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鋼鉄の亡霊は星に問う  作者: guil727


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10/15

10.灼熱の突破口

純白の雲海を、無数の死の閃光が下から上へと容赦なく貫いていく。

青く澄み切った地球の空は、一瞬にして、数千数万のレーザーと対空ミサイルが交差する灼熱の弾幕地帯キルゾーンへと変貌した。


「左だ、トビー! スラスターを吹かせッ!」


船底下からのレイの怒号に反応し、トビーは操縦桿をへし折らんばかりの力で左へと押し込んだ。

ラッキースター号の老朽化した船体が、断末魔のような軋みを上げて強引に軌道を逸らす。直後、彼らがコンマ数秒前までいた空間を、戦艦の主砲から放たれた極太のメガ粒子ビームが音速を超えて通過し、大気を一瞬で沸騰させた。

凄まじい熱波と衝撃波が船を乱気流のようにもてあそび、コックピットの計器類が次々と火花を散らしてショートする。


「ぐはぁっ……! 出力低下! 補助ジェネレーターの三番が焼け付いた!」

トビーは額から血を流しながら、半狂乱でコンソールを叩いた。「無理だ、こんなの避けきれねえ! 空域を完全に埋め尽くされてる!」


広角スクリーンに映し出される光景は、まさに絶望そのものだった。

彼らの眼下に広がる広大な空を、地球連邦軍の主力艦隊が分厚い壁となって塞いでいる。そこから放たれる対空砲火は、まるで重力に逆らって降り注ぐ光の豪雨だった。

彼らが地球の特務機関へ向かうためには、この弾の雨の中を一直線に降下し、艦隊の隙間をすり抜けなければならない。


「なんで……なんで味方が……私たちがここを通るって、どうして……!」

シートベルトに縛り付けられたセリアは、恐怖で顔を白蝋のように強張らせ、絶叫した。


答えは明白だ。連邦軍の中枢に巣食う強硬派にとって、セリアが抱えるデータは連邦という巨大な体制そのものを根底から覆す猛毒。彼女の命など、何万の兵力を動員してでもこの空で消し炭にすべき「汚物」に過ぎないのだ。

理想と正義の象徴であったはずの連邦が、明確な殺意を持って自分を殺しにきている。その残酷な現実が、セリアの心を粉々に打ち砕こうとしていた。


ドォォォォォンッ!!


至近距離で対空ミサイルが炸裂し、凄まじい爆風が船体を真横へと弾き飛ばした。

「きゃぁぁっ!」

「チクショウ! レイ、ワイヤーがもたない! このままじゃお前ごと船体が引き裂かれるぞ!」


船の下部――大気圏の摩擦熱を全身で受け止め、さらに下からの砲火に対する文字通りの『盾』となっている漆黒の機体、ヴォルフラム。

そのコックピットの中で、レイ・ヴァンガードは血を吐くような苦痛に耐えていた。


「……切る、な……。俺から、ワイヤーを離すなッ!」


レイの奥歯は、強烈な食い縛りによってすでに何本か欠け、口の中は鉄錆のような血の味で満たされていた。

ニューラル・リンクの同期率は安全圏ギリギリに抑えているものの、機体の装甲を叩き打つ砲弾の衝撃と、数千度に達する熱波は、神経接続を通じてレイの肉体を容赦なく焼き焦がしている。

パイロットスーツの内側で皮膚が粟立ち、毛細血管が悲鳴を上げていた。


(なんで、俺は……)


視界が赤く点滅する中、レイの脳裏に、極限状態ゆえの冷徹な問いが浮かんだ。

ワイヤーを切断し、この船を見捨てれば、ヴォルフラムの圧倒的な機動力をもって単機でこの空域を離脱することは容易い。彼はただの雇われの傭兵であり、借金を帳消しにするためのビジネスだったはずだ。

これほどの苦痛を味わい、己の命を擦り減らしてまで、なぜ他人の盾になっているのか。


「……っ、あぁぁぁっ!!」


直撃コースで迫ってきたビームを、レイはヴォルフラムの左腕の装甲を犠牲にして弾き返した。装甲がドロドロに溶け落ちる感覚が、自分の左腕をバーナーで焼かれているような激痛となって脳髄を貫く。


それでも、彼はワイヤーをパージしようとはしなかった。


(あいつらは……)


脳裏に浮かぶのは、自分を「人間」だと信じ、ドア越しに涙を流してくれたセリアの姿。

そして、勝ち目などないと分かりきっていても、自分を助けるために船ごと突っ込んできたトビーの無謀な顔。


彼らは、レイがずっと否定し、目を背け続けてきた『光』だった。

連邦の実験室で心を壊され、血塗られた殺戮の記憶ナンバーズに支配されそうになっている自分を、必死に現実に、人間の世界に繋ぎ止めてくれる細い糸。

もし今、自分が彼らを見捨てれば、レイ・ヴァンガードという人間の魂は完全に死滅する。残るのは、ただ世界を破壊するためだけの亡霊バケモノだ。


「……俺は……俺の意志で、あいつらを降ろすッ!!」


レイの喉から、獣のような咆哮が迸った。

それは作られた兵器としてのプログラムではない。誰かを守りたいという、不器用で、ひどく人間臭い、彼自身の強烈な意志だった。


「システム・ヴォルフラム! 冷却器クーラーの全動力を姿勢制御スラスターへ回せ! 俺が軌道をこじ開ける!!」


『警告。冷却器の停止は、装甲表面のオーバーヒート及び、外部拘束アーマーの融解を引き起こします。機体への致命的な……』

「やれと言っている!!」


レイがコンソールを乱暴に叩き切った瞬間、漆黒の機体の背面に残されていた大型スラスターが、自爆するかのような爆発的なプラズマの炎を噴き上げた。


「レ、レイ!? 何をしてる、出力が異常だぞ!」

トビーが悲鳴を上げる。


「トビー、操縦桿から手を離せ! 俺が船ごと引っ張る!」

レイは、ラッキースター号の重量を丸ごとぶら下げたまま、ヴォルフラムの推力のみで強引に降下角を急転下させた。


目指すのは、艦隊の陣形の中央。もっとも砲火が濃く、そして特務機関へと続く最短ルートの死地。


ズガァァァァァァンッ!!


無数のビームと実弾が、ヴォルフラムの装甲に容赦なく突き刺さる。

冷却システムを切った機体は、大気との摩擦熱と被弾の熱を逃がす術を失い、真っ赤に焼けただれた鉄塊と化していた。

レイの視界は苦痛で完全に真っ白に染まり、自分の呼吸の音すら聞こえなくなっていく。それでも、彼は操縦桿を握る両手の力を決して緩めなかった。


(抜けろ……抜けろッ!!)


眼前に、マゼラン級戦艦の巨大なブリッジが迫る。

レイは機体を横に捻り、ラッキースター号を庇うようにして、戦艦の主砲の砲身すれすれを滑り抜けた。

圧倒的な速度と質量の通過に、戦艦の装甲が風圧で拉げ、周囲に展開していたモビルスーツ部隊が次々と吹き飛ばされていく。


「抜けた……! 艦隊の防衛網を抜けたぞ!!」

トビーの歓喜の声が、遠く、水底から響いてくるように聞こえた。


だが、極限の負荷は、ついにその限界点を超えていた。


『――限界熱量突破。外部拘束アーマー、強制パージを実行』


システム音声がコックピットに響いた直後。

ヴォルフラムの全身を覆っていた、分厚い漆黒の装甲――連邦軍が、この機体の『本当の力』を封じ込めるために取り付けていた幾重もの拘束具リミッターアーマーが、耐えきれずにドロドロに融解し、弾け飛んだ。


バキィィィィィィンッ!!!


船体の下で起こった凄まじい爆発音に、セリアとトビーは息を呑んでモニターを見た。

飛び散る漆黒の装甲板の欠片。

そして、その奥から姿を現したのは、今まで彼らが見ていた機体とはまったく異なる、禍々しくも神々しい『異形』だった。


黒い外殻を脱ぎ捨てた機体の本体は、筋肉の繊維を思わせるしなやかな銀色の内部骨格と、その隙間を脈打つように這い回る、血のように赤い発光回路で構成されていた。

頭部の狼のバイザーが砕け落ち、下から現れたのは、鋭い二つの黄金の瞳。

まるで、地獄の底から這い出してきた真の悪魔が、拘束衣を引きちぎって産声を上げたかのような、おぞましいまでの存在感。


「……な、なんだあれ……。ヴォルフラムの……本当の姿……?」

トビーが震える声で呟く。


赤い発光回路が、ドクン、ドクンと、巨大な心臓のように脈打っている。

その脈動は、コックピットの中で気を失いかけているレイの心拍と、完全に同調していた。


『No.07』としての記憶と、レイ自身の人間としての意志。

その二つの相反する魂の激突が、封印されていた機体の真の力を強制的に目覚めさせたのだ。


剥き出しになった『赤い悪魔』は、ラッキースター号をぶら下げたまま、雲海の下、ついに広がる地球の大地――荒廃した茶褐色の荒野へと向かって、一直線に堕ちていった。

世界が、巨大なすり鉢の底を転がり落ちていくような感覚だった。


成層圏の防衛網を突破した『ラッキースター号』は、もはや航宙艦としての制御を完全に失い、地球の重力という絶対的なかいなに抱かれるまま、自由落下に近い速度で大気圏下層へと落ちていった。

機体の摩擦熱は頂点に達し、船内はサウナのような異常な高温に包まれていた。

空気を切り裂く轟音が、鼓膜を物理的に破壊しそうなほどの質量を持ってコックピットに響き渡る。全天周モニターは先ほどの戦闘と熱で完全に死に絶え、外の様子を知る術はない。


「衝撃に備えろォォッ!!」


トビーの裏返った絶叫が響いた直後。

ラッキースター号の船体は、地球の固い大地へと、まるで巨大な槍が突き刺さるような凄まじい角度で激突した。


ドゴォォォォォォォンッ!!!


内臓が口から飛び出そうになるほどの強烈な衝撃。

鋼鉄のフレームがへし折れ、装甲板が引き裂かれる甲高い悲鳴が船内を覆い尽くす。船は大地を削り、泥と岩盤を激しく撒き散らしながら、数百メートルにわたって地表を滑り続けた。

火花が散り、コンソールが爆発し、キャビンのあらゆるものが無重力のように宙を舞って壁に叩きつけられる。

セリアはシートベルトにきつく縛り付けられたまま、その暴力的な振動と轟音の中で、ついに意識の糸を手放した。


……。

…………。


どれほどの時間が経過したのだろうか。


「……セリア。……おい、お嬢様、生きてるか……?」


掠れた、苦しげな声と、肩を揺さぶられる感覚。

セリアは重い瞼をゆっくりとこじ開けた。

最初に視界に入ってきたのは、額から血を流し、片目を腫らしたトビーの顔だった。彼の油まみれのツナギはさらに薄汚れ、息をするたびに痛そうに顔をしかめている。


「……トビー……。私……」

「よかった、息はあるな。どこか骨が折れてたり、動かないところはないか?」

「ええ……多分、大丈夫……」


セリアは全身を襲う打撲の痛みに顔を顰めながら、震える手でシートベルトのバックルを外した。

船内は傾き、酷い有様だった。計器類はすべて沈黙し、剥き出しになった配線から微かに火花が散っている。空気には、土埃と焦げた金属、そして漏れ出した冷却ガスの匂いが充満していた。


「……レイは!? レイはどうなったの!?」

意識がはっきりしてくると同時に、セリアは船底にぶら下がっていたはずの彼の存在を思い出し、悲鳴のように叫んだ。


「わからねえ。モニターが死んでる。とにかく、外に出るぞ」


トビーが歪んだコックピットのハッチにバールをねじ込み、渾身の力を込めてこじ開ける。

ギギギギッ、という重い金属音と共に、ハッチが外側へと蹴り飛ばされた。


途端に、外の空気が船内へと流れ込んでくる。

それは、セリアが夢にまで見た、地球の清浄で澄み切った空気……ではなかった。

鼻腔を突いたのは、カラカラに乾いた土の匂いと、鼻の粘膜を焼くような微量の硫黄の臭い。そして、肌を刺すような熱気を帯びた、ひどく乾燥した風だった。


トビーに手を引かれ、セリアは傾いた船体から外へと転がり出た。


「……え……?」


這いつくばった大地から顔を上げたセリアは、目の前に広がる光景に、言葉を失った。


データアーカイブで見た地球。養父が読み聞かせてくれた本の中の地球。

そこは、どこまでも広がる青い海と、緑豊かな森に覆われ、澄んだ青空に白い雲が浮かぶ、生命に溢れた『楽園』のはずだった。宇宙移民たちがいつか帰ることを夢見る、美しき母なる星。


だが、セリアの瞳に映ったのは、そのどれとも異なる、残酷なまでに無惨な世界だった。


見渡す限りの赤茶けた荒野。

ひび割れた大地には、緑の気配など一切ない。点在しているのは、風化して骨のようになった枯れ木と、かつて都市だったものの残骸と思われる、黒く焼け焦げた鉄骨の墓標だけ。

見上げる空は青色ではなく、有毒な砂塵と分厚いスモッグに覆われ、どんよりとした黄土色に濁っていた。太陽の光すら、その分厚い砂のベールに遮られ、不吉な赤黒い輪郭としてぼんやりと空に張り付いているだけだ。


「ここが……地球……?」

セリアは震える足で立ち上がり、その絶望的なパターンの広がりを呆然と見つめた。

「嘘よ……。データには、環境は回復に向かっているって……自然保護区が広がっているって、そう記録されていたのに……!」


「連邦のプロパガンダさ」

トビーが、乾いた風に目を細めながら吐き捨てた。

「宇宙移民に『地球は特別な聖域だ』と思わせておくための、都合のいい嘘だ。アウターズの連中が言ってた通りだったな。……地球の環境は、過去の大戦から何一つ回復しちゃいねえ。連邦の特権階級が住んでるごく一部の居住区を除いて、この星はとっくに死んでるんだよ」


理想と現実の圧倒的なギャップ。

自分が命を懸けて目指した場所が、すでに死に絶えた荒野だったという事実。

セリアは膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、唇を噛み締めた。

(泣いている暇はない。私たちはまだ、生きているんだから)


「レイ! レイはどこ!?」

セリアは振り返り、ラッキースター号の残骸へと駆け寄った。


船は、荒野に巨大なクレーターを穿ちながら停止していた。

その船体の真下。地表に深くめり込んだ状態で、彼らの盾となったあの機体が沈黙していた。


「なんだ、あれは……」


トビーが、信じられないものを見るような声を上げた。

クレーターの底に横たわっていたのは、彼らが知る漆黒の『ヴォルフラム』ではなかった。

大気圏の摩擦熱と、限界を超えたジェネレーターの出力により、機体を覆っていた漆黒の装甲リミッターは完全に融解し、吹き飛んでいた。

剥き出しになったのは、銀色に鈍く光るしなやかな内部骨格。そして、その骨格の隙間を縫うように這い回る、血のように赤い発光回路。

機体の頭部はバイザーが割れ、猛禽類を思わせる鋭い双眸が、光を失って虚空を睨みつけていた。


それは、連邦がひた隠しにしてきた『呪われた狼』の真の姿。

人間が作り出した兵器というよりも、悪魔の骨格に機械を埋め込んだような、禍々しくもおぞましい異形だった。


「レイ!!」


セリアはクレーターの斜面を滑り降り、赤い悪魔の胸部、半ばひしゃげたコックピットハッチへと駆け寄った。

熱を持った銀色の装甲に手をかける。火傷しそうなほどの熱さだったが、構わずハッチの隙間に指をねじ込んだ。


「手伝うぜ!」

後から降りてきたトビーと二人で、歪んだハッチを強引にこじ開ける。


プシューッという排気音と共に、コックピットの内部が露わになった。


「レイ……っ!」

セリアの口から、悲鳴のような声が漏れた。


レイは、パイロットシートに深く沈み込み、ピクリとも動かなかった。

彼の状態は凄惨を極めていた。首筋の接続端子からは血が流れ出し、パイロットスーツを赤黒く染めている。全身は汗と血に塗れ、その肌は死人のように青白かった。

呼吸はひどく浅く、胸がわずかに上下していることで、辛うじて生きていることがわかる程度だ。


ニューラル・リンクの過負荷、大気圏突破の灼熱、そして機体の真の力を引き出したことによる精神崩壊の危機。

これほどの負荷を同時に受け、それでも彼は、ワイヤーをパージすることなく、セリアたちを地球の大地まで護り抜いたのだ。


「レイ、レイ! 目を開けて!」

セリアはレイの冷たい頬に手を当て、必死に呼びかけた。


「……あ……」

レイの瞼が、ほんのわずかに震えた。

半開きの瞳孔に、濁った空の色と、涙を流すセリアの顔が映り込む。


「……地球に、着いたか……」

彼の口から漏れたのは、擦れた、今にも消え入りそうな声だった。


「ええ、着いたわ! あなたが守ってくれたから……!」

「……そうか……。なら、俺の……仕事は……」


レイの言葉は最後まで続かなかった。

彼の瞳から再び光が失われ、その頭がガクリと横に倒れる。完全に意識の底へと沈み込んでしまったのだ。


「レイ!? いや、死なないで! レイ!」

セリアが泣き叫びながら彼の肩を揺さぶる。


「落ち着け、お嬢様! 脈はある、気絶してるだけだ!」

トビーがレイの首筋に指を当て、安堵の息を吐きながら言った。「とにかく、こいつをコックピットから引きずり出して、船の陰に運ぶぞ。このバケモノみたいな機体の中にずっといさせるのは、ヤバい気がする」


トビーの言葉に従い、二人は力を合わせて、意識のないレイの重い体をコックピットから引き摺り出した。

荒野の乾いた風が、彼らの汗と血を冷やしていく。

周囲は、不気味なほどの静寂に包まれていた。連邦の追撃部隊は、この分厚い砂塵の空に阻まれているのか、まだ降りてくる気配はない。


船の残骸の影にレイを寝かせ、セリアが水筒の水で彼の額の血を拭い始めた、その時だった。


ザクッ、ザクッ、ザクッ。


風の音に混じって、硬いブーツで砂利を踏み締めるような、複数の足音が聞こえてきた。

トビーがハッとして顔を上げる。


「……追っ手か!?」

トビーは咄嗟に、レイの腰のホルスターから大型ハンドガンを抜き取り、足音がする方向――砂煙の向こう側へと銃口を向けた。


黄土色の砂塵が風に流され、徐々に視界が開けていく。

そこから現れたのは、連邦軍の洗練された装甲服を着た兵士たちではなかった。


「動くな。その銃を捨てろ」


低く、ドスの効いた声が響く。

砂埃の中から姿を現したのは、ボロボロのポンチョや布切れを纏い、顔をゴーグルとマスクで隠した、数十人の武装集団だった。

彼らの手には、連邦の旧式アサルトライフルや、手製のロケットランチャー、さらには農具を改造したような物騒な近接武器が握られている。年齢も性別もバラバラだ。

ただ一つ共通しているのは、その瞳の奥に宿る、飢えた狼のような鋭い警戒心と、体制に対する強烈な敵意だった。


彼らは、クレーターの周囲をぐるりと囲み、セリアたちに向けて一斉に銃口を突きつけていた。


「ちくしょう……どこの野盗だよ……!」

トビーが銃を構えたまま、歯軋りをする。


武装集団の中から、一人の大柄な男が前に進み出た。

彼はマスクをずらし、日焼けしてシワの刻まれた険しい顔を覗かせた。その鋭い視線が、ひしゃげたラッキースター号と、銀色に光る異形の機体、そしてセリアたちを舐め回すように観察する。


「空から派手な火の玉が落ちてきたと思えば……連邦の犬か、それともアウターズのハイエナか」


男の野太い声が、乾いた荒野に響いた。

それは野盗などではない。この死に絶えた地球の大地で、連邦の支配に抗いながら泥水をすすって生き延びてきた者たち。


「……地球の、レジスタンス……」

セリアは、銃口を向けられながらも、養父のデータの中にあった彼らの存在を思い出し、掠れた声で呟いた。


墜ちた楽園で彼らを待ち受けていたのは、救いの手ではなく、血と砂に塗れた大地の抵抗者たちによる、冷酷な銃口の壁だった。

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