17 無能戦士、迷子の神官と再会する(後編)
「なんだい。ガルドの知り合いかい?」
宿の主人が呆れたように言った。
「ああ、そうだ。すまないが、彼女に部屋を。それと、湯も用意してやってもらえるか?」
「ああ、分かった。さあ、嬢ちゃん。部屋に案内しよう」
「ありがとうございます」
オルフィナは宿の主人についていく。
だが、階段へ向かう途中で振り返った。
「ガルド」
「ん?」
「探しましたよ。ずっと」
「ああ。そのようだな」
全身泥だらけの姿を見れば、よく分かる。
「今夜は身を清めて、ゆっくり休むといい。話は明日にしよう」
「はい」
オルフィナが嬉しそうに頷いた。
そのまま階段を上っていく。
「…………」
あ。
大事なことを言い忘れていた。
「オルフィナ」
「はい?」
階段の途中で振り返る。
「俺が迎えに行くまで、部屋を出るな」
「……はい」
◇
その夜は、なかなか寝つけなかった。
オルフィナとの突然の再会で胸が高ぶっているのだろう。
最後に会ってから、もう半年以上になる。
あれから彼女は無事、巡礼を終えることができたのだろうか。
「…………」
……いや。
道中、何度も迷子にはなっただろうが。
それに――。
なぜ、俺に会いに来たのだろう。
『また、あなたと旅ができたらいいなって思います』
別れ際、オルフィナが言っていた言葉を思い出す。
「…………」
もしかして。
本当に、また俺と旅をするために来てくれたのだろうか。
だとしたら、嬉しい。
俺もオルフィナとの旅は楽しかった。
また一緒に旅ができるなら、それはそれで楽しそうだ。
そんなことを考えているうちに――。
いつの間にか、眠っていた。
◇
チュン、チュン。
「…………」
鳥の鳴き声で目を覚ました。
窓から朝日が差し込んでいる。
「朝か」
俺は起き上がり、身支度を整えた。
そして、オルフィナの部屋へ向かう。
コンコン。
「はい」
「俺だ」
「あ、ちょっと待ってください」
部屋の中から、ばたばたと音がする。
しばらくして――。
ガチャ。
「おはようございます、ガルド」
「ああ。おはよう」
身なりを整えたオルフィナが出てきた。
「…………」
こうして明るいところで見ると、改めて懐かしい。
別れてから半年以上。
姿は、あの頃とほとんど変わっていない。
ただ――。
「ん?」
「どうしました?」
「いや」
少しだけ、顔つきが凛々しくなったような気がする。
半年間の巡礼で、いろいろ経験したのだろう。
「下の食堂で朝飯を食べようか」
「はい。お腹ぺこぺこです」
そう言うなり――。
ぎゅっ。
「ん?」
オルフィナが俺の手を握った。
「行きましょう」
「ああ」
あまりに自然なしぐさだった。
そういえば、以前一緒に旅をしていたときも、ほとんどずっと手を繋いでいた。
離すと、すぐに迷子になるからだ。
懐かしくなり、俺もその手を握り返す。
二人で階段を下り、そのまま食堂へ入った。
すると――。
「…………」
妙に静かになった。
「ん?」
朝食を食べていた冒険者たちが、一斉にこちらを見ている。
「おい。ガルドが女の子と手ぇ繋いでるぞ」
「誰だ、あの子?」
「かわいいな」
「リゼット先生じゃないぞ」
「…………どういうことだ?」
「…………」
なんだ、この空気は。
「ガルド?」
「いや。なんでもない」
まあいい。
今は外野のことなど気にしていられない。
「オルフィナ。座ろう」
「はい」
俺たちは向かい合って席についた。
ほどなくして、パンとスープ、それに卵料理が運ばれてくる。
「いただきます」
オルフィナは嬉しそうに手を合わせると、さっそくパンへ手を伸ばした。
俺も朝食を食べ始める。
◇
オルフィナはパンを小さくちぎりながら、あの日、この町で俺と別れてからのことを話し始めた。
あれから、三つの神殿を巡ったらしい。
もちろん――。
行く先々で道に迷った。
「大変でした」
「だろうな」
予想通りである。
それでも、なんとかすべての神殿を巡り終え、聖ルミエル大神殿へ帰還。
「これで、わたしも一人前の神官になりました」
「おお。それはよかったな」
「はい」
オルフィナが嬉しそうに微笑む。
「ただ、神官長には驚かれました」
「なぜだ?」
「巡礼に半年以上かかったからです」
「…………」
通常なら、一か月程度で終わるらしい。
「『早く終わらせて帰ってくる者は何人もいましたが、これほど時間がかかったのは、あなたが初めてです』って」
「そうか」
「呆れられました」
オルフィナが自嘲気味に笑う。
「でも――」
「ん?」
「時間がかかったこと自体は、苦じゃなかったんです」
オルフィナはパンを置いた。
「いろんな町へ行って、いろんなものを見て。初めて食べるものもたくさんありました」
「それなら、いい経験になったな」
「はい。とても」
そこで、少しだけ表情を曇らせる。
「ただ……つらかったこともありました」
「何かあったのか?」
「ずっと、独りぼっちだったことです」
「…………」
「綺麗な景色を見ても、一人でした」
オルフィナが静かに続ける。
「おいしいものを食べても、一人」
「…………」
「そういうとき、いつも思い出すんです」
オルフィナが俺を見る。
「ガルドと旅をした、あの数日間のことを」
「俺と?」
「はい」
まっすぐな目だった。
「あの旅が、楽しかったんです」
「…………」
「一緒に歩いて。一緒にご飯を食べて。一緒に景色を見て」
オルフィナが、少しだけ微笑む。
「だから、一人で旅をしていると、ガルドと一緒だったらいいのにって、何度も思いました」
「そうだったのか」
「はい」
そんなに俺との旅を楽しんでくれていたとは。
俺としても嬉しい話だった。
オルフィナとの旅は、俺にとっても楽しい思い出だ。
「それで、大神殿に戻ったときに決めたんです」
「何を?」
「このまま神殿に残るんじゃなくて、もう一度ガルドに会おうって」
「…………」
「また一緒に、綺麗な景色を見たい。おいしいものを食べたい。いろんなところへ行ってみたい」
オルフィナが微笑む。
「そう思ったんです」
「だから、俺を?」
「はい」
オルフィナは大きく頷いた。
「王都の冒険者ギルドで、ガルドがどこにいるのか聞きました」
「教えてくれたのか?」
「はい。セリアで活動しているって」
「なるほど」
「それで、ここまで来ました」
「…………」
それで昨夜、あんな泥だらけになっていたわけか。
王都からここまで、いったいどんな道を通ってきたのだろう。
聞くのが少し怖い。
「でも、無事に会えてよかったです」
「ああ」
「本当に、よかった」
オルフィナが嬉しそうに笑う。
俺も嬉しかった。
まさか、もう一度オルフィナと会えるとは思っていなかった。
しかも、わざわざ俺を探して、ここまで来てくれたのだ。
「なので、ガルド」
「ん?」
「しばらく、一緒にいさせてもらえませんか?」




