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見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


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14 無能戦士、天才魔術師とパーティを組む

 午後の日差しがまぶしく降り注ぐ中、俺たちは王立セレスティア魔術学院へ帰還した。


 正門から校舎へと続く大通りを、リゼットが胸を張って歩いていく。


 その後ろを――。


 俺は巨大なワイバーンの生首を抱えてついていく。


「リゼット先生だ!」


「帰ってきたぞ!」


「うわっ! なんだ、あれ!」


「ワイバーンだ!」


 生徒たちが次々と集まってくる。


「先生、本当に倒したんですか!?」


「もちろんよ。二体ね」


「二体も!?」


「ふふん」


 得意げに胸を張るリゼット。


 その後ろで、俺は黙ってワイバーンの生首を抱えていた。


 ……重い。

 

◇


 十六歳にして一級魔術師。


 王立セレスティア魔術学院の講師、リゼット・エルネス。


 初めての実戦で、いきなりワイバーン二体を討伐。


 その話は、あっという間に学院中へ広がった。


 そして翌日――。


 なぜか、記念講演まで開かれることになった。


◇


 学院の大講堂。


 数百人は入れそうな広い会場に、生徒や教師たちがずらりと並んでいた。


 俺もリゼットに誘われ、末席に座っている。


 壇上には――。


 演台の前に凛と立つ、リゼット大先生。


 その隣には、紅白の布が掛けられた台。


 そして、その上に。


 どん。


 ワイバーンの生首。


「…………」


 開いたままの目が、客席を睨みつけている。


 ものすごい迫力だ。


 さらに壇上には、大きな垂れ幕まで掲げられていた。


『リゼット先生・初討伐記念講演 ――ワイバーンと私――』


「…………」


 ずいぶん大げさなことになったものだ。


 やがて会場が静まり返る。


 リゼットが演台の前に立った。


「皆さん。本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


 おごそかな声が、大講堂に響く。


「今回、わたしは一人の前衛戦士と共に、北の山へ実戦訓練に向かいました」


 俺のことだ。


「山中では、様々な魔物と遭遇しました」


 鹿ロード。


 狼の群れ。


 猪ロード。


 芋虫ロード。


 いろいろあったな。


「それらを退けながら山を登り、ついにわたしたちは、目的であるワイバーンと対峙しました」


 リゼットの声に熱がこもる。


「巨大な翼。鋭い牙。そして、圧倒的な威圧感。まさに竜種と呼ぶにふさわしい魔物でした」


「…………」


 生徒たちが真剣な表情で聞いている。


「ワイバーンは、凄まじい勢いでわたしたちへ襲いかかってきました」


 リゼットが杖を掲げるように片手を上げた。


「しかし――」


 そこで言葉を切る。


「わたしの《極大火球》は、寸分違わずワイバーンを捉え、一撃のもとにこれを屠ったのです」


「おおおおおっ!」


 大講堂に歓声が響いた。


「さらに、上空から襲ってきた二体目も――」


 リゼットが、びしっと手を前へ突き出す。


「二発目の《極大火球》で撃破しました」


「おおおおおおっ!」


 再び大歓声。


 拍手まで巻き起こる。


「…………」


 たいしたものだ。


 ちなみに。


 鹿ロード一匹を前にして、杖にしがみつきながら、


『む、むりぃ……』


 と泣いていた件については、綺麗に割愛されていた。


◇


「さて」


 歓声が収まると、リゼットは再び口を開いた。


「今回の実戦を通じて、わたしが皆さんに伝えたいことがあります」


 講堂が静かになる。


「魔法は、精度が命です」


 リゼットの表情が、講師のそれに変わった。


「たとえば《火球》。初歩的な攻撃魔法として、皆さんも何度も訓練しているでしょう」


 生徒たちが頷く。


「ですが、《火球》でも正確に急所へ当てることができれば、鹿ロード程度の魔物なら十分に倒せます」


「…………」


「逆に、どれほど強力な魔法を覚えても、当たらなければ意味がありません」


 なるほど。


 確かにそうだ。


「派手で強力な魔法を覚えることばかりに夢中にならず、まずは自分が使える魔法の精度を高めてください」


 リゼットが生徒たちを見渡す。


「狙った場所へ、狙った瞬間に、正確に撃つ。それが、実戦で生き残るための基本です」


「…………」


 先日まで鹿を見て泣いていた少女とは思えない。


 なかなか立派なことを言う。


 たいしたものだ。


 そして――。


「最後に」


 リゼットの声が、少しだけ穏やかになった。


「今回の討伐で、わたしが学んだことが、もう一つあります」


 会場が静まり返る。


「今回、わたしが無事にワイバーンを討伐できたのは、前衛を務めてくれた戦士、ガルドがいたからです」


「…………」


 突然名前を出され、俺は思わず顔を上げた。


「彼が、ずっとわたしの前に立ってくれました」


 リゼットが続ける。


「魔物が現れるたび、彼は剣を抜き、わたしを守ってくれました」


「…………」


「絶対に守ってくれる。そう思えたからこそ、わたしは落ち着いて魔法を撃つことができたのです」


 俺は壇上のリゼットを見る。


「魔術師は、一人では戦えません」


 静かな声が、講堂に響く。


「どれほど強力な魔法を使えても、どれほど多くの知識を持っていても、一人でできることには限界があります」


 リゼットが生徒たちを見渡す。


「仲間を作ること」


 そして――。


「その仲間を信じること」


「…………」


「それが、どんな強力な魔法を覚えることよりも大切なのだと、わたしは今回の実戦で学びました」


 リゼットは一度、言葉を切った。


「皆さんも、どうか覚えておいてください」


 そして、深々と頭を下げた。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――。


 わああああああっ!


 大講堂が、割れんばかりの拍手に包まれた。


「…………」


 俺は末席で、一人頭をかいた。


 なんとも、照れくさい。

 

◇


 その日の午後。


 俺とリゼットは、セリアの冒険者ギルドを訪れた。


「早速だけど、冒険者登録したいの。ガルド、案内して」


 リゼットが突然、そんなことを言い出したからだ。


 先日、焚き火を囲んでいるときにもそんな話をしていたが、どうやら本気だったらしい。


「わたしの目標は、特級魔術師。そして王立セレスティア魔術学院の学院長。さらにS級冒険者よ!」


 リゼットは指を一本ずつ立てながら、高らかに宣言した。


「…………」


 さすが天才。


 目標も恐ろしく高い。


 だが、この娘なら本当に達成してしまうのではないか。


 そんな気もする。


 とはいえ、まずは冒険者登録からだ。


 どんなに優秀な魔術師でも、最初はF級冒険者からのスタートとなる。


 俺はリゼットを連れ、受付へ向かった。


「彼女が冒険者になりたいそうだ」


 そう言って、リゼットの背中をぽんと叩く。


 受付嬢はリゼットを見て――。


 次に俺を見た。


「……ガルドさんのお子さんですか?」


「違う」


 即、否定する。


「そうでしたか。失礼しました。ですが、未成年者は冒険者登録できませんよ」


「わたし、十六歳だから!」


 憮然と答えるリゼット。


「ええっ!?」


 受付嬢が目を丸くする。


「失礼しました。十二、三歳くらいかと……」


「よく言われるわ」


 リゼットが不満そうに頬を膨らませた。


 まあ、俺とリゼットが並んでいれば、親子に見えなくもない。


 誤解が解けたところで、冒険者登録の手続きが始まった。

 

 リゼットが書類へ必要事項を書き込んでいく。


 俺はその後ろで、黙って見守った。


 やがて――。


「はい。これで登録完了です」


 受付嬢から、F級冒険者を示す真っ白なプレートが手渡された。


「…………」


 リゼットがそれを首から下げる。


 そして、満足そうに眺めた。


「よし!」


 拳を握る。


「一気にS級まで上り詰めるわよ!」


 そしてリゼットは俺を見上げ、にかっと笑った。


「さっそく、パーティ名を決めましょう!」


 どうやら俺は、知らないうちに彼女のパーティメンバーになっていたらしい。

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