↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見掛け倒しの無能戦士、追放されたので大好きな絵を描いて暮らします ~ところで、お前たち、なぜ俺についてくる?~  作者: しばたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/33

10 無能戦士、天才魔術師と魔物狩りに出る

 再び、リゼットの執務室。


「上出来よ。わたし、上出来だわ」


 リゼットは部屋の中をうろうろと歩き回っていた。


 よほど先ほどの訓練に満足したらしい。興奮を隠しきれていない。


 一方、俺はソファに深くもたれかかっていた。


「…………」


 疲れた。


 身体はなんともない。


 魔法は一発も当たっていないのだから当然だ。


 だが、精神的には満身創痍だった。


「それで、ガルド」


「なんだ……」


「改めて、次の依頼があるんだけど」


「嫌だ」


「まだ何も言ってないじゃない」


「嫌な予感しかしない」


「まあ、そう言わずに」


 リゼットがにこりと微笑む。


「今度は金貨三枚出すわ」


「話を聞こう」


 ようやくリゼットは自分の机に腰を下ろした。


「わたし、魔術の腕には自信があるの」


「ああ。それはよく分かった」


 身をもって。


「でも、実戦経験が少し足りないのよね」


「そうなのか?」


「ええ。だから経験を積むために、魔物狩りに出ようと思ってるの」


 リゼットは自信に満ちた目で俺を見る。


「ガルド。あなたもついてきて」


「俺も?」


「荷物持ちとして」


「…………荷物持ち」


「安心して。魔物は全部わたしが倒すから」


「なるほど」


 確かに。


 先ほど見せてもらったリゼットの実力なら、大抵の魔物は簡単に倒してしまいそうだ。


 俺は荷物を持って、後ろを歩いているだけ。


 それで金貨三枚。


 正直、かなりおいしい仕事だ。


「それで、何を狩るんだ?」


「ワイバーンよ」


「…………」


「北の山にいるらしいの」


「…………」


「往復も含めて三日くらいかしら。荷物は多くなるわよ?」


 そんな呑気なことを言っているリゼットを、俺は黙って見つめた。


 ワイバーン。


 大きな翼を持ち、空を飛ぶ竜種の魔物だ。


 俺でも知っている。


「……ずいぶん大物じゃないか?」


「そう?」


「そうだろう」


「普通の魔物じゃ、実戦訓練にならないじゃない」


「…………」


 なるほど。


 天才の考えることは、スケールもでかい。


 だが――。


 先ほど、その実力は身をもって体験したばかりだ。


 十六歳にして一級魔術師。


 そして、王立セレスティア魔術学院の講師。


 狙った的を寸分違わず撃ち抜き、俺の頭に乗せたリンゴすら真っ二つにしてみせた。


 天才という言葉は、彼女のためにあるのかもしれない。


 このリゼットなら――。


 ワイバーンだろうが何だろうが、あっさり倒してしまうのではないだろうか。


「分かった」


 俺はうなずいた。


「引き受けよう」


「決まりね」


 リゼットが満足そうに笑った。

 

◇


 翌朝。


 俺たちは、山頂へと続く森の中を進んでいた。


「ふんふ~ん♪」


 鼻歌交じりに杖を振りながら、意気揚々と先を歩くリゼット。


 その後ろを、大量の荷物を背負った俺が黙々とついていく。


 ワイバーンが生息するといわれる山頂付近の岩場までは、一泊を挟む距離だ。

 余裕を見て、三日分の食料を用意している。


 とはいえ、獲物はワイバーンだけでは済まないだろう。


 ここは深い山の中だ。


 道中、魔物に遭遇する可能性も高い。


 まあ――。


 この天才魔術師なら、どんな魔物が出てきても、赤子の手をひねるように倒してしまうのだろうが。


 そんなことを考えていた、そのとき。


 ガサゴソ。


「ん?」


 前方の茂みが揺れた。


 のそり。


 一頭の獣が姿を現す。


 鹿――。


 いや、でかい。


 俺の胸ほどまである巨体。


 頭から伸びた立派な角。


 そして何より、普通の鹿と違うのはその目だった。


 真っ赤な目が、明確な敵意を持って俺たちを睨んでいる。


「グルルルル……」


 牙の並んだ口から、低い唸り声が漏れた。


 鹿の魔物。


 鹿ロードだ。


「…………」


 前を歩いていたリゼットが、ぴたりと足を止めた。


 鹿ロードが頭を低くする。


 来る。


 そう思った瞬間、身体が勝手に動いた。


 俺はリゼットの前へ出て、大剣を抜いた。


 鹿ロードと向き合う。


「リゼット!」


 鹿ロードから目を離さないまま、叫ぶ。


「今だ! 撃ってくれ!」


「…………」


 返事がない。


「リゼット?」


「…………」


 嫌な予感がした。


 ちらりと後ろを見る。


「…………え?」


 リゼットは立っていた。


 いや。


 杖にしがみついて、どうにか立っていた。


 顔は真っ青。


 杖を握る両手は震え、膝までガクガクと揺れている。


「リゼット?」


「む、むりぃ……」


「…………へ?」


 その瞬間――。


「グルルルッ!」


「!」


 背後から殺気を感じた。


 すかさず前へ向き直る。


 鹿ロードが今にも飛びかからんばかりに身を低くしている。


「グルルルル……」


 俺と鹿ロードの目が合う。


 睨み合う。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「…………」


 鹿ロードが、すっと一歩後ろへ下がった。


 そして――。


 くるり。


 そのまま森の奥へ走り去っていった。


「…………」


 助かった。


 どうやら俺の見掛け倒しは、今日も健在らしい。


 しかし――。


 問題はそこではない。


 俺はゆっくりと振り返った。


「うっ……うえぇ……」


「…………」


 リゼットが地面にへたり込んでいた。


 杖を抱きしめ、目には涙まで浮かべている。


◇

 

「わ、わたし……実は、実戦経験ゼロなの」


「え?」


「あんなおっかないのが出てくるなんて、思わないじゃない」


「え?」


「怖かった。怖かったのよぉ……」


「…………」


 リゼットがべそをかきながら白状する。


「お前、ワイバーンを狩りに来たんだよな?」


「…………」


「鹿でこれなのに?」


「…………」


 リゼットが目を逸らした。


 その姿を見ながら、俺は周囲を見回した。


 ついさっきまで、まぶしい新緑に包まれた美しい森だった。


 それが今では――。


「…………」


 恐ろしい魔物の巣窟にしか見えない。


 これは、非常にまずいのではないだろうか。


 さっきだって、俺の見掛け倒しが通用しなければ、どうなっていたことか。


「リゼット」


「なによぉ……」


「すぐに山を下りよう」


「だめよぉ」


「なぜだ?」


 リゼットが涙をためた瞳で俺を見上げる。


「学院の生徒たちに、大々的に宣言してきたのよ。ワイバーンを倒してくるって」


「…………」


「何の成果もなく、おめおめと帰れるわけないじゃない」


「見栄を張ってる場合じゃないだろう」


「だってぇ……」


「命がかかってるんだぞ」


「…………」


 リゼットはしばらく黙っていたが、やがて何かを思いついたように顔を上げた。


「そうだ!」


「なんだ?」


「ガルドが倒してよ」


「…………」


「あなた、強いんでしょ?」


「いや。それは無理だ」


「なんでよぉ」


「俺は弱い」


「え?」


「本当だ。神に誓って、俺はめっぽう弱い」


「…………」


 リゼットがぽかんと俺を見る。


「でも、さっき鹿の魔物と対峙してたじゃない」


「ああ」


「全然怖がってなかったじゃない」


「ああ」


「じゃあ強いんでしょ?」


「いや」


 俺は首を振った。


「対峙はできる。得意だ」


「…………」


「だが、戦うのは苦手だ」


「…………」


「かなり苦手だ」


「…………」


「…………」


 しばし、沈黙。


 リゼットの顔が、みるみる歪んでいく。


「うっ……」


「おい」


「うえぇ……」


「待て」


「うえええええん!」


 とうとう泣き出した。


 十六歳にして一級魔術師。


 王立セレスティア魔術学院の講師。


 稀代の天才魔術師が、森の真ん中でわんわん泣いている。


「…………」


 待て。


 泣きたいのは、俺の方だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。