第58話:大聖堂の死闘と、引き裂かれた女神たち
【帝都ゼクシア・大聖堂 ~開戦~】
正午。
帝都の中央にそびえる大聖堂では、荘厳な鐘の音が鳴り響き、ガリウス皇帝と十柱の女神たちによる『婚姻の儀』が始まろうとしていた。
純白のウェディングドレスに身を包んだ、身長190センチの絶世の美女たち。長く美しいストレートヘアが真昼の光に透け、彼女たちは虚ろな瞳でガリウスに傅いていた。
「さあ、私の愛しい花嫁たちよ。永遠の誓いを――」
ドゴォォォォォォンッ!!!
その時、大聖堂の巨大なステンドグラスと天井が、黄金の覇気によって物理的に粉砕された。
降り注ぐガラスの雨の中、舞い降りたのは、怒りに瞳を燃やす神王・ライル。
「……その汚い手で、僕の娘たちに触れるな!!」
「来たか、神王。だが、遅かったな」
ガリウスは玉座から一歩も動かず、冷酷に指を鳴らした。
「やれ、私の妻たち。お前たちの愛を脅かす敵を排除しろ」
「「「はい。最愛のご主人様」」」
ウェディングドレス姿の娘たちが、一斉にライルへと殺意を向けた。
◇
【絶対防衛戦 ~無敵の父の弱点~】
「パパの……いや、ご主人様の敵!!」
三女ヘスティアーが、純白のドレスを翻しながら、神滅の白炎をライルに向けて放つ。
さらに、四女ヘカッテが重力を操作し、ライルの動きを泥沼のように重く縛り付けた。
「くっ……!」
ライルは防御結界を展開するが、190センチの神の器から放たれる圧倒的な魔力の連続攻撃に、結界はガラスのように軋む。
娘たちに手加減はない。彼女たちの瞳には、ライルが「最愛の夫を殺しに来た悪鬼」として映っているのだ。
ライルは剣を抜けない。少しでも反撃の覇気を放てば、洗脳で防御の甘くなっている娘たちの魂ごと破壊してしまう。
「死になさい、侵入者!」
長女ベイラが放った絶対零度の氷槍が、ライルの肩を掠め、鮮血が舞う。
「ライル!!」
そこへ、サクヤ、四人の妻たち、そして神魔ゼタが空間転移で駆けつけた。
「ゼタ! サクヤ! 僕が囮になる、その間に結界で娘たちを分断しろ!」
「承知いたしました、我が王!」
ゼタが神魔の力で大聖堂の空間を強制的に切り離し、サクヤたち妻が、本来の母親としての愛と魔力で、突進してくる娘たちに組み付いた。
「ベイラ! ヘスティアー! 目を覚ましなさい!」
サクヤが長女ベイラを抱きすくめ、ゼタが用意した『強制解呪の転移陣』へと押し込む。
激しい抵抗と乱戦の中、ライルたちは傷だらけになりながらも、ベイラやヘスティアーを含む**「五人の娘」**を転移陣に放り込むことに成功した。
「よし! あと五人……っ!」
ライルが残りの娘たちに手を伸ばした、その時だった。
◇
【最悪の誓い ~精神崩壊~】
「させんよ。……『空間隔絶・絶対領域』」
ガリウスが、玉座の周囲に皇帝の命を触媒とした超高密度の防壁を展開した。
その内側には、銀髪のリーフェ、星空の髪のアフロディテを含む、残る五人の娘たちが取り残されていた。
「リーフェ! アフロディテ!!」
ライルが防壁を叩くが、皇帝の命を懸けた結界はすぐには砕けない。
防壁の内側で、ガリウスは血を吐きながらも、狂気的な笑みを浮かべてリーフェの腰を引き寄せた。
「さあ……儀式の続きだ。永遠の愛の誓い(キス)を」
「やめろぉぉぉっ!!」
ライルの絶叫が響く中、ガリウスの唇が、洗脳されたリーフェの唇に重なった。
アフロディテたち他の四人にも、魔導具を通じた「強制的な愛の誓約」が刻み込まれる。
その瞬間。
リーフェの美しい銀色の瞳が、極限まで見開かれた。
『……あ……ぁ……』
彼女の脳内で、洗脳による「ガリウスへの愛」と、魂の底に刻まれた「パパ(ライル)への絶対の愛」が、誓いのキスをトリガーにして激しく衝突した。
信じていたもの、愛していたものが完全に矛盾し、バグを起こす。
『あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』
大聖堂に、悲痛な絶叫が響き渡った。
リーフェも、アフロディテたちも、純白のドレスを血が滲むほど強く握りしめ、そのまま糸が切れた人形のように、ガリウスの足元へ崩れ落ちた。
洗脳と偽りの愛に引き裂かれ、彼女たちの精神が**「崩壊」**したのだ。
◇
【残されたタイムリミット】
「リーフェ!!」
ライルが防壁を叩き割ろうと拳を振り上げる。
「無駄だ、神王。彼女たちの精神は今、完全に壊れた」
ガリウスが、崩れ落ちたリーフェの長い髪を撫でながら、ライルを嘲笑った。
「貴様らは、間一髪で五人を連れ帰るのが精一杯だったようだな。
……だが、この五人はすでに私の『妻』となった。精神が壊れようと関係ない。今宵、この五人と床入りを果たし、その純潔を散らして完全に私のモノとする!
肉体に不可逆の快楽と絶望が刻まれれば、彼女たちの精神は二度と元には戻らん!」
「……ガリウスゥゥッ!!」
「主さま! いけません、これ以上は帝国の全軍が結集します! 一度引いて、救出した五人の洗脳を解かなければ!」
サクヤが、血の涙を流すライルを背後から必死に羽交い締めにして止めた。
ライルは、床に倒れ伏す愛しき五人の娘たちを、ガラス越しの結界から見つめた。
今ここで結界破壊に時間をかければ、救い出したベイラたち五人の洗脳を解く前に、味方が全滅するリスクがある。
「……必ず、助けに来る。絶対にだ」
ライルは奥歯を噛み砕くほどの怒りを飲み込み、サクヤたちと共に転移陣へと飛び込み、大聖堂からの一時撤退を余儀なくされた。
残されたのは、精神が崩壊した五人の娘と、今宵の「床入り(純潔の喪失)」を宣言する冷酷な皇帝。
夜が来るまで、あと半日。
救い出した五人の洗脳を解除し、精神を壊された五人を「不可逆の絶望」から救い出すための、極限のタイムアタックが始まった。




