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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第64話:学園祭の喧騒と、月夜のベランダに揺れる純情

【王立学園 ~メイド喫茶は大盛況~】


秋の深まりと共に、王立学園は一年で最も華やかな『創立記念学園祭』の熱気に包まれていた。


「お帰りなさいませ、ご主人様! こちらの席へどうぞ!」

「厨房、オムライスのオーダー三つ入りますわ!」


二年生の教室を改装した『特製メイド喫茶』では、十人の女神たちが凄まじい働きぶりを見せていた。

身長190センチメートル。その半分以上を占める股下110センチの圧倒的な美脚と、八頭身の完璧なプロポーション。

彼女たちが学園指定のクラシカルなロングフリルのメイド服を纏い、十色のストレートロングの髪を揺らしながらテーブルの間を優雅に行き来する姿は、まさに動く芸術品だった。


「すごい……ベイラ様たち、本当に完璧な接客……」

「マリーさん、そこのお皿を下げるの手伝ってもらえますか? 息を合わせて一気に片付けましょう!」

「は、はいっ! リーフェ様!」


パパからの贈り物である『愛のチョーカー』で魔力と神気を抑えている彼女たちは、一般生徒たちと完全に打ち解けていた。

放課後遅くまで残って教室の飾り付けを手伝い、不器用ながらも友達と一緒に看板を作り上げた数週間。強すぎる力で何でも一瞬で終わらせていた頃には知らなかった「共に苦労し、共に作り上げる達成感」が、彼女たちの笑顔をいっそう輝かせていた。


「お待たせいたしましたわ。美味しくなるおまじない、一緒にやりますわよ?」


ヘスティアーが満面の笑みでオムライスにケチャップでハートを描くと、他クラスや他学年から押し寄せた客たちは、あまりの美しさと可愛らしさに次々と骨抜きになっていく。

メイド喫茶は、学園祭の大目玉として大成功を収めていた。



【夜の舞踏会 ~レディーとしてのステップ~】


そして夜。学園祭の締めくくりとなる『後夜祭の舞踏会』が、大ホールで開催された。

シャンデリアのまばゆい光の中、管弦楽の生演奏が優雅なワルツを奏でている。


ドレスアップした十人の女神たちは、壁際で友達のマリーたちと談笑していた。

そこへ、極度に緊張した面持ちの男子生徒たちが、震える足で近づいてくる。


「あ、あの……! ベ、ベイラ様! もしよろしければ、僕と一曲……踊っていただけないでしょうか!」


顔を真っ赤にして頭を下げる男子生徒。

以前の彼女たちなら、「パパ以外の男が私に気安く声をかけるな」と冷気を放っていただろう。

しかし、立派なレディーになるための教養と、他者を思いやる協調性を学んだベイラは、扇子を静かに閉じ、花が咲くように柔らかく微笑んだ。


「ええ。喜んでお受けいたしますわ」


ベイラが優雅に手を取ると、男子生徒は感極まったように表情を輝かせた。

ヘスティアーも、リーフェも、ヘカッテも。次々と申し込まれるダンスのエスコートを笑顔で受け入れ、ホールの中央へと進み出る。


190センチの長身と、流れるようなストレートヘア。磨き上げられたステップは誰よりも美しく、男子生徒と身長差があっても、彼女たちは相手の歩幅に合わせて見事にワルツを踊りこなしていた。


「あははっ、ステップ上手ですね!」

「あ、ありがとうございます、ヘスティアー様……!」


友人たちと笑い合い、同世代の男子たちとステップを踏む。

それは、普通の女の子としての、最高に楽しく、煌びやかな青春の1ページだった。



【月夜のベランダ ~一番星への想い~】


舞踏会が終盤に差し掛かった頃。

ホールの熱気から少しだけ離れるように、十人の女神たちは揃って夜風の吹き抜けるベランダへと出ていた。


ガラス扉越しに聞こえる、楽しげなワルツの旋律と人々の歓声。

しかし、大理石のバルコニーに並んで夜空を見上げる十人の美しい後ろ姿には、先ほどの喧騒が嘘のような、静かで、どこか儚げな空気が漂っていた。


「……楽しかったわね。みんなでメイド喫茶をやって、友達と踊って」

長女のベイラが、手すりにそっと両腕を乗せ、夜空に浮かぶ満月を見つめながら呟いた。


「うん。マリーちゃんたちともいっぱいお話しできたし、男の子たちもみんな優しかった」

ヘスティアーが、夜風に靡く琥珀色の髪を指先で梳きながら頷く。


誰の目から見ても、完璧な学園祭だった。

彼女たちは立派に社会常識を学び、周りから慕われるレディーへと成長している。


だが。


「……でも、やっぱり」


銀髪のリーフェが、月に向かってそっと手を伸ばした。

その細く白い指先は、空を掴むだけで、何も触れることはできない。


「少しだけ……寂しい、な」


その言葉に、他の九人も静かに目を伏せた。


誰と踊っていても。どれだけ笑顔を作っていても。

彼女たちの心のど真ん中には、常に『たった一人の愛しい人』の姿があった。

黄金の覇気を纏い、どんな時でも自分たちを絶対的な愛で守り抜いてくれる、優しくて不器用な神王。

今日この特別な夜に、一番隣にいてほしかった人。一番、一緒に踊りたかった人。


月明かりに照らされた十人の後ろ姿。

190センチのすらりとした背筋。背中から腰、そして圧倒的な長さの脚へと続く完璧な曲線美が、夜の闇に美しいシルエットとして浮かび上がっている。

しかしその背中は、どんなに強大な女神であっても、恋焦がれる人には今すぐ手が届かない『一人の乙女』の切なさを、ありありと物語っていた。


「……ダメよ、リーフェ。寂しがっちゃ」


ベイラが、そっと妹の肩を抱き寄せた。


「パパとの本当のダンスは……私たちが15歳になる、卒業式の日まで取っておくって決めたでしょ?

今日は、そのための練習。パパの隣を歩くのに相応しい、世界一のレディーになるためのステップなんだから」


「……うん。そうだね。私たちの『初めて』は、全部パパのものですもの」

ヘカッテが、愛のチョーカーを両手で大切そうに包み込みながら微笑んだ。


「早く大人になりたいな。……早く、パパのお嫁さんになりたい」


アフロディテの星空のような瞳からこぼれ落ちた小さな呟きは、夜風に乗って、遠く離れたローレンツ邸の方角へと溶けていった。


今はまだ、パパから貰ったチョーカー越しの繋がりだけ。

けれど、この少しの寂しさと切なさが、彼女たちをより一層美しく、気高いレディーへと育てていく。


ガラス扉の向こうの華やかなワルツを背に、月を見上げる絶世の女神たち。

その美しき後ろ姿は、7年後の卒業式――すなわち、運命の『結婚式』へ向けて、静かに、そして熱く純情を燃やし続けていた。


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