9.隔絶
満身創痍となった『ラッキースター号』は、まるで手負いの獣が巣穴に逃げ込むように、静まり返った暗礁宙域の深奥へと身を潜めていた。
補助ジェネレーターが発する不規則な低周波のハムノイズと、ひしゃげた船体骨格が時折立てる「ギィッ、ギィッ」という痛々しい軋み音だけが、薄暗い船内を満たしている。
先ほどの激突でショートした配線の焦げた匂いと、漏れ出した冷却ガスの甘ったるい悪臭が、淀んだ空気に重くまとわりついていた。
レイ・ヴァンガードは、船の最後尾にある、本来は予備パーツを置くための畳二畳ほどの狭い倉庫に身を隠していた。
照明は落とされ、ドアの隙間から漏れ入る非常灯の赤い光だけが、壁に寄りかかって床に座り込む彼の輪郭を辛うじて浮かび上がらせている。
「……はぁっ……はぁっ……」
薄暗闇の中、レイの荒い呼吸音だけがひどく生々しく響いていた。
彼は両膝を立て、その間に顔を埋めるようにして、自分の両腕を強く、骨が軋むほどきつく抱きしめていた。それでも、全身の震えは一向に収まる気配がない。
ニューラル・リンクの過負荷による神経痛ではない。極度の悪寒だった。
(俺は……なんだ。俺は、一体何者なんだ……ッ)
レイは、顔を上げて自分の両手を見つめた。
薄暗い赤い光に照らされたその手は、無数の機械油と、自分自身の鼻から流れた血でどす黒く汚れている。
つい先ほどまで、この両手は漆黒の機体の操縦桿を握り、狂喜に満ちた笑い声を上げながら、眼の前のすべてを破壊しようとしていた。巨大なモビルアーマーのパイロットを惨殺し、その余勢を駆って、味方であるはずのトビーやセリアにすら、一切の躊躇いもなく銃口を向けたのだ。
その時の感覚が、まだ脳髄にべっとりと張り付いている。
人を殺すことへの忌避感など微塵もなかった。ただ、障害物を排除し、圧倒的な力で蹂躙する『快楽』だけがあった。
それは、レイ・ヴァンガードとしての意志ではない。
彼の脳に直接刻み込まれた、連邦の狂った兵器開発計画――『プロジェクト・ナンバーズ』の被検体『No.07』としての、純粋な殺戮プログラムだ。
(あのままトビーがぶつかってこなければ……俺は確実に、あいつらを殺していた)
自分が自分ではなくなる恐怖。
ジャンク屋として数年間、必死に積み上げてきた「冷めているが、無闇に人は殺さない」というレイ・ヴァンガードの薄っぺらな人格が、過去の圧倒的な『獣』の前に、いとも容易く食い破られてしまった事実。
レイは自らの髪を掻き毟り、声にならない絶叫を上げて壁に後頭部を打ち付けた。
痛みが欲しかった。自分がただの兵器ではなく、血の通った人間であることを証明するための痛みが。だが、暴走の余波で麻痺した神経は、その痛みすらもひどく鈍く、現実味のないものに変換してしまう。
コン、コン。
不意に、重い金属のドアを叩く、控えめな音が響いた。
レイはビクンと肩を震わせ、獣のように鋭い視線をドアに向けた。
「……レイ。起きているの?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、セリアの声だった。
恐怖に震えていた先ほどの通信越しとは違い、努めて冷静に、彼を気遣うような柔らかいトーンを作っているのがわかった。
レイは答えなかった。息を潜め、彼女が諦めて立ち去るのを待つ。
「トビーが、船の応急修理をしてくれているわ。とりあえず、航行に最低限必要な推進力は回復したみたい。……水と、鎮痛剤を持ってきたの。ドアの前に置いておくから……」
「……帰れ」
レイの口から、無意識のうちに拒絶の言葉が漏れた。
自分でも驚くほど、掠れて、弱々しい声だった。
ドアの向こうで、セリアの気配がピタリと止まるのがわかった。
「……レイ。あなたの体が心配なの。さっきの戦闘で、ひどい負荷がかかっていたはずよ。お願いだから、少しだけでも見せて」
「開けるなッ!」
レイは怒鳴った。
これ以上、誰にも自分の姿を見られたくなかった。自分の奥底で血の匂いに飢えている『化け物』が、ドアを開けた瞬間に彼女の細い首を締め上げてしまうのではないかという、根源的な恐怖があった。
「俺に構うなと言っているだろうが……! 俺は……俺は、お前たちを殺そうとしたんだぞ! 少しでも狂えば、あのまま引き金を引いていたんだ!」
ドア越しの虚空に向かって、レイは自らの罪を吐き出した。
冷徹な傭兵としての仮面は完全に剥がれ落ち、そこにあるのは、自分自身に怯える哀れな男の姿だった。
重苦しい沈黙が、分厚い金属のドアを挟んで降り下りた。
船の轧み音だけが、二人の間の隔絶された空間を埋めている。
やがて、ドアの向こうから、衣擦れの音が聞こえた。セリアが、冷たい金属のドアに背中を預け、その場にへたり込んだ音だった。
「……怖かったわ」
ポツリと、セリアが呟いた。
「あの真っ黒な機体が、私たちに銃口を向けた時。あなたが、私たちをゴミ屑みたいに見下ろしているのを感じた時。……本当に、死ぬかと思った」
その言葉が、レイの胸に鋭い刃となって突き刺さる。
(そうだ。だから、俺から離れろ)
レイは奥歯を噛み締め、目を閉じた。
「でもね」
セリアの声が、微かに震えながらも、確かな熱を帯びて続く。
「あなたが引き金を引く直前……ほんの一瞬だけ、機体の動きが止まったのよ」
「……」
「トビーが船をぶつけるコンマ数秒前。あなたは、私の声を聞いて、自分自身の力で引き金を引く指を止めた。……違う?」
レイは息を呑んだ。
確かに、あの時、セリアの必死の呼びかけが、分厚い狂気の氷を叩き割った感覚があった。自分の右手が、システムに抗って硬直した、あの数秒間。
「あなたは機械じゃないわ、レイ。連邦がどんなに酷い実験をして、あなたに過去の呪いを掛けたとしても……今、ドアの向こうでそうやって自分を責めて、私たちを傷つけることを恐れているあなたは、間違いなく血の通った『人間』よ」
ドア越しに、彼女の手のひらが冷たい鉄板に触れる微かな音がした。
まるで、その金属越しにレイの心に触れようとするかのように。
「私を助けてくれたのは、兵器なんかじゃない。不器用で、口が悪くて、でも本当は誰よりも優しい……レイ・ヴァンガードの意志だった。私は、そう信じてる」
彼女の言葉は、真っ暗な海の底に差し込んだ、一筋の光のようだった。
温かく、ひどく眩しい。
温室育ちの世間知らずだと思っていた少女が、これほどの絶望と恐怖を前にして、それでもなお他者を信じようとする強さを持っている。
だが、その眩しさが、逆にレイの心を激しく苛んだ。
彼女は知らないのだ。あのフラッシュバックの中で、自分がどれほどの血を流し、どれほどの狂気に染まっていたかを。
今、ここで彼女の言葉にすがりついてしまえば、いつか必ず、彼女のその純粋な信頼を、最悪の形で裏切ることになる。
自分の中にある『No.07』という存在は、そんな希望の言葉で消え去ってくれるほど、生易しいものではない。
「……帰れ、セリア」
レイは、絞り出すような声で言った。
光を拒絶し、自ら泥沼の底へと再び沈み込むような、深く重い声。
「お前は、何もわかっちゃいない。俺の頭の中には、俺じゃない『誰か』がいるんだ。そいつは常に俺の意識を乗っ取ろうと狙っている。いつか俺は、俺じゃなくなる」
レイは、自分の胸ぐらを強く掴み、自らを戒めるように吐き捨てた。
「俺に近づくな。……俺は、人間じゃないかもしれないんだ」
その言葉は、レイ・ヴァンガードという男が、生れて初めて他人の前で見せた、決定的な『弱音』だった。
ドアの向こう側から、セリアの嗚咽が漏れるのが聞こえた。
彼女はそれ以上何も言わず、やがてゆっくりと立ち上がり、足音を立てて遠ざかっていった。
ドアの前には、水と鎮痛剤だけが残された。
レイは暗闇の中でただ一人、膝を抱えたまま、微かに残る彼女のぬくもりの気配から逃れるように、さらに深く、冷たい虚無の中へと身を縮めた。
第18章:地球降下作戦
満身創痍の『ラッキースター号』は、満天の星屑を背にして、ただ一つの巨大な青い球体へと向かって、死に体のまま滑るように航行していた。
船内の人工重力は通常時の六割程度にまで低下し、歩くたびに体がふわりと浮き上がるような不快な浮遊感がつきまとう。メイン照明はとうに死に絶え、息も絶え絶えの予備バッテリーが放つ琥珀色の非常灯だけが、ひしゃげた通路や焦げたコンソールを頼りなく照らし出していた。
コックピットでは、トビーが血走った目で計器盤と睨み合い、休むことなく脂汗を拭っていた。
彼の指先は、まるで狂ったピアノ奏者のように無数のスイッチとキーボードの上を飛び回っているが、その表情には明らかな疲労と焦燥が色濃く張り付いていた。
「……右舷の姿勢制御スラスター、出力三割まで低下。熱耐性シールドの第2層から第4層まで完全に剥離。チクショウ、これじゃ大気圏の摩擦熱で、中身ごとこんがり丸焼きだぜ……」
独り言のように悪態をつく少年の横に、静かに歩み寄る影があった。
セリアだった。彼女はトビーが先ほどまで着ていた油まみれの予備ツナギの袖を捲り上げ、その細い手に工具箱と、水筒をしっかりと握りしめていた。
「トビー、第3バイパスの配線、マニュアル通りに繋ぎ直してきたわ。これで少しは出力が戻る?」
セリアは工具箱を床に置き、水筒をトビーの顔の前に差し出した。
「おっ、マジか! 助かるぜ、お嬢様。……いや、もう『お嬢様』って柄じゃねえな」
トビーは水筒を受け取り、中のぬるい水を一気に喉へ流し込みながら、セリアの泥と油にまみれた顔を見てニヤリと笑った。
彼女の瞳には、かつての温室育ちの脆弱さはもうない。
絶望的な状況下にあっても、自分にできることを見つけ、手を汚して生き延びようとする確かな「強さ」が宿っていた。
「笑わないでよ。私だって、死にたくないもの。それに……あなたたちだけに、重荷を背負わせたくないから」
セリアは微かに微笑み返し、広角スクリーンの中央に鎮座する、あの巨大で美しい青い星――地球を見つめた。
あそこに、父が命を懸けて繋いだ希望がある。すべての真実を暴き、狂った世界を正すための特務機関本部が待っている。
(もう少し……もう少しで、辿り着く)
その時だった。
コックピットの後部ハッチが、重苦しい油圧音を立てて開いた。
セリアとトビーが同時に振り返る。
そこに立っていたのは、防風コートを羽織ったレイ・ヴァンガードだった。
彼の顔色は、死人のように蒼白だった。目の下には濃い隈が刻まれ、頬はげっそりとこけ、数時間前まで強靭な生命力を放っていた青年の姿とは思えないほどに憔悴しきっている。
だが、その瞳だけは違った。
底知れぬ恐怖に怯え、自分自身を呪っていたあの淀んだ光は消え、代わりに、研ぎ澄まされた氷の刃のような、痛いほどの『覚悟』が静かに燃えていた。
「……レイ」
セリアは息を呑み、思わず一歩前に出た。
レイは彼女の顔をまっすぐに見据え、そして、ふいっと視線を逸らしてトビーの方へと歩み寄った。
「船の状況は」
一切の感情を排した、ひどく乾いた声。それは、彼が再び「ジャンク屋としての打算」と「兵士としての冷徹さ」という分厚い鎧を、自らの精神に無理やり着せた証拠だった。
己の中の化け物を鎖で縛りつけ、それでもなお、この過酷な任務を最後までやり遂げるという、彼なりの不器用な決意表明。
「……最悪の一歩手前ってとこだ」
トビーはレイの放つヒリヒリとした空気に気圧されながらも、努めて明るく答えた。
「なんとか地球の引力圏までは辿り着ける。だが、大気圏を突破するための耐熱シールドが吹っ飛んじまってる。このまま降下ルートに乗れば、突入時の摩擦熱で船体がバラバラになるぞ」
「解決策は」
「一つだけある」
トビーは表情を引き締め、コンソールの図面を指差した。
「『ヴォルフラム』の装甲と冷却システムだ。あの機体を船体下部にワイヤーで固定し、機体そのものを巨大な『盾』として使う。ヴォルフラムのフェイズ・シフト装甲なら、大気圏の摩擦熱にも耐えられるはずだ」
その言葉の意味を理解し、セリアの顔がサッと青ざめた。
「待って! それって、レイがもう一度あの機体に乗って、船の真下で熱の直撃を受け続けるってこと!? そんなの……彼が耐えられるわけないわ!」
セリアがレイの前に立ちはだかるようにして叫んだ。
先ほどの暴走。あの機体は、乗る者の精神を喰らい尽くす呪われた狼だ。もう一度繋がれば、今度こそレイは完全に崩壊してしまうかもしれない。
だが、レイの表情は微塵も揺らがなかった。
「……やるしかないだろ。他に道はない」
「レイ、駄目よ! あんな無理をして、もしまたあなたが……」
「セリア」
レイの声が、鋭く、しかし奇妙なほど静かにコックピットに響いた。
彼が見下ろしたその瞳の奥には、彼が必死に隠し、押し殺している、人間としてのひどく脆い『恐怖』が、ほんの数ミリだけ透けて見えた。
「俺は……俺の仕事をするだけだ。お前は、地球に降りて真実を暴く。トビーは、この船を操る。そして俺は、お前たちの盾になる。それだけの話だ」
レイはセリアの肩にポンと手を置いた。その手は、ひどく冷たかった。
「お前が言ったんだろ。俺は、俺の意志で引き金を止めたって。……なら、もう一度、俺の意志で奴をねじ伏せてみせる。俺が完全に壊れる前に、地球に降ろせ」
その言葉に、セリアは喉の奥が熱くなり、言葉を失った。
彼は怖いのだ。自分が化け物に呑まれることが、何よりも恐ろしいはずなのだ。
それでも彼は、たった一人の少女が信じてくれた「レイ・ヴァンガードの意志」という細い糸にすがりつき、再びあの地獄のコックピットへ戻ることを選んだ。
「……わかった。絶対に、死なせない。死なせないから……ッ!」
セリアは涙を堪え、強く、何度も頷いた。
レイはそれを見ると、小さく息を吐き、無言のまま後部貨物室へと踵を返した。
数十分後。
地球の引力に引かれ、ラッキースター号は徐々にその降下速度を上げ始めていた。
『――ワイヤー固定完了。ヴォルフラム、システム起動……冷却フェーズへ移行する』
通信機越しに、レイのくぐもった声が響く。
船体の真下。剥き出しの宇宙空間にワイヤーで雁字搦めにされた漆黒の機体が、巨大な盾となって大気圏の壁へと突入する準備を整えていた。
全天周モニターの向こう側、眼下には、青と白のマーブル模様を描く巨大な地球の姿が、圧倒的なスケールで迫ってきている。
「降下角、マイナス一二度! 突入速度、マッハ一八! ……いくぞ、お前ら! 舌噛むなよ!!」
トビーが絶叫し、操縦桿を限界まで押し込んだ。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!
船体が、見えない巨大な壁に激突したかのような激しい振動に見舞われる。
大気圏の最上層。薄い空気が超音速で圧縮され、プラズマ化した真っ赤な炎の壁となってラッキースター号を包み込み始めた。
「きゃぁぁっ!」
セリアはシートベルトに体を締め付けられながら、その圧倒的な重力加速度と熱の恐怖に目を閉じた。
広角スクリーンが、摩擦熱の閃光で完全に真っ白に染まる。
船体下部に固定されたヴォルフラムの装甲が、数千度という超高温に炙られ、悲鳴のような金属音を上げているのが船内まで響いてくる。
『……っ、ぐ……ぁ……っ!!』
通信機から、レイの苦悶の呻きが漏れた。
彼はニューラル・リンクの同期率を最小限に抑えながらも、機体に伝わる絶大な熱量と圧力を、自分自身の肉体の苦痛として受け止めているのだ。彼が意識を手放し、機体の冷却バランスが崩れれば、船は一瞬にして燃え尽きる。
文字通り、レイは己の命を削って、二人の命を繋ぎ止めていた。
「レイ! 頑張って、レイ!!」
セリアは通信機に向かって、祈るように叫び続けた。
トビーも奥歯を噛み砕かんばかりの力で操縦桿を握り、船の姿勢を必死に保ち続ける。
三人の間に、もはや打算や契約という言葉は存在しなかった。
地獄のような宇宙の逃避行を経て、彼らは互いの命を預け合う、一つの運命共同体となっていたのだ。
熱の壁が最大になる『魔の三分間』。
永遠にも思えるその時間が過ぎ去り、やがて、スクリーンを覆っていた真っ赤なプラズマの炎が、徐々に薄れ始めた。
ガクンッ、と。
凄まじい重圧がふっと抜け、船内に重力が戻る感覚。
摩擦音が風切り音へと変わり、真っ白だった視界に、抜けるような青空と、眼下に広がる広大な雲海が飛び込んできた。
「……抜けた……! 大気圏を突破したぞ!!」
トビーが歓喜の雄叫びを上げた。
「レイ! レイ、聞こえる!? 私たち、やったわ!」
セリアも涙を流しながら、通信機に呼びかける。
『……あぁ……なんとか、な』
レイの声は虫の息だったが、確かにそこには、微かな安堵の響きが混じっていた。
ついに辿り着いた。長かった星海の旅の終着点。真実を届けるための、希望の大地。
セリアは窓の外に広がる本物の空を、感極まった思いで見つめた。
しかし。
彼らのその希望は、数秒後、絶望的な警告音によって無惨にも打ち砕かれることとなる。
ピィィィィィィンッ!!
「な……なんだ!? レーダーが……真っ赤だぞ……!?」
トビーが、信じられないものを見るかのように計器板を凝視した。
雲海を抜け、成層圏の下層へ差し掛かろうとしたラッキースター号の広角スクリーン。
そこに映し出されたのは、美しい地球の風景ではなかった。
雲海のさらに下、地球軌道の高高度空域。
そこには、空を埋め尽くすほどの圧倒的な数の『軍艦』が、まるで巨大な鋼鉄の壁のように横隊を組んで待ち構えていたのだ。
全長数百メートル級の連邦軍マゼラン級戦艦が数十隻。その周囲を飛び交う、無数の迎撃用モビルスーツ部隊。
それは、地球の特務機関へ向かう空域を完全に封鎖するための、地球連邦軍の正規軍による『絶対防衛網』だった。
「連邦の……封鎖艦隊……!?」
セリアの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「嘘だろ……。アウターズの拠点防衛網ならまだわかる。だが、どうして連邦の正規軍が、自分たちの特務機関を守る空域を……こんな規模で塞いでやがるんだ!?」
トビーが絶望的な声を上げる。
理由は明白だった。
セリアが持っているデータ。それは、アウターズだけでなく、連邦政府そのものを根本から覆す猛毒だ。連邦の強硬派は、なりふり構わず正規軍を動かし、セリアという存在そのものを『反逆者』として地球の空で撃ち落とすつもりなのだ。
ズドォォォォンッ!!
警告などない。
下方の艦隊から、一斉に無数の対空ビームが空を切り裂いて放たれた。
雲を焼き払い、青空に無数の死の閃光が突き刺さる。
『トビー、左へ避けろッ!!』
船底下からレイの鋭い怒号が響く。
安堵の時間は一瞬で終わりを告げた。
灼熱の大気圏を突破した彼らを待ち受けていたのは、母なる星の空を埋め尽くす、味方であったはずの軍隊による、無慈悲な銃殺刑の執行だった。




