第61話:ローレンツ家の反省会と、十柱の女神へのプロポーズ
【転生後の世界・ローレンツ邸 サロン】
古代魔導帝国ゼクシアを完全に沈黙させ、娘たちを無事に奪還した翌日。
ローレンツ邸のサロンでは、重々しい空気の中で「家族の反省会」が開かれていた。
テーブルの片側にはライルとサクヤ、そして四人の妻たち。
向かい側には、少しバツの悪そうに肩をすぼめる、身長190センチの十人の女神(娘)たちが並んで座っている。
「……まずは、全員無事に帰ってこられて本当によかった」
ライルが口火を切ると、長女のベイラが申し訳なさそうに視線を落とした。
「ごめんなさい、パパ。私たちが、帝国の罠だと見抜けずに突っ走ってしまったせいで……。パパたちを傷つけて、あまつさえあんな……っ」
「いいんだ。洗脳魔法は君たちのせいじゃない。僕が反省しているのは、そこじゃないんだ」
ライルは真剣な表情で、十人の娘たちを真っ直ぐに見つめた。
「ゼタから、あの『愛と隷属の呪縛陣』の仕組みを聞いた。
あれは、対象の心の中にある『最も巨大な愛情』を反転させ、術者へ向けさせる魔法だそうだ。……つまり、君たちが洗脳されてしまった最大の原因は、**『僕への愛情が行き場をなくして、宙に浮いた状態になっていたから』**なんだ」
「宙に浮いた愛情……」
銀髪のリーフェが、ハッとして顔を上げる。
「君たちは女神としての規格外の力と、大人の女性としての完璧な美しさを持っている。
でも、僕はずっと君たちを『手放したくない可愛い子供』として扱ってきた。誰にも嫁にやるつもりはなかったが、かといって、君たちのその大きすぎる愛情に『明確な答え(形)』を与えてこなかった」
それが、帝国に「心の隙」として付け込まれた最大の原因だった。
子供としての愛では収まりきらない。けれど、妻たちのようには愛してもらえない。
そのアンバランスな依存状態を、皇帝ガリウスに利用されてしまったのだ。
◇
【決断 ~空白の席を埋めるもの~】
ライルはスッと立ち上がり、十人の娘たちの前に進み出た。
そして、同化している最高神が「おいおい、本気か!?」と魂の中で驚愕するのを無視し、静かに、しかし絶対の覚悟を持って宣言した。
「ベイラ、リーフェ、ヘスティアー、ヘカッテ、アフロディテ……みんな。
君たちは、僕の魂から生まれた、神の分身だ。血の繋がった人間じゃない。だからこそ、君たちのその大きすぎる想いには、僕自身が『男』として、正面から応えなきゃいけないと気づいた」
娘たちの美しい瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。
「パ、パパ……? それって……」
ヘスティアーの琥珀色の瞳が揺れる。
ライルは、マジックバッグから「十個の真珠の指輪」を取り出した。
それは、昨夜ライルが自身の幸運と魔力を結晶化させて創り出した、世界に一つだけの指輪。
「君たちが15歳の誕生日を迎える日。……僕と、正式に結婚してほしい。
もう、君たちの心を宙ぶらりんにはさせない。僕の『娘』としてじゃなく、僕の『婚約者』として、これからの永遠の時間を一緒に生きてくれないか?」
それは、父親からの卒業宣言であり、十柱の女神に対する一世一代のプロポーズだった。
◇
【女神たちの歓喜と、ローレンツ家の新たな形】
シン……と、サロンが静まり返った。
十人の女神たちは、自身の目の前に差し出された指輪と、ライルの真剣な瞳を交互に見つめ――。
「あ……ああ……っ!!」
次の瞬間、大粒の涙をポロポロとこぼしながら、全員が一斉にライルに飛びかかった。
「パパぁっ……! ううん、あなたっ!!」
「夢みたい……っ! ずっと、ずっとパパのお嫁さんになりたかったの!!」
「私たち、絶対に世界一幸せな妻になりますわ!!」
身長190センチ、股下110センチの完璧なプロポーションを持つ十人の美女たちに押し倒され、ライルは再びサロンの絨毯に埋没した。
だが、かつての「子供からのじゃれつき」とは違う。彼女たちの瞳には、一人の女性としてライルを愛し抜くという、熱く、揺るぎない光が宿っていた。
「ちょっと、主さまが潰れてしまいますよ」
サクヤが苦笑しながら声をかける。
妻たちも、この結末を事前にライルから相談され、了承していた。
「ライルの魂から生まれた子たちなんだから、実質、私たちと同じ『ライルの半身』みたいなものだしね」と、ファンタジー世界特有の柔軟な倫理観(と夫への絶対の信頼)で受け入れてくれたのだ。
「ふふっ。これからは、私たち『先輩の妻』として、花嫁修業を厳しく指導しなくてはいけませんね」
第一夫人のフィリアが優しく微笑むと、十人の女神たちは一斉に「はいっ! お義母様!!」と元気よく返事をした。
「……我が王。本当に、規格外にも程があります」
部屋の隅で控えていたメイドのゼタ(元魔王)が、呆れと深い敬意の混じったため息をついた。
帝国という強大な敵を滅ぼしただけでなく、その危機すらも利用して、家族の絆を「物理的にも精神的にも」完全なものへと昇華させてしまったのだから。
かくして。
皇帝の卑劣な罠は、ライルと十柱の女神たちを「真の夫婦(婚約者)」へと結びつける、最高のスパイス(結果オーライ)となって終わった。
彼女たちが15歳を迎えるその日まで、ローレンツ家はさらに甘く、騒がしく、そして絶対に揺るがない無敵の幸せを謳歌していくことになる。




