第63話:愛のチョーカーと、女神たちの煌めく学園生活
【ローレンツ邸 ~パパからの特別な贈り物~】
「……というわけで。お前たち十人には、夏季休暇の終わった王立学園に『復学』してもらう」
朝のサロンで、ライルは十人の娘(婚約者)たちに向かってそう宣言した。
突然のパパからの学園行き宣告に、娘たちは不満げに長いストレートヘアを揺らした。
「ええーっ! どうしてですか、パパ! せっかく婚約したのに、パパと離れるなんて嫌ですわ!」
長女のベイラが、長い脚を組んで唇を尖らせる。
「そうだそうだ! 学園の授業なんて、あたしたちの魔法で校舎ごと消し炭にできるし、歴史だってパパが一番偉いんだから学ぶことなんてないもん!」
三女のヘスティアーが胸を張る。……まさにその「力こそすべて」という神の価値観が問題だった。
「あのな。僕の『未来の妻』になるなら、力だけじゃなく、人間社会の常識や礼儀作法、教養を身につけた『立派なレディー』になってほしいんだ。
……それに、学園には同世代の友達だっているだろ?」
ライルが優しく諭すと、娘たちは「うぅ……」と口ごもった。
「それに、お前たちが学園に行きたくなる『とっておきのプレゼント』を用意したんだ」
ライルは、魔法の箱からキラキラと輝く十個の**『チョーカー』**を取り出した。
それは、細工の施されたプラチナと金で作られ、彼女たちそれぞれの瞳の色(琥珀、銀、星空など)に合わせた最高級の宝石があしらわれた、極上のアクセサリーだった。
「わぁ……っ! すっごく綺麗……!」
「パパからの、プレゼント……!」
※強調しておきますが、これは決して奴隷の首輪のような物騒なものではありません。極めて上品で、ドレスにも制服にも似合う『最高級の女性用アクセサリー』です。
「これを着けてみてくれ。……よし、すごく似合ってるよ。
実はこれには特別な魔法が付与されていてね。お前たちの規格外の神気と魔力を、『一般の優秀な生徒の少し上』くらいまで自動でセーブしてくれるんだ」
「えっ? 魔力を抑えるんですか?」
リーフェが不思議そうに首を傾げる。
「ああ。今までお前たちが学園を歩くと、魔力のプレッシャーだけで一般生徒が気絶したり、土下座したりして、まともに会話もできなかっただろ?
これを着けていれば、みんながお前たちに『普通の友達』として話しかけられるようになる。……さあ、パパの自慢のレディーたち。学園で、たくさんのことを学んでおいで」
「パパからのプレゼント」と「未来の妻になるための試練」。
その二つの言葉に、十人の女神たちのモチベーションは最高潮に達した。
「はいっ! 私たち、絶対に立派なレディーになってみせますわ!!」
◇
【王立学園 ~普通の女の子としての第一歩~】
新学期。
王立学園の正門に、十人の絶世の美女たちが足を踏み入れた。
身長190センチメートル。股下110センチの圧倒的に長く美しい脚。風になびく十色のストレートロングの髪。
その神々しいプロポーションと美貌は相変わらずだが、周囲の生徒たちの反応は以前と全く違っていた。
以前なら、彼女たちが通るだけで道が割れ、息を呑んで平伏する者ばかりだった。
しかし今は、ライルのチョーカーによって神の威圧感が抑えられ、ただの「ものすごく綺麗で優秀な公爵令嬢」という親しみやすいオーラになっていたのだ。
「あ、あの……! お、おはようございます、ベイラ様、リーフェ様!」
勇気を出して、一人の女子生徒が声をかけてきた。
以前の彼女たちなら「パパ以外の声など聞こえませんわ」と素通りしていただろう。
だが、ベイラは立ち止まり、チョーカーにそっと触れ、優雅なカーテシー(淑女の礼)を返した。
「おはようございます。……ええと、たしか歴史の授業が同じクラスの……」
「マ、マリーです! 覚えていてくださったんですか!?」
「ええ、マリーさん。今日も良いお天気ですわね。一緒に教室へ行きましょうか?」
「は、はいっ!!」
マリーは感動で目を輝かせた。
雲の上の存在だった女神たちと、初めて「普通の挨拶」が交わされた瞬間だった。
これを皮切りに、他の生徒たちも恐る恐る、しかし嬉しそうにヘスティアーやアフロディテたちに話しかけ始め、彼女たちの周りには自然と笑顔の輪が広がっていった。
◇
【授業とダンジョン ~協力することの喜び~】
学園での生活は、彼女たちにとって新鮮な驚きの連続だった。
言語学や歴史の授業では、「全知」の魔法で答えを引き出すのではなく、教科書を読み、ノートを取り、自分の頭で考える楽しさを知った。
礼儀作法の授業では、パパの隣を歩くのに相応しい洗練されたテーブルマナーや、美しい扇子の使い方を学び、彼女たちの所作は「圧倒的な力」から「洗練された美」へと磨き上げられていった。
そして、最も変化があったのは『ダンジョン実習(戦闘訓練)』だった。
「グルルルォォッ!!」
実習用の地下迷宮で、巨大なミノタウロスが一般生徒のパーティーに襲いかかった。
「きゃあっ!」
「下がって、マリーさん!」
ヘスティアーが前に出る。
以前なら《白炎》で迷宮ごと消し炭にして終わっていた。だが、チョーカーで魔力がセーブされている今は、放った炎の魔法は「かなり威力の高いファイアボール」程度に留まった。
ミノタウロスは火傷を負いながらも、怒り狂って突進してくる。
「一撃で倒せないなら……みんな、協力して!」
ヘカッテが叫ぶ。
「私が重力魔法で足止めします! 男子生徒は右から回り込んで!」
「わ、分かりました、ヘカッテ様!」
「リーフェお姉様、私が目くらましを! その隙に魔法剣を!」
神の力による「ワンパン」ではなく、仲間と声を掛け合い、知恵を絞り、それぞれの役割を果たす『連携』。
一般生徒たちと共に汗を流し、ついにミノタウロスが倒れた時。
「やったぁぁっ!!」
ヘスティアーは、マリーたち一般の女子生徒たちと、自然にハイタッチを交わしていた。
強すぎたが故に知らなかった、「仲間と共に成し遂げる喜び」。
十人の女神たちは、この学園で、力よりもずっと尊い『青春』という宝物を手に入れていた。
◇
【ローレンツ邸 ~誇らしきレディーたち~】
夕方。
ローレンツ邸に帰ってきた娘たちは、ダイニングで紅茶を飲むライルとサクヤたちの元へ、目を輝かせて駆け寄ってきた。
「パパ! 今日ね、歴史の小テストで満点を取りましたのよ!」
ベイラが誇らしげに答案用紙を見せる。
「あたしはね、ダンジョン実習でマリーたちと一緒に連携して、ミノタウロスを倒したの! ハイタッチ、すっごく嬉しかった!」
ヘスティアーが満面の笑みで報告する。
ライルは、楽しそうに学園の話をする娘たちの姿を見て、目を細めた。
パパに依存するだけだった無敵の女神たちは、チョーカーという制約の中で、他者を思いやり、共に笑い合える「立派なレディー」へと確かに成長している。
「みんな、すごく頑張ってるみたいだな。……パパ、お前たちが本当に誇らしいよ」
ライルが一人一人の頭を優しく撫でると、娘たちは嬉しそうに頬を染め、パパからのプレゼントであるチョーカーを愛おしそうに握りしめた。
「ふふっ。これなら、15歳になる頃には、世界中が羨むような最高のお嫁さんになれそうですわね」
サクヤが、紅茶のカップを置きながら優しく微笑む。
力ではなく、心と教養を育む学園生活。
最強の家族の日常は、こうしてまた一つ、温かく豊かな色に染まっていくのだった。




