第65話:卒業試験の大迷宮と、神王(ジジイ)の悪戯
【王立学園 ~卒業を控えた春~】
チョーカーで神気を抑え、普通の女の子としての青春を満喫した十柱の女神たち。
月日はあっという間に流れ、いよいよ彼女たちが「15歳」を迎える春――すなわち、王立学園の卒業式であり、ライルとの『合同結婚式』を数週間後に控えた時期がやってきた。
学園の講堂には、最高学年の生徒たちが集められていた。
もちろんその中には、長女のベイラをはじめとする十人の美しい女神たちの姿もある。
教壇に立った白髪のベテラン教師が、厳かな顔つきで生徒たちを見渡した。
「諸君。いよいよ卒業が目前に迫ってきた。……だが、王立学園の卒業証書は、ただ机に向かっていただけで得られるものではない」
教師の言葉に、講堂の空気がピンと張り詰める。
「これより、最高学年全員参加による『卒業試験』を発表する!
試験の内容は――帝都の近郊に突如として出現した未知の大迷宮、通称『神への階』の最下層への到達、およびダンジョン攻略だ!」
「「「大迷宮の攻略!?」」」
一般生徒たちの間に、どよめきが走った。
「そうだ。最下層には、卒業生全員分の『特別な衣装(祝福の品)』が入った宝箱が用意されていると、王宮の神託魔法によって予知されている。
……ただし! ベイラ様をはじめとする十人の令嬢方には、厳しい条件がある」
教師は、十人の女神たちを真っ直ぐに指差した。
「令嬢方には、お父君(ライル公爵)より賜った『魔力制限のチョーカー』を外すことを禁ずる!
圧倒的な力で強行突破するのではなく、これまでの学園生活で培った『仲間との連携』と『知恵』を駆使し、一般生徒たちと共に最下層を目指してもらう。……これが、諸君らに課せられた最後の試練だ!」
「……なるほど。パパからの贈り物を着けたまま、みんなで協力して宝箱を持ち帰るのね」
長女のベイラが、首元のチョーカーに触れながら不敵に微笑む。
「望むところですわ! 学園の集大成、立派なレディーになった私たちの力を、パパに見せつけてやりますわよ!」
ヘスティアーが拳を握り込み、十色の美しいストレートヘアを揺らして女神たちが一斉に立ち上がった。
彼女たちの気合に当てられ、不安がっていた一般生徒たちも「おおおっ!! やってやるぞ!!」と凄まじい歓声を上げた。
かくして、学園生活のフィナーレを飾る、卒業生総出の『大迷宮攻略戦』が幕を開けたのである。
◇
【一方、ローレンツ邸の執務室では】
「……ん? 帝都の近郊に、未知の大迷宮が突如出現した?」
執務机で報告書を読んでいたライルが、怪訝そうに眉をひそめた。
「ああ。しかも最下層に、娘たちを含めた卒業生全員分の衣装が入っているだって? そんな都合のいいダンジョンが、自然発生するわけが……」
『――ふぉっふぉっふぉっ!』
突然、ライルの魂の奥底から、上機嫌な笑い声が響いた。
同化している【転生後の世界の最高神】である。
(……おい、爺さん。まさか)
『いかにも! ワシが暇つぶし……いや、可愛い義理の娘たちの「嫁入り前の最終試練」として、特別に創り出してやった神造ダンジョンよ!』
最高神は、ライルの脳内でドヤ顔を決めていた。
『ただの試練ではないぞ。最下層に用意したあいつらの衣装は、ワシが神界の最高級素材でデザインした「超・特製の花嫁衣裳」だ!
あいつらがアレを着た瞬間、チョーカーの制限から解き放たれ、溜まりに溜まった神気が極限まで圧縮されて【最後の進化】を遂げる仕掛けになっておる!』
(最後の進化……? なんだそれ、聞いてないぞ!)
『ふふん、お前を心底惚れ直させるための、ワシからの粋な結婚祝いよ!
……娘たちも、お前も、度肝を抜かれるがいいわ! ガッハッハ!!』
ライルは頭を抱えた。
身内の最高神が、勝手に学園の卒業試験を「神話級の嫁入りイベント」にすり替えてしまったのだ。
しかし、神が自ら用意したという『究極の衣装』と『最後の進化』。
それが一体どんなものなのか、ライル自身も、少しの不安と……それ以上の大きな期待で、胸を高鳴らせてしまうのだった。
(後半へ続く)




