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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第66話:神への階(きざはし)上層攻略 ~汗と絆の三十層~

(後半)


【未知の大迷宮 ~第一層の試練~】


帝都近郊に出現した巨大な地下遺跡、通称『神へのきざはし』。

王立学園の最高学年である一般生徒たちと、十柱の女神たちは、いくつかのパーティーに分かれて第一層へと足を踏み入れた。


「……暗いですね。パパの屋敷の地下室より不気味ですわ」

長女のベイラが、黄金の髪を揺らしながら周囲を警戒する。


十人の女神たちの首元には、ライルから贈られた『愛のチョーカー』が輝いている。神気を極限まで制限された今の彼女たちの魔力は、「極めて優秀な一般生徒」と同等レベルだ。

かつてのように、指先一つで迷宮ごと吹き飛ばすような無茶はできない。


「ギィィィッ!!」

物陰から、群れを成した迷宮ゴブリンが襲いかかってきた。


「ひっ……!」

友人のマリーが怯むが、琥珀色の髪のヘスティアーが前に出た。


「下がってマリーちゃん! 《ファイヤーボール》!」

ヘスティアーが手のひらから炎を放つ。しかし、神滅の白炎ではなく、あくまで通常レベルの炎だ。ゴブリンを数匹吹き飛ばしたものの、群れ全体を殲滅するには至らない。


「くっ、魔力が足りない……!」

「私が隙を作りますわ! 男子生徒の皆さん、剣を!」


漆黒の髪のヘカッテが小規模な重力魔法でゴブリンの足元を泥沼のように重くし、その隙を突いて一般の男子生徒たちが剣や槍で確実に仕留めていく。


「や、やった……! 俺たちの攻撃が通用したぞ!」

「ヘカッテ様、ナイスサポートです!」


男子生徒たちが歓声を上げる。

女神の力による「ワンパンチ」ではなく、連携して魔物を倒した達成感。

息を切らしながらも、ヘスティアーやヘカッテの顔には、今まで感じたことのない清々しい笑みが浮かんでいた。



【第十一層?第二十層 ~知恵と技術の成長~】


階層が進むにつれ、魔物の強さだけでなく、迷宮特有の「罠」や「環境変化」が牙を剥き始めた。

第十五層の毒沼地帯では、真っ当に歩くことすら困難だった。


「うぅ……ドレスの裾が泥だらけですわ……」

真紅の髪を持つフレイヤが、顔をしかめる。しかし、すぐに気を取り直して杖を構えた。

「でも、ここで立ち止まるわけにはいきません。翡翠ユリィナ純白ニーケ! 私たちの魔力を合わせて、足場を作りますわよ!」


「はい、お姉様!」


ユリィナが植物魔法で毒沼の上に強靭な蔦を這わせ、ニーケが光の浄化魔法で足元の毒素を薄め、フレイヤが風の魔法で周囲の瘴気を吹き飛ばす。

絶大な出力が使えないなら、技術コントロールと知恵でカバーする。チョーカーの制限が、逆に彼女たちの「魔法の精密な制御力」を劇的に向上させていた。


「すごい……! みんな、フレイヤ様たちが作ってくれた道を一列で進むんだ!」


さらに、罠の解除は女神たちには不慣れな分野だったが、そこは一般生徒のスカウト(斥候)志望の生徒たちが大活躍した。


「ここは俺に任せてください! リーフェ様、そこは落とし穴のトリガーです!」

「えっ? ああっ、本当だわ。ありがとう、助かったわ」

銀髪のリーフェが、素直に男子生徒に頭を下げる。


圧倒的な上位存在として君臨するのではなく、互いの弱点を補い合い、背中を預け合う。

迷宮の暗闇の中で、十人の女神と一般生徒たちとの間には、確かな「戦友」としての絆が芽生え始めていた。



【第三十層 ~野営と焚き火の温もり~】


そして迷宮突入から数日。

生徒たちの合同パーティーは、大きな犠牲を出すことなく、上層の区切りである第三十層の安全地帯セーフエリアへと到達した。


「ふぅーっ! やっと休憩ね!」

瑠璃色の髪のファリナが、持参した水筒を傾ける。


第三十層の広間には、生徒たちが設営したいくつものテントと、焚き火の暖かな光が揺れていた。

夕食の準備も、全員での分担作業だ。

紫水晶アメジストの髪を揺らすノアが、星空の髪のアフロディテと共に、下層で狩った魔物の肉を一般生徒に教わりながら串焼きにしている。


「ノア様、アフロディテ様! お肉、焦げてますよ!」

「きゃあ! ほ、本当ですわ! 火力調整が難しい……!」


笑い声が絶えない野営地。

焚き火の炎を見つめながら、ベイラは隣に座るマリーに微笑みかけた。


「……迷宮の攻略って、もっと退屈なものだと思っていました」


「退屈、ですか?」


「ええ。昔の私なら、入り口から三十層まで、氷の魔法で一瞬にして更地にしていたはずですから」

ベイラは自分の両手を見つめ、ギュッと握りしめた。


「でも、今は違いますわ。魔力は制限されて息苦しいし、体力も削られるし、服は汚れるし……。でも、みんなで道を探して、助け合ってここまで歩いてきたこの疲れが……たまらなく心地良いんです」


「ベイラ様……」


「パパが私たちにこの制限チョーカーを与えた理由が、やっと分かりましたわ。

何でも一瞬で終わらせてしまう神の力だけでは、絶対に手に入らない『充実感』が、ここにはあるのですね」


他の九人の女神たちも、それぞれの場所で焚き火の温もりを感じながら、同じことを想っていた。

自分たちは今、力ではなく「心」で試練を乗り越えようとしている。

パパの隣を歩く、立派なレディーになるために。


「さあ、明日は三十一層……中層への突入よ! みんな、しっかり食べて英気を養いましょう!」


ベイラの号令に、生徒たちと女神たちの力強い勝鬨が地下空間に響き渡った。


最下層である第九十九層までは、まだ道のりは遠い。

しかし、上層の三十層を己の足と仲間の絆で踏破した彼女たちの瞳には、以前の「パパに依存するだけの強大な子供」の面影はもうなかった。

そこにあったのは、気高く、美しく、そして頼もしい「自立した女性」たちの煌めきだった。


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