に饒舌だ。


「それで――」


 リゼットがオルフィナを見る。


「あなた、あの絵の神官ね」


「はい」


「ガルドから聞いてるわ。ほんの少し、道案内を依頼したんですって?」


 真顔でそう言った。


「…………」


 リゼットよ。


 なんでそんなに仰々しいんだ?


 ざわざわ。


 柱の陰に潜む野次馬たちも、なぜか色めき立つ。


 すると――。


 オルフィナが、ふっと柔らかく笑った。


「ええ。その通りです」


 姿勢を正す。


「改めまして。神官のオルフィナ・ルミエールと申します」


「ええ」


「以前、ガルドに、この町までの道案内をお願いしました」


「そうみたいね」


「ガルドは依頼通り、わたくしをこの町まで連れてきてくれました」


「そう」


 リゼットが満足そうに頷く。


 一拍。


「その間、ガルドはずっと手を繋いでいてくれました」


「手をつなっ!?」


 リゼットが絶句した。


 ざわっ!


 野次馬たちのざわめきが、一気に大きくなる。


「はい」


 オルフィナはにこにこと笑っている。


 リゼットが俺を見る。


「本当なの?」


「ああ」


「…………そう」


 なぜか目が据わっている。


 オルフィナよ。


 何か余計な情報まで提供している気がするのだが、気のせいだろうか。


「わ、わたしは!」


 リゼットが声を上げた。


「ガルドと二人っきりで、森の中で夜を明かしたこともあるわよ!」


「おおっ!」


 今度は野次馬たちから歓声が上がった。


「…………」


 何を盛り上がっているんだ。


「あら」


 オルフィナが少し目を丸くする。


「それなら、わたくしもありますよ」


「…………え?」


「ガルドと二人で野宿しました」


「…………」


「それに――」


 オルフィナが頬に手を当て、懐かしそうに微笑む。


「ガルドの太い腕に包まれて、とても安心して眠ることができました」


「腕!?」


 リゼットが再び絶句した。


「おおおおおっ!」


 野次馬たちの声が、今度は遠慮なくギルド中に響いた。


 オルフィナは相変わらず、にこにこと笑っている。


「…………」


 リゼットは、そんなオルフィナを無言で睨んでいる。


「…………」


 なんだろう。


 ギルドの空気が、妙に張り詰めている。


 そのとき――。


「お取り込み中のところ、すみませーん!」


 妙に明るい声が飛んできた。


 受付嬢だ。


 一枚の紙をぱたぱたとはためかせながら、小走りでこちらへやってくる。


「皆さん。吊り橋効果ってご存じですか?」


「吊り橋効果?」


「はい!」


 受付嬢は満面の笑みを浮かべると、


 バン!


 持っていた紙をテーブルの上に置いた。


「ちょっとした難所を越えた先にある、薬草の採取依頼(クエスト)です!」


「薬草採取?」


「はい。ちょーっと危険な場所にあるんですけどね」


 受付嬢が、にこにこと三人を見回す。


「こういうときは、一緒に依頼(クエスト)をこなすのが一番です! 親睦を深めるには、もってこいの案件かと思いまーす!」


「…………」


 ずいぶん不自然に明るい。


 まあ、しかし。


「親睦を深める、か。それはいいな」


 せっかくオルフィナもこの町で暮らすのだ。


 リゼットとも仲良くなってもらった方がいい。


「受けよう」


「…………」


「…………」


 なぜか二人とも黙っている。


「オルフィナ、リゼット。いいか?」


 すると、リゼットが腕を組んだ。


「わたしが嫌だと言ったら?」


「仕方ないから、オルフィナと二人で受ける」


「…………」


 今度はオルフィナが尋ねてきた。


「では、わたくしが嫌だと言ったら?」


「そのときは、リゼットと二人で受ける」


「…………」


「…………」


 当然のことだ。


 なぜ二人とも、そんなことを聞く?


「で、どうする?」


 一拍。


「受けるわ」


「受けます」


 二人の声が、ぴたりと重なった。


「…………」


 なんだ。


 息ぴったりじゃないか。


 俺は少し安心した。

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